七、うたたね
「・・・らさん・・・、篠原さん・・・」
「・・・ぁに・・・さま・・・?」
「篠原さん?」
「あ・・・。松岡さん・・・」
「大丈夫ですか?どこかすぐれないところでも・・・?」
「いえ。・・・大丈夫です・・・。」
今日は、松岡さんとまたデートに来てたんだ・・・
デート中に寝るとか・・・私最悪・・・
「そうですか。・・・そういえば、篠原さんは、御兄弟はいるんですか?」
「え・・・いえ。家族は、父と母だけです。一人っ子なもので。」
「そう・・・なんですか・・・。」
「松岡さんは?」
「私は、姉が一人。四つ上で、結婚して今はもう家にはいないんですがね。」
「お姉さまが・・・」
「結婚相手が私の幼なじみでもありまして・・・本当は義兄になるんですけど、本物の兄のような存在なんです。」
「そうなんですか・・・。」
<私>には、兄も・・・兄弟のように育った従兄弟もいた。
そういう存在とは関わり無く生きてきた私には、なんだかうらやましい。
「篠原さん?」
あ・・・また、思考がどっか飛んでた。
「・・・大丈夫ですか?」
「えぇ。すみません。」
「・・・・・・貴女は・・・」
「え?」
「貴女は、いつもどこか遠くを見つめているような気がする・・・。」
遠く・・・やっぱり、夢のことを考えてるから?
「一緒にいるのに・・・こんなに近くにいるのに・・・。
・・・私は、貴女のことが好きです。結婚して、一緒に幸せな家庭を築きたい。そう思っています。ホントは、急かしたりしないで、待つつもりでした。貴女にその気が無いのなら、きっぱり諦めて、貴女の前から去る覚悟もしています。
けど・・・私には、貴女の気持ちがわからない。私がお誘いすれば応じてくださって・・・一人よがりかもしれませんが・・・一緒にいる時間を楽しんでくださっているように見える。話を振れば、笑いかけてくださる。
私も男です。期待だってしてしまいますよ。でも・・・。貴女は、未だに返事をくれない。私がご馳走すると言っても、割り勘にこだわる。それが悪いと言うつもりもありませんが・・・。
ただ、私が辛いんです。遠くを見つめる貴女を見ると、不安になるんです。」
私を見つめて話す松岡さんの目はまっすぐで・・・
初めて声を掛けてくださった頃から変わらない、強く・・・優しい目でした。
そして、優しさの中に、少し淋しさも交ざった。
「・・・すみません。いきなり、こんな話。・・・でも、私は本気です。だから・・・それを・・・知ってほしかったんです。」
「松岡さん・・・」
辛さを隠して笑う彼の顔に・・・私の中にいる誰かと重なる。
「・・・今日は、このへんにしておきましょうか。家まで送ります。とりあえず、店を出ましょう。」
松岡さんに促されて、二人で店を出た。
何も言わずに二人分の会計を済ます彼に、私も何も言わなかった。
松岡さんの車の助手席に乗って、横を過ぎ去っていく夜景を見ながら・・・私は決心をした。
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