第1巻「Fourth Wall Breaking」:2章
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主POV:冷泉
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時間通りに新宿に来て、僕は僕たちがよく待ち合わせ場所にする駅の出口で姉さんに会う。
「来たよ、姉さん」
「あっ、レーセン君、いいタイミングだわ。」
答えをもう知っていても、僕は姉さんに聞いた。
「待たせた?」
「ちょっとだけよ、気にしないで。」
この人は僕の姉さん手塚汀梨、24歳の新人声優だ、姉さんは長いウェーブのかかった髪、美人な顔、そしてかなり大きなバストの持ち主さ。
姉さんはジャケットを羽織らず袖だけ通し、ジャケットの胴体を後ろに小さいマントのように垂らしかけ、左脚のみにいろんなパターンが付いている黒いストッキングを穿いていた。
姉さんが声優の仕事を始めたのはつい1年前からだ。僕たちの両親はビジネスの専門学校から卒業できなければ仕事をさせないと言ったから、未だ新人のままで、残念ながら姉さんが今まで演じてきたキャラの大半はただのモブキャラさ。
でも僕は姉さんを尊敬している。姉さんは暇な時にミコミコで歌い手をやって、多くのシングロイド曲とアニソンをカバーし、40万の再生数を取れている歌声の持ち主でもあるんだ。
しかし残念なことに姉さんには確かにボーカルの才能があるけど、楽器を使う才能は全くない。どうやら僕と姉さんが共有する遺伝形質はウェーブがかった髪だけじゃなさそうだね。
「では行きましょうか、レーセン君」
僕たちは新宿のショッピング街に向かうたび、姉さんは楽しげに話をする。
「で、レーセン君はその噂を聞いた?」
「なんの?」
「どうやらテンニンドウ本部の辺りに本物のPQが見つけられたらしいよ。屋上に掛け抜く本物の生きているポタモンをね」
僕はちょっとクスクス笑って、その噂を冗談に流した。
「へぇ、おかしいこというねぇ、姉さん?生きているポタモンだって?それはただ酔っ払いが見た幻覚なのでは?」
姉さんはそれに応じてスマホを持ち上げてきてネットで検索する。
「でもその動画があったらしいよ、ちょっと待ってね。」
どうやら姉さんは冗談を言っているわけじゃないみたいだ。でもヒナゲシが漏らした情報ではこれから公表されるニュースはPQを中心にする物のようだし、テンニンドウがそのマスコットをプロモートするために何かを企んでいても不思議じゃない。
それともテンニンドウがCG付きの映像を造って噂を広げたのでは?そのPQの正体は自動のぬいぐるみだったりとか?また新しいホログラム技術か?姉さんの『噂』のその謎のPQっぽいUMAの存在を説明するにはそう考えるだろうね。
探している映像を見つけた姉さんは僕に携帯を見せてくる。
「ほら。」
姉さんが再生ボタンを押すと、映像に映ってくるのはぼやけた屋上に駆け抜ける青い閃きだ。その光の色は確かにアニメ版のPQの電気と全く同じ色合いに見えるが、その青い光源を認識するには映像が曖昧で震えすぎている。
映像は15秒だけで終って、一秒もその光源は映されていなかった。動画が終った後、僕はがっかりとした無表情になる。
「ポタモンみたいなもん全然見えていないけどね、姉さん。」
口に発した言葉は従順だが、僕の手はジャケットに指で本音を落書きをしてしまう。
<くだらないね。>
だがフウロと同じように、姉さんも僕のクセには鋭く分かっていて、何を落書きしたまで読めるフウロほど鋭くはないが、それでも僕があまりいいことを落書きすることはないと分かっている。
「もう、レーセン君ったら。姉さんだってこれは本物じゃないと分かっているけど、ちょっとくらい面白がってもいいでしょう?ただテンニンドウは本当に何をやろうとしているのか気になっているわ。」
僕は冗談で返す。
「それはキャラが声を出す新しいポタモンゲームの公表だといいね、それなら姉さんは一人のコロッセオリーダーか、またはポタモンチャンピオンの役を貰えるかもしれないでしょ?」
姉さんは笑ってくる。
「それが本当ならいいよね。」
僕と姉さんは新宿のショッピング街を回って姉さんの彼氏ワルトさんのための誕生日プレゼントを探す。どこかの店に目を付く前に、姉さんは僕に聞いてくる。
「ねえレーセン君、男子から見てワルトにいいプレゼントはなんだと思う?」
「『テオマキア』のBDボックスセットはどうかな?」
「なんでテオマキアなの?ワルトなら『ソフトキャンD』の方がよくない?」
僕は肩をすくめて返事をした。
「僕はただ毎日家の棚に見ても構わない物を提案しているだけよ。何より僕たちはみんな『テオマキア』が好きでしょ、みんな一緒に見られる物の方がいいじゃない?」
姉さんの彼氏ワルトさんは日本に来て高級ホテルのイタリアンレストランのヘッドシェフとして働いているアメリカ人で、彼こそが僕はオタクを一絡げにして責められない理由であるさ。
僕は普段、オタクの浅さに対しては容赦ないが、ワルトさんは仕事をしっかりする映画のスーパーヒーローのような体系を持つハンサムな男性であると同時にハードコアーのオタクでもある。その証拠に僕んちのスタジオにあるフィギュアとCDもほとんど彼の物さ。
そしてワルトさんはスーパーヒーロー映画の『トール』を演じる男優にめっちゃ似ているからフウロとヒナゲシによく『トールさん』と呼ばれている。
姉さんは頭を横に振りながら目を細めて、他のプレゼントにできる物を考える。
「服でもいいんじゃないかしら?」
「それはプレゼントにしてはちょっと地味じゃない?」
「そうだね、なら私から作ってあげようかな?コスプレとか?」
「そんなことできるの?」
「ヒナゲシちゃんの助けを借りれば平気だわ、レーセン君は構わないよね?」
「別にいいよ、今あの子にやって欲しいことは他に何もないから。」
「じゃあ誰のコスプレがいいと思う?」
「一番簡単な答えならトールでしょ?」
「はは、確かに簡単ね、むしろ簡単すぎるわ、他には?」
僕は数秒考えてからまた話す。
「・・・・・・それじゃあ分からないよ。いくらヒナゲシの助けがあっても二人でそんな短時間でコスプレ衣装を作るのは面倒くさいでしょう?手作りの物をあげたいならケーキとかでいいんじゃないかな?」
姉さんはため息を吐いた。
「だってさぁ、ワルトはハイクラスのシェフだし、私の料理じゃ満足できないでしょう。必ずおいしいと言ってくるのは当然だけど、記憶に残す物にならないと思うわ。」
「あれも一理あるね。じゃあ新しいクッキングセットなら?ワルトさんがうちのフライパンはもう古すぎだって文句言っていたでしょ?」
姉さんは片手を顎に添えて、返事する前に考えを処理しようとしている。
「それはどうでしょうね、私たち自身のために使われる物をプレゼントにするなんてちょっと自分勝手すぎない?それでも確かにフライパンを欲しがっているのも本当だから別にいいのかもしれないけど、それはレーセン君が彼にあげるプレゼントでいいかしら?」
僕はそっぽを向いた。自分は何もあげなくて、姉さんに手伝うだけで充分だと思っていたよ。そう考えるのもアンチソーシャルで自分勝手に聞こえるかもしれないが、僕は結局できれば金を余計に払いたくないと考えているんでね。
低級のフライパンなら高く払わないで済むけど、ハイクラスのシェフに安っぽいフライパンをあげるなんて侮辱と同然じゃないか。あの人を喜ばせたいなら数万円の高級の奴じゃなきゃダメみたいだし。
僕の手がクセでジャケットの腰に動くと、姉さんは僕がやろうとしているのを見て、僕が文句を落書きする前に軽い笑顔で話してくる。
「心配ないで、レーセン君。フライパンのお代は姉さんが払うから、レーセン君は彼に渡すだけでいいわ。」
僕は姉さんの方を向いた。
「それで姉さんはまたもう一つのプレゼントにも払うの?それはちょっときつくない?」
「そうなるけど仕方ないわ、だからできればもう一つはあまり高いものじゃない方が助かるわ。」
僕は周りを見渡し、高級フライパンより安いが代わりに、感情的価値の高い物を売っていそうな店を探し、CDショップが目に入ったので僕は切り出した。
「なら姉さんはワルトさんが好きなアニソンを全部歌ってCDに編集すればどうかな?」
その提案を聞いたら、姉さんは横から喜びでいきなり僕を抱いてくる。
「いいアイディアね、レーセン君!ワルトが好きな曲のCDならもうほとんど持っているし、後2-3枚くらいで全部揃えるかな?」
横から抱いてくると、姉さんの胸が僕の腕に押し当たる。僕は真顔を保とうとしているが、周りの人から見れば僕たちは姉弟であることは明らかでも、こんな公共の場で女性とこういうコンタクトしているのは恥ずかしいよ。
「いっ、行こうよ。姉さん、人が見ているから。」
「あ、ごめん、では行きましょう。」
僕たちはそこから20分ほどCDショップで過ごし、どの曲が必要で、どの曲のCDはもう持っているか思い出し、僕たちはようやく大人気ロボットアニメ『ガンダインExxied』の曲のCDを2枚手に入れた。
CDショップから去った後、僕たちは次にデパートの調理器具コーナーに行ってフライパンを探した。調理器具コーナーに入ってきたら、僕はデパートの隣のビルを見た。そこは1時間ほど前の8時になったらすぐに消灯する新宿の駅の近くにある小さなビルさ。
そのビルはポタモンホーム。ポタモンゲーム内に登場する、プレイヤーのポタモンに無料の全回復サービスを施す施設の名前から由来したビルだが、この世界でのポタモンホームはまぁ、ポタモンに関するグッズ、ポタモンゲームその物、ゲーム機、ぬいぐるみ、カード、服、家具などの品を売って、時々にポタモンイベントを開催する小型デパートみたいな物さ。
そこにはポタモンをテーマとするカフェと遊び場まであるから、要するにヒナゲシの楽園だ。ただそこにポタモンテーマのホテルがあればあの子はもう永久にそこに住んでいるだろうね。
しかし今その楽園の中こそ真っ暗だけど、ビルの外観はまだネオンが点いていて、数ヶ月後に売り出されるポタモンゲームを宣伝している。
でもその瞬間、隣のビルの4階の窓から見る僕はそのビルの中を掛け抜く青い閃きを捉えた。
「なにっ?」
それはびっくりしたが、電力消耗量の高い国世界5位の首都に育てられてきた僕はその光度にさほど動揺せず、それ以上に窓に近づけさせるほどに興味をひかれた。
その瞬間、見えてきたのは姉さんが1時間ほど前に話した生きる都市伝説だ。
青い電流に包まれる奇妙な白い生き物がビルの廊下を掛け抜いていた。
生きている、生身のピッキュウ。
自分の目でその生き物を確かめることができれば、僕はそいつが本物だと断言できる。それに今見た生き物は少なくともとても、とても(・・・)、本物っぽく見えた。現代ホログラムにしては奴は固体の寸法がありすぎて、現代の起動ぬいぐるみにしては動きが円滑すぎる。
その本物のポタモンを見たら、そのような生き物はこんな世界に存在できるはずがないし、僕は幻覚を見ているかと考えるより、僕の論理の処理はこんなリアルなホログラムや起動技術はまた存在しない、またはそれが達成できてもこんなアニメのリスを再現することに利用されるはずがないと考えて、脳が辿り着く結論はそのPQが本物かどうかではなく、それは追う価値のある物なのかという考えに至った。
そいつさえ捕らえれば僕は多くの金を手に入られるかもしれない。
姉さんを驚かせたくないから僕はただ軽く肩に叩いて、ガンダインExxiedのCDの袋を持ったままポタモンホームビルに近い出口に向かった。
「ちょっと何かを買ってくるから、姉さんはここで待ってて!」
僕が出た出口には狭い裏通りがあって、その中には僕がさっきPQを見た同じ側にポタモンホームの非常口がある。その非常口はなぜか開いていて、扉その物の上にある誘導灯の緑のサインの明かりも消されている。全てはPQか、または他の誰かがこの扉に入った証拠だ。
僕は扉に近寄ったら、また考えていることを右手の指で左手の掌に落書きする。
<ちょっと不安だが、行きますか>
ドアに入って階段を上ると、僕はスマホを取り出して明かりに使う。この非常階段のスペースは四角く吹き抜け、ビルの本体から離れた緊急の場合のみに使われる用のデザインだ。
なぜこんなことをするのか僕にもよく分からなくて、今でもこの衝動的な決断はバカバカしいとは否定できなくても、僕はPQの後を追うことに躊躇いはないんだ。
1、2、3階に進んだら、この段階の途中の非常口は全部閉まっていて、その先の4階で光っているものが見えた。僕はあまりポタモンホームに来たことはないが、確か客がアクセスできるのは1から3階だけで、4と5階はスタッフのエリアだっけか。
そして4階に辿り着くと、予想通りにドアが開いている。PQはこの階に入ったんだろう。
しかし4階のドアに入ると、僕はこっちを向いている監視カメラが目に入り一瞬びびってしまったが、よく見れば、カメラの起動を表示する赤い光も消えている。つまりこのカメラはPQ、または他の侵入者によって消されたんだろう。
ここまでやれたことは認めてあげよう。たとえ侵入しているここがたかが子供向けのゲームフランチャイズのためのビルだとしても。
僕は警戒したまま、ポタモンホームビルの4階のもっと奥へ進み、廊下の角を曲がると、一つの部屋の開かれたドアから出ている光を目にした。
部屋から注ぎ出してくる光の色はディスコパーティのように発作を起こさせるほど目まぐるしく移り変わるが、その様々な色の中心に一つの色合いがある。PQの電気の輝きと同じ青だ。
見つけたぞ、電気リスよ。
目標に近づいているとしても、今更油断はできない、その移り変わるスペクトルの中心の青は何から出されているのかは分かるが、他の色はどこから照らしているんだ?PQは一体何をしている?
その時僕はそいつが自分より素早く、おそらく少なくともスタンガンと同じぐらいの電力を持つ目標を捕獲するにはどれほど準備不足だと気付いてくる。僕が持っているのはただのビニール袋と2枚のCDだけ。相手はともかく、これはどう考えても戦闘の勝率を上げる
物じゃない。
こっちは人間だから頭脳で勝てると信じたいが、それでもこの相手も確かに監視カメラのような邪魔な機械を認識できるだけでなく、処理する方法まで分かる知性と感覚性があることは否定できない。
そう、僕の相手はただの動物ではない、こいつは最小限でも人間並の知力を持つアニメのリスだ。
僕は渡った廊下に戻り、窓から注いでくる光で開けられるドアを探す。それは本当に雑で無鉄砲かもしれないが、少なくともPQの捕獲に役に立てる物を探す方がいいか。
廊下の途中にある着ぐるみの棚を見つけて、そこから数枚のゴムのシャツとズボンを取った。これはPQの電撃を回避しながら奴を縛るのに使えるかもしれない。後はその棚から鉄棒を取ってゴム手袋をし、これはすぐにPQを捕獲できなかった場合に奴を叩いてから縛る時に使う武器にするんだ。本物のポタモンゲームのように。
そのリスは確実にゲーム版やアニメ版の中のように電気を作れるとしても、それでもアニメ版と違って出せる限界はあるはずだろう。ゲーム版だってスタミナの限界とかはあるし。
だからこの棒を使って電気を無駄に出させれば、いずれ奴も疲れるはず。アマゾンの人々が電気ウナギを捕獲する同じ方法で。電気ウナギより小さくて、早く動く生き物にしては、PQが放電に無駄に使えるスタミナは少ないと考えてもいいだろうね。そのうちに疲弊したら、このゴム衣装で縛りさえすれば完了さ。
そして忘れないように僕はガンダインExxiedのCDの袋をジャケットのポケットに入れ、部屋から出てPQのいる部屋に戻った。
部屋に入る前に、僕は戦闘の覚悟を決めるため一度深呼吸する。僕はこうやっているのは自分のための金を稼ぐためではない、これは百合飾りに手伝うプロの音楽家を雇うためだ。これはリリックスのためだ。
冷静な覚悟を決めたら僕は光が注ぎ出す部屋の前まで踏み出し、ようやく生身のポタモンに向き合う。僕の目の前には本物のPQがいる。現代のロボット、特に身長40cmの物だとはとても考えられない動きで部屋のテーブルに座っている。
僕はやっと自分の目でPQを見ている。首には青い綿毛と先とがった耳の先を持つ電気の白い齧歯動物。その両頬には黄色の丸があり、手足の先は青くて腹にある大きな青い丸はふわふわの尻尾まで伸びて青と黄色の稲妻形になっている。
PQの頬と尻尾にはいくつかのワイヤーが繋がっていて、奴の目の前の黄色のノートパソコンをこの部屋にある数台のパソコンに接続している。どうやらこの部屋はこの建物のサーバールームのようだ。
部屋のパソコンの画面の色は目まぐるしく移り変わっていて、ハードドライブの内容が高速に引き出され、このリスはこのサーバーからあるファイルを探しているようだ。
自分に繋いでいる数線のワイヤーで動けないがドアの方に向いているから生身のポタモンは部屋の前に歩いてくる僕を見えてきて、怒った顔で唸った。
「キュウ!誰だお前は!?なんでここにいるキュ!」
喋った!僕の目の前のポタモンは生きているだけではなく、ゲーム版やアニメ版の奴と違って喋った!しかもアニメ版と同じいつもキュウキュウとしか言えない甲高い声で!
それでも僕は答えるつもりはない。ただ即席の武器を硬く握ってできる限り早く奴を叩いて、終わりにするためにそのポタモンに一歩近づく。するとその時、僕が知っている少女の声がPQの後ろのパソコンから僕を呼びかけてきた。
「レーセンさん?」
その不気味なほどよく知っている声を聞いた僕はちょっとひるみ、声の持ち主を確認しにPQの前のノートパソコンに見下ろした。それはポタモンの模様のある、ついさっき見てきた見覚えのある限定版のパソコンだ。
「ヒナゲシ?」
PQはちょっと下がって自分についているワイヤーを全部抜き、床に下りて不満に鼻を鳴らす。そしてワイヤーが抜かれた瞬間、部屋の中のパソコンはもうPQからのインプットは中断されて画面は全部同時にフリーズする。
「キェッ。」
PQは短く小さい丸っこい手を耳に掴んで引き下ろし、自分の身体をぼやけたモザイクと電気のような白い光に包んでから拡大した。まるでアニメでみるポタモンの進化の効果だけどちょっと違う。
光が消えたらPQはもう姿を消してその代わりにいるのは床に座っているヒナゲシだ。少女はまるで人生にやった最悪なことがバレたような罪悪感を抱いた目で僕を見る。
ヒナゲシは凄く恥かしそうにして何も言えそうにないから、僕は先に話しかける。
「ヒナゲシ、なぜ君がここに?いや、それより・・・・・・今のは何?」
ヒナゲシは困った笑いと躊躇っている声で返事してきて、僕の目を避けている。
「今のて・・・・・・わたしがPQから変身した・・・・・・ことだよね?」
少女は僕に作り笑いを見せようとする、まるでそうすればこの質問に答える必要はなくなると考えているみたいに。
僕は真っ直ぐな声で返事して、可愛い子ぶりしたら僕を誤魔化せるだろうという彼女の希望をすぐに砕いた。
「そう、君はどうやってそのリスから変身したんだ?」
ヒナゲシは僕から目を逸らし続けながら気まずそうに片手で帽子のつばを掴んでしっかりしようとして、手と帽子のつばで僕を自分の視線から覆っている。それでも彼女は僕が自分の前に立っていて答えを要求されている状況は変らないんだ。
ほんの数秒だけ時間稼ぎしたいような迷いの声で、ヒナゲシは状況を明るくしようとする不器用な笑いとともにいつもどおりの返事をしてきた。
「えへへっ・・・・・・魔法少女・・・・・・マジック・・・・・・?」
明確な答えから避けるいつもどおりの答えだ、いつもどおりの僕だったらこのふざけた答えで逃がせるが、今度は違うんだ。
「分かった・・・・・・」
『魔法少女マジック』という答えが受け入れられたと思ったヒナゲシの作り笑いは安心した本物の笑いに変わるが、彼女のその誤解を砕く勢いで僕は正論で話し続ける。
「どうやらお前は最初からヒナゲシじゃないよな、この怪物め!」
「えっ、え?なに言ってるのレーセンさん!わたしはわたしだよ!」
「とぼけるな、お前はどうやって僕とヒナゲシを知っているのかは分からんが、お前は僕を騙すために彼女に変身している怪物だ。」
この非難はバカげているように聞こえると分かっている。それでもそれは今の僕には一番つじつまの合う説明だ。僕がヒナゲシに変身するPQを見た。40cmのリスが156cmの女子に変身して、無から4倍くらいの質量を作り出したと見た。
そのようなことだけできるというのなら、それはもう質量保存の法則を破っている意味になる。それさえやれた時点で、不信なんてもうないんだ!
僕はさっきより武器を硬く握る。目の前のこの怪物は本当に変身ができ、自由に物理法則を破れるなら、心配すべきなのはもう大きいリスから受けられる電撃どころじゃなくなった。たったPQからヒナゲシに変身できることだけで、僕の目の前にある生き物の脅威レベルも抜本的に変貌し上昇した。警戒しないと致命傷だけでは済まないレベルだ。
だが逆に見れば、こいつを捕獲できたら報酬もすごく大きくなるはずだ。僕が捕獲しようとしているのは電気UMAだけじゃなく、現代物理学に革命を起こせる物だから!
僕は自分を捕獲する決心がついたと見たら、怪物は僕を躊躇わせるために自分がヒナゲシだとまだ言い張る。
「信じてよレーセンさん!わたしはわたしだと証明できるから!」
怪物は僕を見た瞬間に攻撃してくる代わりにまた説得しようとしているのなら、僕も奴を言葉で抑えようか。僕の無双の頭脳では、むしろ言葉の対決する方が勝ち目はあるだけではなく、危険すぎる怪物相手との直接の戦闘を回避できる。
「信じて欲しいならここを片付けて僕に縛らせろ、今すぐここから去るんだ。」
怪物は左右にちらっと見て、フリーズされた画面で探している物はあるかどうかを確認しているけど、欲しい物は見つからなくてため息を吐いた。
「はぁ。」
怪物は立ち直り、僕の命令に従おうと床にあるノートパソコンのカバンを拾い上げて荷造りしようとする。
「なら仕方ないね。」
怪物がそんなに簡単に僕に従っているのを見たら、ちょっと罪悪感を感じてくるよ。こいつは変身できるバケモノかもしれないけど、奴は僕の友人の妹の形をしている。僕が長年知り合ってきた無防備の15歳の女子の。
鉄棒を握ったまま僕はゴムのシャツを取って広げ、これを使って怪物の手を縛る準備をする。
怪物は服従的だからって、いや、服従的に見えているからこそ警戒しなければならない。これでも奴は変身できるから、一瞬でも油断した隙を狙って攻撃してくるかもしれない。
「そうだ、ゆっくりと。」
だがその瞬間PQの声が僕を遮って怪物の手が触っているパソコンから響いてくる。
「うざいな、キュ!いやだ、ポッピー!ボクらはこう簡単に諦めるわけにはいきゃないんだキュ!」
怪物の身体はいきなりまた光に包まれてヒナゲシの体からPQのサイズに小さくなり、光が消えた途端PQは僕に飛びかかってきながら甲高い声で唸ってくる。
「このままボクらを見たところを忘れるまで電撃を押し込んでやるんだキュ!」
だが今度ヒナゲシの焦った声もその同じパソコンから叫び返す。
「いや、PQ!やめて!」
しかしもう遅い、ポタモンに攻撃するなと言う少女の声に逆らい、PQは僕の胸に突進して電撃の爆発を放ち、僕が張ったゴムシャツをすり抜けた。
「ガァっ!!?」