十六、幼き日の夢
桜海の国、第八代当主、志保沢 京左衛門・・・私の父の治世下のこの国は、その日も平和でした。
「龍くん。あのね、わたし・・・もう少ししたら、裳儀っていうの、やるんですって。」
「裳儀?」
父様から裳儀の予定を聞いた私は、龍千代様にそのことを話しました。
夕香姉様に舞を教わるために叔父様の城に来ていた私ですが、同じ城にいる龍千代様もよくいらっしゃるので、お話することが多くありました。
「それじゃあ・・・由美香姫様とも、会えなくなってしまうの?」
え・・・?会えない・・・?
「なぜ?十一歳になったら、『大人になりましたね』て儀式をするだけと聞いたわ。」
「大人になったら・・・姉様たちとも、あまり会えなくなってしまいました。私は弟だから、会えないことは無いです。けど・・・」
そういえば、姉様が裳儀を済まされてから、兄様と姉様が会うのは、年始の行事くらいでしかないかもしれません。
・・・あとは、何かの儀式の時くらいで。
「そんなこと・・・父様は言っていませんでした。」
私たちは、何も言えなくなってしまいました。
「入っていいかな?」
この声は・・・
「どうぞ。」
入っていらしたのは、やっぱり、お祖父様でした。
「こんにちは、お祖父様。」
「おぉ・・・二人とも、ここに居たんだね。」
「はい。」
お祖父様は、父様の前の・・・つまり先代のお殿様で、今年で五十八歳になられます。
「なぜ、こちらに?」
すでに隠居なさって、現在は国の中に作った簡素な屋敷にお住まいのはず。
「由美香がここにいると聞いてね。・・・裳儀を、するそうじゃないか。」
「はい・・・」
お祖父様は優しい笑顔でいらっしゃいましたが、さっきの話のせいか、私はなんだか暗い気分になってしまいました。
「・・・何かあったかな?」
「え?」
「何か、不安があるなら、この祖父に話してみないかな?」
「お祖父様・・・」
いつも優しいお祖父様。
私のこの不安も・・・拭い去ってくださるのでしょうか。
「お祖父様・・・。私が裳儀を済ませたら・・・龍くんや、他の人たちとも、会えなくなってしまうというのは本当ですか?」
私の問いに、お祖父様は一瞬表情を強ばらせましたが、すぐにいつもの笑顔に戻りました。
「大丈夫。そんなことはないよ。確かに、裳儀を済ませば、学ばなければいけないことが増える。だから、遊べる時間は減ってしまうだろうね。でも、少なくとも、龍千代が元服を迎えるまでは今までどおり会うこともできるし、その後でも・・・会いたいと思っていれば、まったく会えなくなってしまうなんてことは、無いものだよ。」
お祖父様・・・
「会いたいと思っていれば・・・?」
「あぁ。」
会いたいと思っていれば、絶対に会える・・・
ありがとうございます、お祖父様。
私、頑張れそうな気がします・・・。
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