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掌編集  作者: しゅうか
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魔法使いの弟子 セカンド

お題:『・電車を降りる・電話がかかってくる・靴ひもを結ぶ・海に行く』

魔法使いの弟子の続編的な何かになります。(前作呼んでなくても可)

「お客さん、お客さん! 終点ですよ!」

 肩を叩かれて目を開けると、のっぺらぼうの車掌が困った雰囲気を醸し出していました。

 気が付けば電車に乗っているのは私一人で、他の乗客はもう皆降りてしまったようです。

 相当熟睡していたようです。起こすのは手間だったでしょう。

 やけに磯の匂いがするなと思って車掌の足元を見ると、海水の入ったバケツが置かれていました。

 ……起きなかったら、ぶっかけられていたのでしょうね。

「すみませんでした」

 慌てて謝罪をし、リュックを背負って電車を降りました。

 乗っていた電車は回送車となり、元来た道を戻っていきます。

 降り立ったホームは、酷い有様でした。

 寂れて床も所々剥げ、雑草が生い茂り、ベンチの椅子はほとんど壊れています。

 駅名や時刻表の看板ももはや読めたものではなく、錆びた鉄板があるだけにしか見えません。

 今はまだ昼過ぎだからいいですが、夜は完全な暗闇に包まれてしまうことでしょう。

 ホームにある古びた公衆電話が鳴り響きました。

 ここには私しかいないので、私宛なのは間違いないでしょう。

 おまけに、電話の主に心当たりがありました。

「師匠、ただいま駅に着きました。迎えに来てください」

 受話器を取るなり、私はそう言いました。

 実は私は、海底に住む魔法使い。

 師匠というのは、私の魔法の師匠。私の憧れです。

 私の家は海底にあるのですが、まだ見習いである私は自力で海を潜ることができません。

 なので、師匠の助けがなければ私は帰ることができないのです。

「それなんだけどね、エリカ。今日は自力で帰ってくる練習をしてみようか」

 師匠の助けがなければ、帰ることができないのです。

 とても大事なことなので、二度言いました。

「はい?」

「今日の課題。今の君なら、これくらいできるでしょう。

 さすがに今日中に帰ってこいとは言わないので……そうだね、明後日になっても駄目なら迎えに行こうか」

 そう言うと、師匠は電話を切ってしまいました。

 駅の周りには何もなく、雨風をしのげるのはこの場所のみです。

 お店も当然ないので、飲まず食わずで過ごすことが余儀なくされました。

 駅に来るのは私と師匠ぐらいなので、襲われたり何かに巻き込まれる心配だけはないのが幸いでしょうか。

「絶対、帰らなければ」

 師匠が明後日に迎えに来るといった以上、本当に明後日にしか来てくれません。

 それに課題をクリアできなかった場合、また同じ課題を出されることでしょう。

 私は背負っていたリュックからメモ帳とペンを取り出すと、家に帰るために必要な工程を書きだします。

「…………ええっと、まず酸素の供給と水圧対策、後は濡れないようにする魔法も欲しい。

 濡れない魔法は私の周囲の水を跳ねのけるようにすればいいかな。酸素の濃度ってどれくらいだっけ。

 水圧はどうしよう。周りの水を軽くすればいい?」

 魔法は、精霊たちに呪文を書いた紙で指示を出すことで発動します。

 もちろん、働いてもらう対価として魔力を与えることも重要です。

 ただこの魔法というものは融通が利かず、一文字間違えるだけで思わぬ効果を発動したり、そもそも発動しない事すらあります。

 そして、今回のように一度に複数の魔法を発動させなければならない場合、呪文はより複雑になっていきます。

 命が掛かっている以上、間違えることは許されません。

「師匠の課題って、そういえばいつも命かかってますね」

 私達が海底ではなく、北の森に住んでいた頃。

 氷点下の真冬日に、暖炉に火を点ける課題を出されたことを思い出しました。


 結局、呪文を用意できたのは翌朝になってからでした。

 明かり一つないホームで、暗闇の中を空腹と渇きに耐えながら、壊れたベンチで眠りました。

 もう二度とやりたくないです。

 いつの間にか解けていた靴ひもを結ぶと、私は駅の出口を目指しました。

 ホームは二階にあるため、今にも壊れそうな階段を降りていきます。

 階段を半分程降りると、改札機が半分海水に漬かっているのが見えてきました。

 実はこの駅、海の上に立っているのです。

 線路のすぐ下は海で、駅を出ても海で、陸地は一切見えません。

 改札機は海水で壊れているため、この駅を利用するには窓口に居る駅員に定期券を見せる必要がありました。

 窓口にはのっぺらぼうの、しかし電車で私を起こしたのとは別の駅員が立っています。

 私は防水の魔法を使って海水に足を入れると、駅員に定期券を見せて改札をくぐり、駅の出入り口の前に立ちます。

 駅の向こうは海。

 一歩踏み出せば、もう足場はありません。

 私はリュックから呪文の紙を取り出しました。

 後は、潜るための魔法を使うだけ。

 私が数度深呼吸をし、さぁ行こう、と紙を握りしめた時でした。

「エリカ」

 背後から、師匠の声がしました。

「ふぇ!?」

 思わず変な声が出てしまいました。振り返ると、全身を包帯に巻かれたミイラ男が居ました。

 ロッキングチェアに座り、紅茶を飲みながら、のんきに本を読んでいます。

 恐らくこの場に居るのではなく、家にいる自分を幻として私に見せているのでしょう。

 このミイラこそが、私の師匠。

 包帯で人の形を作り、人のように思考し、人と同じように自立して行動するよう呪文を構成した魔法。

 私が憧れ、いつか自分も構成してみたいと思った、奇跡のような魔法。

 ちなみに動力の魔力は周囲から勝手に借りてるそうで、最近はは主に私の魔力で動いてます。

「その呪文だけどね、それだと死んでしまうよ。もう一度練り直さないと」

「……えっと、どこを直せば?」

「それを考えるのも勉強。頑張ってね。

 駄目なら、約束通り明日の昼には迎えに行くから」

 そう言うと、師匠の幻はスウッと消えてしまいました。

 結局私が家に帰れたのは、翌朝の事でした。

Twitterの「#創作スタンプラリー企画」に参加したもの。

四つの条件を満たした作品を書くという企画です。

同じ行動を別の人が書いたらどう違うのか、という趣旨のものです。

チェック項目は、

『・電車を降りる・電話がかかってくる・靴ひもを結ぶ・海に行く』

でした。

廃墟の駅と海に浸かった駅が浮かんだので、そこからエリカ達を流用した形になります。

師匠の酷い度が上がっている気がします。

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