03 烙印 - 無能という名の
小説タイトル語呂が悪いので変更。ふーさっぱりさっぱり。
この小説は、フィクションであり既存の個人、団体に一切かかわりありません。
特に某戦艦ゲームとか一切関係ありません、絶対に!
「なんなのあれ!すんごい腹立つ」
憤っている若葉を青葉が宥めながら、四人は一つの部屋に集まっていた。
正確には集められていたと言う方が正解だろう。
事情は少し前に遡る。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「危険が無いか……私が最初に試します」
ラトリグのいう『理読みの儀』で水晶に手を当て各自の持っている魔法力の特性を調べる事について、最初に申し出たのは時雨であった。時雨本人は教師としての自負から出たもので、一先ずクラス一同は任せる事にしたが、これは失敗を嫌う現代っ子というべき、感性からの許容とも言えた。
設置されたハンドボール大の水晶、その中には絶えず渦を巻き流動する光を内包する不思議な物であった。
時雨が微かに震えながら水晶にゆっくりと手を載せると白色の光が見る見る内にオレンジ色に変わっていき、流動する速度も見て分かる程に速さを増していく。
「これは……素晴らしい!」
その様子を確認したラトリグが感嘆の声を漏らす。
「この色は、炎魔法の最上位『爆熾』。それもこのような高速の渦は、強大な魔力を示しています」
高らかに叫ぶようにラトリグが解説し、一同から「おぉー!」と驚きの声が聞かれた。
それが、後に【爆熾の魔女 シグレ】という二つ名で呼ばれる者の誕生の瞬間だった。
この時、水晶の置かれている壇上から降りてきた時雨に暁が話しかけていたが、小声の為に誰にもハッキリとは聞き取れなかった。それよりも自分にどんな能力が宿っているかという興味に意識が行って他の些細な事に全員気にかける余裕が無かった。
そんな中、異変が起こったのが三人目の伊勢 青葉の時だった。いや、正しくは何も起こらなかったのだ。水晶は、青葉が触れると急速に光を失い、只のガラス玉と化してしまったのだ。「あれ?壊しちゃったかな?」と呟きながら青葉が手を離すと水晶は元の輝きを取り戻す。
「……残念ですが、貴女には魔法の特性は無いようです。理を超えた者でも一割ほどは特性を持たぬ者がいるのです。気を落とされなきよう。
では、次の方」
青葉の件で全体に緊張が走った。
自分は大丈夫だろうか?と言う思いが多くの者の脳裏に駆け、それまでのお祭り気分と打って変わった雰囲気が漂う。ラトリグが先に述べた通り、この見も知らぬ世界で自分を守り、頼れるものの根幹というべき才能が無いと知らされる怖さを認識したのだ。
全員の特性が調べられ、様々な能力を確認していく中、特性が無いとされたのが四十名中、ラトリグの一割程度という言葉通り、四名だけだった。
それが伊勢 青葉、日向 若葉、扶桑 潮、そして山城 暁が無能者としての烙印を押された日だった。
理読みの儀が終わり、一同はこの世界に着てから初めて日の光を見る事になった。といっても神殿の敷地内である事は変わりないのだが。
中庭のような場所で四方を高い石塀に囲まれ、無風な為に風を感じる事は出来ないが、穏やかな陽気に包まれて気候が現状では日本と然程大差ない事を実感する。
「弓道の修練場みた~い。遠的位の距離だね~」
そう青葉が表現するように、そこは長方形の区画で一同のいる反対側の土を盛った上に、的のようなものが設置されていた。遠的というのは六十メートル程の距離のある的を狙う弓道の競技の一つだ。
「それでは、これより攻撃系の魔術の特性をお持ちの方から、試行して行きますので、それぞれの特性の種別毎に組み分けさせていただきます。
指導する者が就きますので皆様もその者に従って方法を学んでください」
名前を呼ばれながら、ラトリグの言った指導者らしき者たちの元に各自集められて行く。攻撃系『魔術』六名、攻撃系『魔法』十三名、補助系魔術四名、補助系魔法八名、特異系二名、そして時雨を含めた『魔導』系の三名というグループが作られた。
どうやら、この世界の分類として『魔法』『魔術』『魔導』の三つが有るらしい事は分かったが、それについての説明はラトリグ達からは無かった。 人はしばしば、自分の住まう世界での当たり前の常識を知らない者に説明する事を忘れたり、はたまた実際に言葉にして解説する事が難しかったりものだ。
暁はじっと、その三種の違いとそれぞれ各人のの持つ特性を周りから聞こえてくる会話から覚えていった。
その時、爆音が響いた。
地面を伝わる振動と巻き起こった風で皆が呆然とする中、その原因を作った人間はその風を一身に受けながら自身も驚きの表情で立っていた。
この時、時雨が初めて爆熾の魔導を使ったのだった。
対岸の的には全く届いてなかったが、修練場のほぼ中間の地面がごっそり抉れて、その威力の高さを物語っていた。
「時雨ちゃんか!?」「先生、凄~い!」と驚嘆入り混じった呟きが皆からもれる中、時雨は何を思ったか無表情なまま、右手を掌を上に向けて高らかに掲げるとその上にオレンジ色をした光球を三つ作り上げてた瞬間、右腕を振り下ろすような動作をした。
時雨に就いていた指導官らしい人物が焦って静止しようとしたが間に合わなかった。
先ほどの爆音が今度は三つ。
同じような地面を穿つクレーターを乱立させた後の風が止む頃、誰もが息を飲み、その場は静寂が支配していた。
両膝をついて崩れ落ちそうになるのを指導官に支えられながら、ゆっくりとこちらを振り向くとそこには多少疲れた色を見せながら、艶かしい瞳をした女が存在していた。
普段のどこか落ち着きの無い先生らしくない教師としての時雨ではなく、妖艶な大人の女がそこに居た。
その時、時雨は確かに笑っていたのだ。
それを見た攻撃系と呼ばれたグループの者達が一斉に堰を切ったように我先にと試し撃ちを始め、一種の異様なお祭り騒ぎになっていた。
そんな中で潮は吐き気を抑えていた。
時雨のあの表情は、圧倒的な暴力の保持に対する優越感への陶酔だと知っていたからだ。
自分の母親と同じだと。
「扶桑ッチ、大丈夫~?」
青ざめた顔で口元を押さえる潮を気にかけて、心配そうに青葉が聞いてきた。
「俺達には、これと言ってやる事も無いみたいだから、下がらせてもらおう。
あの神官長って人に言って来るよ」
暁がそう言ってくれて、ラトリグの方に駆けていく。
事が起こったのは暁が許可を得て、案内の少女を伴って戻り、引き上げようとした時だった。
水球の塊が暁を目掛けて飛来してきた。
暁は少女を庇いながら交わしたが、水球は壁に当たって弾け、頭から水をたっぷり浴びる事になった。
「ちょっとぉっ!」
若葉が抗議の声を上げる。
「お前、何やってんだっ!?」
若葉の声の向けた方で【霧島 響】という男子生徒がが、もう一人の男子生徒の胸座を掴んで【川内 榛名】を含む二、三人の女生徒に止められていた。
「ちょっと、狙いを間違えただけだろぉ~。そんなに怒るなよ。
ハイハイ、ごめんなさいね~無能者の落ちこぼれの皆さん」
【敷波】という男子生徒が詫びる気がこれっぽっちもない事が丸分かりの謝り方で言葉を投げた時、その後方から時雨が声を掛けた。
「そーねー。他の人の練習の邪魔になっても困るから、山城君達には何処かへ行って貰った方が良いかもしれないですねー」
「……先生」
時雨の言動に響は、困惑した。普段の時雨であれば、絶対に敷波の行動を責めたはずである。
その時、暁が髪から水を滴らせながら、それこそ響き渡る程の大声で「霧島っ!」と叫んだ。
「……サンキューな。
それと──」
その水が滴る髪を掻き揚げながら姿勢を変えず横目で時雨を一瞥しながら、
「ご心配頂かなくても今引き上げる所ですよ、葛城 先生」
と、明らかに挑発を加味した口調で言った後、他の四人に向けて「行こう」とだけ呟き、その場を後にした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
これが若葉がいきり立っている原因の事のあらましである。
「でも、暁ッチはスゴイね~。あのほぼ背後からの水魔法の塊、見ないでかわしてたよね~」
この青葉の言葉に多少、暁は驚かされた。普段、何処と無くのんびりしている青葉だが意外と良く見ているものだと同時に感心もした。
青葉の疑問に対しては、若葉が「そりゃー、家の道場で鍛えたからには、あの位の事は出来てトーゼン!」と意味の分からない自慢をして、青葉が「ふむふむ」と納得したようだったので、そのままスルーする暁だったが。
「マリシェさんと言ったよね?申し訳ないんだけど、何か暖かい飲み物を頂けないかな?酒以外なら何でも良いんで、皆の分も」
「アッ、キヅカナイ、スイマセン。スグ、モツ。モドル」
閉められた扉の向こうでマリシェの足跡が遠ざかると最初に口を開いたのは、意外にも若葉だった。
「それで?
暁、わざわざココに私達を集めたのは何で?あの神官長の話を聞いてからずっと納得行かない顔してるよねー、それが原因?」
「……もしかして、彼女に飲み物を頼んだのも態と?」
「山城って、時雨ちゃんと仲悪かったっけ?」
他の三人からそれぞれに水を向けられたが、暁はやや思案気に返答を渋った。
暁自身、その事を口に出して良いか現段階に至っても迷っていたからだ。有難かったのは、他の三人が急かさず辛抱強く暁が決断するまで待ってくれた事だろう。
但し、暁の口にした言葉はある意味、残酷なものだった。
「俺達は、多分……帰れない」
ちなみに嫁艦は朝潮です。
2015年10月10日:初出
2015年11月21日:誤字修正