二十一、終章
※他者(主人公の裕美以外)の一人称で書かれています。
最期の言葉・・・辰郎への、「ありがとう」の詞を遺して、裕美ちゃんはこの世を去った。
享年、二十九歳。
〈僕〉が死んだとき、由美香は十八歳で、現世は九歳違うから・・・由美香は、二十七歳で死んだのか・・・
死の原因は、怪我をした腕と背中の手術の時には気付かなかった、頭・・・脳か・・・の傷。
朝の検査で、気付くはずだったもの。
裕美ちゃんが実際に息を引き取ったのは、意識を失ってから少ししてから。
朝日が、昇りきる頃だった。
篠原のお母さんと、駆け付けてきたお父さん、雪菜と・・・琉輝と僕が見守る中、裕美ちゃんは静かに息を引き取った。
その直後に、松岡のご両親も来た。
琉輝は、裕美ちゃんが目を閉じた後、しばらく何も言わなかった。
ただ、静かに涙を流して。
じっと、裕美ちゃんを・・・いや、由美香を見つめて。
けど、それもほんの数秒で。
一度閉じた目が開くと、琉輝は、目の前で横たわる母親を前に、首を傾げていた。
目に浮かぶ涙の雫に困惑しながら、後ろにいた僕を見上げた。
辰郎が病院に着いたのは、その二時間後。
既に霊安室に移されてからだった。
辰郎が悲しみに暮れる中、僕は葬儀屋との連絡や、親戚への報告に追われた。
家へと戻り、家の者に指示を出して準備をさせる。
通夜はあっという間に終わり、葬式、火葬場への見送りを済ませ、その日のうちに初7日の法要を済ませてしまった。
その間、僕はずっと忙しく動き回っていた。
僕と辰郎の仕事の都合を付けたりもしなければならなかった。
・・・受験シーズンとか、仕事が忙しい時期じゃなくてよかった。
でなきゃ、辰郎の分まで面倒見るなんてできなかっただろう。
ホントに・・・面倒見てやらないと、そのまま死んでしまいそうなくらい、辰郎は沈んでいた。
・・・・・・不運な奴だ。
前世で叶わなかった恋を、やっと現世で叶えられたと思ったら、
現世では、その想い人に早くに先立たれる。
笠岡辰臣・・・その記憶が無いことが、せめてもの救い・・・か。
「りゅう・・・お父さんの言うことを聞いて、強く・・・お母さんの分まで生きるんだよ。」
桜海の国・・・先代の殿の住まう、屋敷。
「何故ですか!!何故・・・私ではいけないのですか!?」
「・・・わからぬか?」
「私では、不足だというのですか?」
「君は、私の優秀な家臣だ。すでに小隊の指揮を任せているのは、同年代では君だけだ。」
「・・・ならば、家柄ですか?我が家が、下級武士の出だからですか?」
「私は、身分をとやかく言うつもりはない。今の殿が、何というかはわからんが。」
「ならば、何故・・・。なぜ主から、殿に話を通すことさえしてくださらないのか・・・!」
「私は、ただ・・・あの子の気持ちを、大切にしてやりたいだけだ。」
姫・・・
あなたは、俺のこの想いを、知らないでしょう。
あなたの祖父の家来に、俺のような者が存在するということさえ知らないかもしれない。
けど・・・殿の御前に上がった折に、偶然にもあなたを垣間見た時から・・・
俺は、あなたを忘れられません・・・
俺に、あなたに相応しい身分さえあれば・・・!
姫・・・
終わり.
本編完結しました。
実は、最初にできていたキャラは、公園で会った子供たちや、琉輝だったりします。
ある連載で使うために暖めていたキャラと世界観だったのですが、今回、キャラの一人の琉輝くんのお母様にスポットをあてて、話を書かせていただきました。
書いてきた時代は…とても微妙な時代設定で。
自分の記憶は曖昧。
しかし、この時代が舞台の話というのもあまり見かけない。
この話は、自分がまだ経験していない、結婚や出産、子育てまでしてしまう始末。
なんか、書きながら「私がこんなん書いていいのかなぁ?」の連続でした。
結末は、書き出した当初…構想の段階から決めていた結末です。
ある意味で、松岡家にはノストラダムスの言うところの「恐怖の大王」という名の事故によって、「幸せ」という「世界」が壊されてしまったのでしょうか?
なんて。
1999年に、別にそんな意図はありませんでしたが。
医療知識や歴史知識が必要な描写は、間違いもあるかもしれません。あったらすみません。
賛否両論有りますでしょうが、誹謗中傷はやめてください・・・お願いします。
私は、人の命を軽々しく使うつもりで書いたわけではありません。
ただ…こうでもしなきゃ、二人は会えないような気がして…
て、言い訳ですかね?
でも、人の死を見送った後の人の反応は、結構大切にしたつもりです。
私ももう、人の死を知らない年齢でも無いので。
それでは、改めまして。
最後まで読んで下さりありがとうございました。
これからも、よろしくお願いします。
真木逸美
次のページには、情報の整理に役立つだろう表をつけておきます。




