八、私の決心
「それでは、私はここで。おやすみなさい。」
いつの間にか着いた私のマンションの前で、彼といつものように別れの挨拶をする。
けど・・・今日は・・・
「・・・松岡さん。」
「はい。」
いつものように返事を返さない私に、松岡さんは少しだけ戸惑った声を返した。
「少しだけ、うちに寄っていきませんか?」
「は・・・、え?・・・いやしかし・・・」
「話したいことが、あるんです。」
もう、目を逸らしたくないから。
「・・・・・・わかりました。」
外で会うばかりで、お互いの家に入ったことは、今までになかった。
・・・こんなふうになるなら、もっと部屋をきれいにしとけば良かった。
なんて、そんなことを思ったって後の祭りで。
私は部屋に松岡さんを招き入れてお茶を出して・・・
二人で、ミニテーブルを挟んで座った。
「・・・それで、お話というのは・・・?」
先に沈黙に耐えられなくなってしまったみたいで、松岡さんが口火を切った。
「笑わないで、聞いてくれますか?」
「え・・・?えぇ。もちろん。」
私の話が予想と違ったのか、少し拍子抜けしたみたいだけど、すぐに真剣な顔をして答えてくれた。
私の決心・・・
「おかしいと思われるかもしれないんですけど・・・ホントなんです。私・・・実は・・・」
私は、夢に出てくる<私>のことを、掻い摘んで説明した。
それから、<私>の夫であった人のこと・・・
<私>の思い・・・
そして、私も、その<彼>のことが頭から離れないこと・・・
松岡さんは、時々相槌をうちながら・・・たどたどしい私の話を・・・最後まで、聞いてくれた。
「・・・それでは、あの時・・・今日呼んだのは、その・・・夢の中にいる、貴女のお兄さんだったんですね。」
「え・・・今日・・・?呼んだ・・・?」
「はい。・・・うたた寝されていた時に・・・」
「え・・・」
恥ずかしい・・・!
夢の中で、久しぶりに兄様に会える!って、<私>、はしゃいでて・・・
でも、寝言だなんて・・・
「・・・あの、それで・・・。」
「松岡さん。」
「・・・はい。」
「・・・私は、夢の中の存在に心を乱されているような・・・そんな女です。・・・あなたと一緒になっても、心のどこかで・・・あなたに<彼>を重ねたり、探してしまうかもしれない。
私も<私>も、正直なところ恋とか愛とか分からなくて・・・経験もなくて・・・。
でも、あなたのことは、嫌いではないと思います。それどころか、一緒にいて、安らぎを覚えることがあります。もっと知りたいと思います。だから・・・こんな私でいいのでしたら・・・これからも、ずっと・・・一緒にいたいです。
<彼>のことを忘れることはできなくても、あなたとなら・・・一緒になれる。幸せになれる気がするんです。」
「・・・篠原・・・いえ。裕美さん・・・」
自分でも、勝手なことを言っている自覚はある。
けど・・・
私のことを真剣に考えてくれた人に、私も・・・隠し事をしないで、真剣に答えたい・・・そう、決めたから。
「・・・私は・・・。初めこそ、一目惚れでしたが・・・。貴女と話す度に、私の気持ちは、私が貴女のことを好きな気持ちは、増していきました。それは今も、変わりません。」
「松岡さん・・・」
「私と、結婚・・・してくださいますか?」
「・・・はい。」
私は、松岡さんの真摯な瞳を見つめて・・・しっかりと、頷いた。
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それでいいの?と思う人もいるかもしれませんが。
松岡さんは、裕美にべた惚れなのです。
恋愛の描写少ないかもしれません、すみません。
恋の描写より、愛に変わってからの描写の方が長いかもしれません。




