四、彼からの電話
あぁ・・・また、夢で泣いたんだ、私。
・・・今日のは・・・あれか。
前にも何回か見たよな・・・
夢の中の<私>は、決まって「由美香」と呼ばれていた。
ソレが、<私>の名前みたいだ。
・・・年の頃は・・・私と同じくらいか・・・少し上くらい。
大河ドラマに出てくるみたいな・・・武家屋敷?みたいなのに住んでて・・・
結婚、してた・・・
親同士の仲が良くて、兄弟同然に育った従弟。
確か名前は・・・元服前は龍千代・・・そういったと思った。
そして元服後は・・・栄龍・・・と。
・・・夢の中でも、「タツ」の音の着く名前と縁があるのかな。
後は・・・他の従兄が国の殿様やってて、栄龍って人のお姉さんと結婚してて・・・
その二人が・・・城と一緒に焼け死んだ場面だ。
焼けるなんて・・・熱いよね、普通に・・・。
ジリリリィン
あ。電話だ・・・
「はい、もしもし。」
私は寝起きでぼやけた思考のまま電話をとった。
『もしもし。篠原裕美さんですか?』
「はい。そうです。」
『おはようございます。松岡です。』
「・・・松岡さん?!」
私の目は一気に覚めた。
「お、おはようございます!」
『今日もお元気なようで。安心しました。』
「あ・・・ど、どうも・・・です。」
『休日の朝にすみませんね。今日は、お暇はありますか?』
「え・・・」
今日の予定を聞いてくる・・・イコール・・・誘ってる?
どうしよ・・・
予定なんか特に無かったけど・・・
『よろしければ、映画をご一緒したいと思いましてね。』
映画・・・
映画なら、座って見てれば勝手に時間すぎるし・・・大丈夫かも?
・・・でも、デート・・・だよね・・・、これって・・・。
どうしよう・・・。
『・・・すみません。ご迷惑・・・でしたかね。』
悩んでいると、耳元から・・・受話器から、少し気落した松岡さんの声が聞こえてきた・・・
そうだ・・・。いつもこの人は、私を強引に誘ったりはしない。
こっちの都合を第一に考えてくれる・・・優しい人。
仕事の時は、年上の他社の社長にも対等で立ち向かって、冷静に判断を下す・・・頭のキレる優秀な指導者らしいのに・・・
私のことになると、いきなり押しに弱くなるというのか・・・
恋愛事には、疎い人なのかもしれない。
『篠原さん?』
返事の無い私に、松岡さんは少し不安げに名前を呼んだ。
そんな彼の態度に・・・私は・・・
夢の中の<私>の夫だった人を思い出した。
「あ、すみません・・・。」
『・・・考えてみれば、せっかくの休日ですしね。当日にいきなりというのは失礼だったかもしれませんね。・・・よろしければ、次の機会にでも・・・』
「行きます。」
『・・・え?』
「今日、映画・・・連れていってくれますか?」
私は・・・<私>の夫に、前から興味があった。
そして・・・その人に似たものを感じた彼のことも、知ってみたいと思った。
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裕美の歴史の知識は小中学校で勉強した程度。高校では地理選択でした。
そして、少し過去に舞台を設定しているので、まだ、固定電話が主流の時代です。