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第1巻「Fourth Wall Breaking」:1章

・・・・・・・・・・・・・・・

主POV:冷泉

・・・・・・・・・・・・・・・


学校のベルが鳴くと、僕はすぐ荷物をカバンに詰めて一刻も早く出発の準備をする、急いでいてもきちんとしている荷作りで、いつも帰る準備を一番速く完成できるのは僕だ。

今日はまた珍しく昼下がりに概日リズムが知的能力を鈍らせたせいで僕は授業のにあまり集中できなかった一日だ、その数時間後で復活できたとしても、再び目覚めた脳はまたあまり授業に集中する気分にならない。

荷作りが完成したら、僕は自分の3つ後ろの席にいるいつも目立つ頭に軍の緑色ベレー帽が乗っているもう一人の学生に話しかける、彼も荷を造っているが他のクラスメートと同じく急いで教室から離れる様子はない。

「行こう、フウロ。」

フウロも最後の本をカバンに入れて立ち上がりながら返事する。

「分ぁった、分ぁった。途中で何か食いもん拾ってかね?」

「いいんだ、7時に姉さんと買い物に行かなければならないからさっそくスタジオに行って作業に入ろう。」

「まぁ、オレも別に腹へっていないけど、お前んちにはスナックとか何かあるんだよな?」

僕は応じに頷くとフウロは親指を立てて笑顔を返してくる。こいつは田尻風露(たじりふうろ)、10年以上に付き合いがあるた僕の友人だ。頭がよくて、僕よりスポーツできるから女子たちと彼を勧誘したい部たちには人気がある。

そしてインドアでも外さない印象的な緑色のベレー帽を見れば分かるかと思うけど、フウロはいい奴に見えるが、相当な銃と軍事オタクでもあるんだ。それでも彼みたいな奴は無害の方のオタクだと思うがね。

僕の名前は手塚冷泉(てずかれいせん)、17歳の高校3年生で、プロではないがアニメ評論家なんだ。

僕は人付き合いが下手でこの現代社会の中では僕は不愉快な奴だとよく自覚している。もっとも、人と話しても『こいつなんか調子乗りすぎないか』という印象を与えかねないのも承知だ。だけどその欠点を直す気ないんだ。

でも必要となれば他人と話せないわけでもないんだ、それは苦手なことでも、僕は空気を読める奴だから。

僕はだいたいオールラウンダー系かな。力仕事以外はほとんど何でも平均以上にこなせるけど特別に優秀と言えるスキルは一つしかない、つまり僕はRPGキャラだったら物理攻撃も、魔法も、回復もできるのにどれにも優れていないから誰にも選ばれないキャラになるだろう。

しかし僕にある唯一の優秀なスキルは無双の反論スキルだ、つまりあらゆる物に欠点を見切って議論には負かされない調子に乗る奴になるスキルだ。無論、このスキルの攻撃を受ける側になった人々にはよく思われていないけどね。

そして勿論、僕はアニメの評論でこのスキルをよく使う。そして多くのアニメに向く容赦のなさ、また無論な結果で僕はアニメコミュニティの中では厳しすぎるが正論しか言わないそれなりに知らされている哲学的な評論家さ。


僕とフウロが教室から出て階段を下りた時、隣のクラスの男子がフウロに話しかけてくる、それはバスケ部の連中だ。

「よう、田尻、今日は暇か?オレらの部に手を貸してくれるなら助けになれるぜ。」

帰り道に邪魔してくる障害を見て、僕は微妙に指でカバンの上に空書きする。

<邪魔しないで>

これは僕のクセなんだ。指とかで何かの表面に考えていることを書く、そうやって表情を使わず誰にもイライラを見させないで不満を発散できるんだ。

これはただ僕がこの嫌な人間社会の中で生き残る戦略として適応したクセだ。だから言ったとおり、僕は他人と話すのは苦手でも、自分と周りの人に迷惑を作らないための手段ぐらいは分かっている。

フウロは弁解がましく右手を振りながらバスケ部員に返事する。

「すまない、今日はもう他の用事があるからダメだ。木曜なら助けてやれるよ。」

彼はどこの部活にも入っていなくて、フウロはいつでもスポーツ部の勧誘を否定しているけど、そのお人よしの性格でたまには練習に手伝っているんだ。

僕とフウロは長い付き合いで昔の僕がもっと優しかった(バカな)奴じゃなかったら、僕とフウロは友達になれなかっただろうね。

バスケ部の男子たちは思いやりを持って頷く。

「分かった、なら木曜は頼むぜ。」

バスケ部の奴らが去ったら、僕はフウロに話しかける。

「一緒に行けばいいのに。」

勿論それは嘘だ、僕はそれを言ったのはただ受動的のフリするためだけ。しかし長く僕の友達やっていたフウロにはそんなダサい嘘は通じなかった。

「お前はあいつらが出てきて時に厄介だと文句言ったからよくないだろ?」

「げっ、僕が誰にも気付かれないままで文句を発散できるためにそのクセになったと分かっているだろ?それを読んでどうすんだよ?とりあえず、今日は何か報告はあるか?」


一年ほど前から僕は日本の動画共有サイトであるミコミコ動画と国際動画共有サイトのU-Boatに人気を集めるためにオンライン動画プロジェクトを始めていたんだ。

けど自分だけでやれる進展は情けないくらい少ないので、そのうちにフウロとその妹が1週に3日手伝ってくれると言ってくれた。それでも僕が欲しがっているクオリティの動画を作れるまでは人手が足りないんだ。

しかし少なくとも授業中で気を取られず学校の成績を保つために、フウロにどれほどの報告があってもそれは放課後に言って欲しいと指示しておいたんだ。

フウロは僕に返事する。

「それはいい報告があるぜ、一人のミュージシャンをプロジェクトに参加するように説得できたってさぁ。」

「本当か?」

「そう、だがあくまで曲の方しかやらないがな、音声合成の方はやってくれないんだ。」

つまりプロジェクトには重要な人物になるが、プロジェクトを仕上げるにはこの人だけじゃ足りないわけか。

僕はこの人の事をもっと詳しく聞く。

「それでこの人の名前は?」

「本名はまた分からないが、ハンドルネームは『Communistnyan_peropero』だ。」

僕の表情は強張り、異論を唱えた。

「聞いたことない名前だ、でもそんな名前しているからまともな人間だとは思えないよ。」

「だからそうなるなって。お前が嫌いな物を好きだからって悪い奴になるわけでもないだろ。」

「お前がそういうなら悪くない奴かもしれないけど。それでもそれは僕には聞き覚えはない名前だよ。」

「調べた限りではミコミコでは結構有名だそうだ、平均動画の再生数は45,000で、そこから一番高いのは530,000までだ。動画は主に『萌え萌え❤大戦争』のパロディソングだ。だからクリエティビティには本当に頼れる奴じゃないかもしれないけど、作曲できるのは事実だ。」

それでも僕は懐疑的だ、特に新しいメンバーの業績が、僕が嫌いなゲームシリーズのパロディしかないと聞いた後には、だからこそミコミコの作曲家をかなり調べてきた僕にはこいつの名前を知らないわけが分かった。

「それともそいつが作った曲の歌詞はミコミコのR-18規則を弄るほどに露骨だから浅いアホ共と論争を見たい連中を集めるだけになるかもしれないだろ。」

フウロはため息しながら微笑む。

「だぁからぁもっとボジティブになってくれよ、レーセン。これからこの人と仕事することになるからさ。」

僕は返事に咳払いする。

「そうだね、そうだね。」


僕とフウロがやっているプロジェクトはシングロイドの歌シリーズさ。

シングロイドなのはプログラムに入力されるテキストから声を合成するプログラムだ。シングロイドのプログラムはボックスアートに乗っている声の持ち主の設定であって、誰とでも作曲できるバーチャルポップスターのキャラクターで表される。

正確にというと1950年以来に開発された電子辞書とかに使われる合成音声とはあまり変らないが、シングロイドは『身元』が持てることで世界中のセンセーションにしたんだ。特に日本ではシングロイドのメインマスコット『ヒマワリ・ミックス』は現代日本文化のシンボルになっている。

しかし他のシングロイド作曲家と違って、僕はただ自分の楽しみや名声のためではなく、他の野望のためにこのプロジェクトをやっている。でも残念ながら僕とフウロそしてその妹にはまともだと言える曲を作れる音楽の才能はないから、他人の力を借りるしかないんだ。

だからいくらこの1年間で様々な曲のためのコンセプト、歌詞、PVにする素材を用意してあっても、曲を実現させる音楽家がいないと一曲も作れないままでいるんだ。


学校から去って電車で15分かかった後、僕とフウロは僕が住んでいるアパートに、エレベーターで8階まで上がって、僕が住んでいるアパートの部屋に辿り着いた。

アパートの部屋は4人家族に適したかなり大きいサイズで、僕と僕の姉さんはそれぞれの小さい方の部屋があるが、僕の姉さんは(まだ新人)声優をしていて、僕のプロジェクトのためにも一番大きい寝室は僕たちが仕事をできる小さいスタジオに改造した。

スタジオの中には大きなテーブル、2台のノートパソコン、1台のパソコン、様々なCD、本そして主に姉さんの彼氏のフィギュアと他のアニメグッズが乗っている複数の棚があって、片隅には大きなクロゼットくらいのサイズの録音ブースがある。


テーブルには黄色のポタモン限定版ノートパソコンでインターネットしていて、座りながら胴体を無心で前後に振っている一人の少女がいる。スタジオに入ってくる僕とフウロに気を付くと、少女は僕たちに挨拶してくるんだ。

「あっ、アニキ、レーセンさん、お帰りー。」

この子は田尻雛芥子(たじりひなげし)、フウロの中学3年生の15歳の妹、彼女もフウロと同じくインドアでも帽子をかぶっている、彼女の場合は野球帽だ。どこに行っても帽子をかぶるから、多くの人はこの二人を『帽子兄妹』だと呼んでいる。

彼女はこのプロジェクトの絵師、僕が描いたキャラの絵の塗りと全部の背景を担当しているさ。

そして彼女は熱心のコスプレヤーでもあり、主には年齢に相応しく魔法少女のコスプレをよくする。僕の信頼に値する付き合いの長いチームメンバーとして、フウロとヒナゲシは僕の家の鍵を持っているんだからヒナゲシは先にここに入れたんだ。

フウロはヒナゲシの後ろに周り、ら妹のノートパソコンを覗き込む。

「今日は何を見ているの、ポッピーちゃん?」

『ポッピーちゃん』と言う名前は『雛芥子』というのは長くて書きにくいから、ヒナゲシ本人は他人によくその代わりに『ポッピーちゃん』と呼ぶようにと要求しているんだ。けど僕はこの子との付き合いは長くても僕はそう呼ばないことにしている。特に人前では。年下の女子をそんなあだ名で呼ぶのは恥ずかしいだろ。

ヒナゲシはウィンドウをスクロールダウンし、ゲームの複数のスクリーンショットを見せながら笑顔で自慢する。

「最新の『ルナ』と『ソーラー』のポタモンゲームのスクリーンショットをゲットしたよ、アニキ!だからネットで速報としてうpしてるよ!」


ヒナゲシは『ポタモン』というゲームシリーズの大ファンなんだ。そのゲームシリーズは僕が生まれた同じ年に最初に発売されたが、毎1-2年で新しいゲームがどんどん出てくることもあって今でも変わらず大人気だ。

ゲームの内容はそのゲームの世界に旅して、このシリーズのゲーム機は全部携帯機だから由来した『ポータブルモンスターズ』、略して『ポタモン』という生き物を捕まえて他のポタモンコーチとの対戦するという物だ。

実のところ、ヒナゲシの特徴的な帽子も初代ポタモンゲームとポタモンアニメの主人公であるジュンイチが被る同じ野球帽さ。

僕も少女の後ろまで歩いてそのスクリーンショットに見る。

「ほう、つまりPQもハイパーシンカを得るわけか、それは確かに大したニューズだ。君はこれをどうやって手に入れたの、ヒナゲシ?」

ヒナゲシはピースサインを見せてニコニコで返事する。

「魔法少女マジックだよ☆」

相変わらずの質問回避かよ、ヒナゲシは秘密にしたいか、直接に答えたくない、または自分も答えが分からない時に使ってくるいつもの答えだ。

それ以上にヒナゲシから答えを搾り出すつもりはないから僕は代わりにその情報に対し文句を言う。

「でもリザードラが二つのハイパーシンカを得た後にPQかぁ、それなのにPQの進化した段階のRQはまた使えないまま、なんて過大評価されたポタモンのえこひいきだ。」

PQは初代からポタモンのメインマスコットキャラだ。公式的には『ピッキュウ』と言う名前だけどよく『PQ』に略される電気力を使う青と黄色の縞を持つ白いリス。

ゲーム内の性能で判断すればPQには特別性がなく、進化の最終段階でもなくて他のポタモンよりパラメータは弱いのにそれでも全作品に登場して、ゲーム内でも特別に扱われ、それでも一番マスコミに取り上げられるポタモンだ。

だから『ハイパーシンカ』という戦闘用のシステムが紹介されて以来、他にハイパーシンカできるポタモンは全部進化の最終段階にいるのに、PQはいずれ例外になって中段階でハイパーシンカできるポタモンになるとはよく想定されていたことだ。

だから僕はPQがシリーズのマスコットであること以外に使えなくてすごく過大評価されたポタモンだと思っているんだ。


しかしヒナゲシは僕がPQに向いた侮辱に応じて不満を吐く。

「PQを悪言わないでよ、レーセンさん。」

それに応じて僕は議論した。

「どうした?君はPQのことなんてどうでもよかったんじゃないのか?」

「それはそうだけど・・・・・とりあえずPQには酷く言わないでよ。」

PQを庇う少女はまるで僕がそのリスに向けた侮辱を自分に受け取っているみたいだ、それはどうしたんだろうね。

フウロはスクリーンショットを手に入れた妹を褒めるように遮る。

「よくやったね、ポッピーちゃん。っでBBSにはどんな反応を受けてるかい?」

ヒナゲシは唇を固まって躊躇いながら兄に返事する。

「多くの人は酷くてこの画像は全部編集された偽者だって叩いてるよ。ただ動画さえ手に入ればもっと信じてもらえるのに・・・・」

どうやらフウロはヒナゲシがどうやってその『魔法少女マジック』とやらでこの画像を手に入れたかに驚いていなく、ポタモンカンパニーその物にこのほぼ盗まれた画像を巡って妹まで追跡される可能性にも心配はしていないようだ。

僕はフウロはまずまず気が取られて妹に酷いことを言っているコメントを読むほどにイラっとしていると察し、僕は彼の肩に手を置いて、彼と妹はこのスタジオに来た理由をリマインドする。

「おい、帽子兄妹、今日はプロジェクトの作業をできる時間は1時間しかないからもうさっそく始めようよ。」

ヒナゲシが僕に向いてきて返事する。

「それでもやれる仕事はないでしょー。」

「背景は?」

「あっそれかぁ?それはレーセンさんが決めていなかったんじゃないの?」

僕は掌を顔に当てた。

「もうメールにアップしてあるんだが、またチェックしていないのかい?」

ヒナゲシは目をノートパソコンに戻してウェブブラウザーからメール画面を開き、僕が送った『背景サンプル』というメールを見たと思ったら、また僕に振り向き笑顔で謝り、若い魅力とその『てへぺろ』とかの表情で振り払おうとしている。

「あうわ、メールをチェックするのを忘れちゃったー。許してね、レーセンさん?」

僕も自分のノートパソコンに向かいパソコンを起動し、頭をかきながら返事する。

「まあいいよ、別に締め切りがあるわけでもないし。でフウロ、募集した奴を見せてくれないか?」

ここでは彼女のせいでもないしな、ヒナゲシはいつも仕事の早い子だ。だが僕は最後に彼女に仕事をあげてからはもう2週間以来だから、仕事はまた終っていないと忘れるのも無理はない。

彼女は自分がこのチームの一員だと覚えているだけでももう感謝するべきだろう。どうせヒナゲシはここに来てもよくただ遊んで僕たちと夕飯を食べるだけしかやることないから、なんの予定もなく暇な日だけここに来てる。


フウロもパソコンを使うようで、僕はキーボードとマウスを譲ると、彼は一番有名なシングロイドコラボサイトである『Peerプロ』に行き、僕たちの新入りのプロフィールを開けた。

それは僕が自分でできることだが、この嫌な気持ちしかしない人を紹介してもらうためにはフウロにやらせる方がいいな。

フウロは僕たちのPeerプロページに進むと、コラボのメンバーが4人になっているのに違和感を感じるほどに目につくよ。この5ヶ月間この数字はずっと変らずに3人のままで見てきたからね。

3人のメンバーはもちろんフウロ、ヒナゲシ、そして僕だが、僕たちは生身で一緒に働いているから主にネット上で話す必要はあまりなくて、フウロとヒナゲシのアカウントもただ募集板が情けなくならないようにとの配慮と、同時に充分な人がもう揃っているように見えるためのダミーアカウントだけ。

Peerプロはシングロイドの親会社がシングロイドPたちに接触と助けを募集させるために設立した公式サイトだ。

しかし残念ながら僕たちの募集板は新しいメンバーがいなくてずっとこの5ヶ月間空っぽのままだ。声をかけてくれる人は数人いたが、皆は一ヶ月以内で突然消えて、僕とフウロがいくらメールを送っても返事してこなくなった。

それに何か理由があるとすれば、それは僕たちが選んだシングロイド、『リーズ・リリックス』は過小評価されているシングロイドだからだろうね。

なぜ人気のシングロイドよりわざわざ最初から成功率の低いシングロイドを選んだと?それは簡単さ、僕はリリックスが好きだから。

そしてそれは『リアル』な女子に向くのと同じような『愛情』だ。

2年ほど前の僕だったら二次元の娘にこんなメチャクチャ惚れてしまうと言ったら自分だって信じられないかもしれないのにね。

だって、二次元に惚れたと自称する他の奴らと違って、リリックスに向く僕の愛情の原因は彼女の見た目ではない、強いて言えば1年前の僕なら日本生まれと育ちの普通の男子として、金髪なんてそもそも人生の伴侶に望める現実的な特徴じゃないしね。

僕がリリックスに惚れた理由は彼女の見た目じゃなくて、彼女のシングロイドとしての心髄である『声』の方さ。

その頃の僕はどこにもいる平凡なシングロイドファンで、特に好きなキャラはなくて、シングロイドを本物の人間が歌う曲や器楽曲と変わらずにただ楽しめるもう一つのジャンルだと思うだけだった。

だからリリックスのデザインと彼女のデモソングが最初に公表された時、僕は彼女のことをどうでもいいと思っていた。リリックスが発売された時点で、日本のシングロイドはもう9人いたからその時に彼女を見た僕はただ『ああそうですか、もう一人増えたんですか』くらいに考えていた。

ちなみにその前にも金髪のシングロイドはもう二人いたから僕はリリックスがビジネス的に成功しないと分かっていた、彼女は他のシングロイドに被らされていない物を持っていないから。つまりリリックスの見た目には特徴的な物はないというわけ。

見た目ではなく声の方にしても、リリックスの声もクール系の低い方の声域で、元気さを伝える大人しい声調だ。僕的には彼女のブレスがとてもセクシーだと思っているのだけど、それもユニークだがあくまで生半可で、作者はリリックスをどんなキャラにしたかったのかよく掴めず、不可解だと感じるんだ。

最初にデモソングを聞いた時もそう思っていた。それは地味で中毒性は全くないと。僕が聞いたリリックスの最初の歌にしては、今の僕はその曲名とメロディさえも思い出せない。

だから僕はあの歌を聞いた後にリリックスを見捨てる人を責めはしない。彼女が人気になれないのはあんな忘れやすい曲でリリックスをデビューさせようとした作者のマーケティングのミスのせいだと信じている。


そういうわけの感想だったから僕とリリックスの関係はそこで終っていてもおかしくはなかった。だがなんとも不思議なことに、もしかして僕は退屈だったこともあってか、僕はリリックスのソフトCDが発売された後にどうにも感じなかったが、とりあえずもう一度のチャンスを与えようかと思った。

けれどその後で僕が彼女から得たのは終幕感ではなく、僕はリリックスの曲、リリックスの声に誘惑されたのさ。他の人間とシングロイドよりずっと違って、リリックスの声は僕の神経系、僕の世界を捉えた。

イヤホンをしなくてもリリックスの歌は何度も何度も僕の耳の奥に響き続いた。授業中にも、お風呂の中にも、夢の中までもその後に聞いた5曲はずっと、ずっと脳内に繰り返して響く。他の繰り返せば繰り返す程どんどんうざくなる曲と違い、僕はその永久にループする5曲から激しい鼓動を起こしながら癒せる感覚を感じてきた。

そしてこの世界の現実感にくっ付きたい人間と同じように、最初の僕はリリックスに誘惑されることに否定していたが、今の僕は仮想キャラに偽りでない愛情を感じている、他の女子よりもずっと強い感情でね。

だがそれでも僕の予想がその時現実になってしまう。世間のリリックスの曲の関心とファンは日ごとに減っていった。

その頃の僕もこのキャラを好きになったことをまた否定していたが、彼女の曲が好きであることは絶対に(・・・)否定はしない。

このままじゃ僕の好きな曲は消えてしまう、忘却に溺れてしまう。

だから僕は何とかしないと、リリックスを『救わないと』。

これこそが、プロジェクト『百合飾り』の始まりであったのさ。

しかし僕はその後自分には音楽スキルがないと気付いてしまい、助けてくれる人を募集しようとした。

自分で音楽のクオリティをコントロールできない代わり、成功率を最大限にするために僕はシングロイド曲をプロモートする方法を詳しく調べて、なぜとあるシングロイド曲は驚異的な人気になれるが、とある同じくらいのクオリティの他の曲はミコミコで20万以上の再生数を取れない理由を調べた。

そのたびに動画のアニメーション、ビジュアルの特殊効果、歌詞、シリーズ連続性、シングロイド曲の成功を決める音楽のクオリティそのもの以外の様々なファクターを心得てきた。音楽スキルのなさを補償するためにそのファクターを全て隅から隅までマスターしなければならない!

失敗は許されない。

リリックスは僕が救ってみせる。

そういう献身で、僕はその時自分の愛情はリリックスの声と曲だけじゃなくなっていると気付いてしまう。

僕は仮想キャラクターに惚れたんだと、気付いてしまった。

しかし、リリックスに向く僕の愛情の形は他のオタクの連中が宣言する『愛』とは全く違う。

僕は自分が持っている金を全てリリックスにつぎ込み、崇拝するような個人の神殿を作らない。

リリックスを本当の女子として認識しても、彼女に金を注ぎ込むだけだなんていい関係だと呼べるわけないだろう。僕の理想的な関係は両方のギブアンドテイクを伴うこと、金で買える絆などではない。

僕はいくらリリックスに金を注いでも、彼女を忘却から救う手立てにはならない。

リリックスを救うために必要なのは金ではなく、献身、スキル、そしていくら認めたくなくても、運も必要なんだ。

でも他のところのクオリティはいくら高くても音楽その物がダメだったらそれでも全部がただ台無しにされるだけ、結局シングロイド曲の心髄は音楽であることは変わらない。

その後にフウロとヒナゲシは手伝ってくれても、僕は最終的にリリックスの運命を知らない人の手に任せるしかないことも変らない。

だからその賭けのリスクを削減するには優れたスキルを持つ人を募集するしかないんだ。信用できて途中で投げ出さない献身的な人を。しかし皮肉なことに、この時点でそのような人をこのチームに入らせるには大金を使うしかない。僕が持っている平均な高校生の小遣いより多い金を。

今までの進展はどれほどまでに遅かったかと見て、僕はこのための金を稼ぎに複数のバイトをやっている。しかし僕が集めた金の量はこのプロジェクトのためのプロを雇うにはまた足りないんだ。

だが今はもうそうする必要はないのかもしれない。このCommunistnyan_peroperoって人がどれほど頼りになれそうか、その次第でね。

それでもあんなハンドルネームを選んだ人を信用できそうにはないと思ってるけど。


Communistnyan_peroperoのプロフィールを開いたらフウロはキーボードとマウスのコントロールを僕に返す。

フウロが言ったとおり、この人がやってきた作品は主に大人気戦争美少女ゲーム『萌え萌え❤大戦争』のパロディだらけだ。このゲームのキャラは全員美少女化された、萌や色気を容赦なく付けられたファシズムとコミュニズムの理念と人物。

だから僕はこのゲームが大嫌いだ、これは人間が性的の刺激のためにどれほど低くなれるか実証したかのようなゲームなんだから。

「ぐっ。」

Communistnyan_peroperoが作った動画の全てのサムネールを見ると、僕の表情は不気味になった。これは酷いもんだ。

全てのサムネはあへ顔、またはエロいポーズをする様々な『萌え萌え❤大戦争』のキャラだらけじゃないか。気味悪い、実に気味悪い。僕はこれからリリックスの運命をこんな奴に任せることになるのか?

しかし僕はこの人の申し出を只には断れない。ずっと10ヶ月間、新しいメンバーがいないこのままでは、どの道立ち行かない。おそらく僕はこの人の曲を聞けば納得できることもあるだろう。僕はパソコンの隣にあるヘッドホンを持ち上げながらフウロに話す。

「すまん、フウロ、ちょっとこの人の曲を評価してみるよ」

フウロは頷いた。

「分かった、オレはポッポーちゃんを手伝うから、終ったら言ってくれよな」

僕はその後の1時間をCommunistnyan_peroperoの曲を聴いて過ごし、動画のビジュアルを見ないように空白のドキュメントをフルスクリーンに表示する。そんな動画を見たらまともにこいつの曲を評価できなくなってしまうからね。

それでも曲の歌詞は軽くてふわふわな萌のテーマから、気の毒になれるほどにエロい物まで異なり、結局僕の判断力に干渉してしまったけど。

でもこれはバイアスかもしれないが、ある部分の歌は完全に気に喰わなくても、ある部分の曲その物は実によくできている。歌詞の方は全然ダメだとしてもね。

どうやらこの人は確実に羞恥心のない変態であって、Communistnyan_peroperoは本当にメンバーとして使えるかもしれない。僕の指示通りにこの才能さえ尽くしてくれれば。


この僕がそんなキモヲタを頼ることになるなんて。ああいうくだらんゲーム厨である奴なんかに。

なぜ僕がアニメに厳しく、いやむしろ容赦しないかという理由は、一番簡単な答えは僕が評論家だからかね。褒め称えるしかできない奴なんて評論家じゃなくただの盲目バカだ。

僕も子供の頃はみんなと同じだった。アニメに浸して、アニメの世界は僕たちの世界から分かれた世界で、キャラクターたちは実際でその世界に生きていて、冒険していると思っていた。

それは少年漫画の前向きさの、色付けられた楽園だ。みんなが幸せで、人生の先にはいつも冒険があり、頑張る人は何しても成功できて、いい人は決して死なない世界。

勿論その頃の僕も漫画の表紙にある名前、作家の名前の存在を承知していたが、あの人たちをあまり気にしていなかった。

僕は彼らがただの『器』だって、そっちの世界の素晴らしい物語をこの世界に伝える媒体でしかないと思っていた。まるで神の言葉を伝える預言者のように、自分の言葉ではなく、子供であった僕の理解力を超えている源から伝わってくる言葉を表現するだけの者。

しかし彼らが確実に預言者であっても、それでも僕にとっては大した人々じゃない。スピーカーはどんな音を出すか、プリンターは何をプリントするかを機械が選べる物じゃないように、僕にとって『作者』と言う存在もそれと同然だ。

たけど僕がそのままでいられたのは12歳になるまで、たまたまいつもどおりに読む少年漫画雑誌に最初のハーレム漫画を見かけた時までだった。

僕はそこに見たキャラクターたちが『生きている』とは感じなかった。何話を読んでもストーリーはいつも女子たちを恥ずかしい状況に突っ込み、たかが浅い刺激のためにありえないシナリオだけを語っていた。

僕はその違和感から気付いてしまった。ページと画面の向こうに素晴らしい世界なんてない、その物語は別世界で実際にあった、素晴らしい出来事ではないと。

それは全部その『作者』という『器』によって書かれていた。僕にとって『フィクション』という概念はもう別次元からやってきた面白い伝承ではなく、ただ僕と全然変わらない人間の想像が生み出した物で、その人間の欲望は性的な刺激と金のためにしか作られないのだと。

それはサンタクロースは施しの鏡である魔法のじいさんじゃなくて、ただクリスマスと言う日を収益化するための企業の陰謀にしかないと気づき、幻滅になって夢が壊された子供と同然か、それよりずっと酷かったんだ。

その時から僕は物語に浸す能力はもう失ってしまった。漫画のページとアニメの画面に乗っているキャラクターたちが生きている人間に見えなくなって、何かのために誰かによって書かれた『人形』でしかないと見えてしまうようになった。

それでも心の奥底では僕はまた信じたい。このキャラクターたちには自分の『魂』があると。


僕がCommunistnyan_peroperoの曲を聴き終わったら、いつの間にかもうフウロとヒナゲシが僕を置いて帰る時間になった。帽子兄妹と一緒に出かける前に、僕は棚にあるリリックスのソフトCDの箱を見て呟く。

「いってくるね...」

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