十四、白昼夢
琉輝の手を引いて、公園の横の歩道を歩いていく。
いきなり前をボールが転がってきた。
公園で遊んでいた子たちのみたいで、小学生くらいの女の子がボールを追って駆けてくる。
私は、ボールを止めて拾った。
「すみませーん。」
「はい。このボールでしょう?」
「ありがとうございます。」
すごくしっかりした、かわいい女の子だ。
「・・・おばさん、かなしいの?」
「え・・・どうして?」
何?いきなり、この子は・・・
「だって、目がね、さびしいって。そう言ってるもの。」
「・・・目が?」
「うん。」
何を思ったのか、その子はボールを置いて、私の手をとる。
「だいじょうぶだよ。おばさんは、独りじゃないよ。」
え・・・・・・?
「夕香姉様。いやだ・・・行かないで。兄様も目を覚ましてないのに・・・私、どうすればいいの?」
「由美香・・・」
これは・・・姉様が、国のために・・・隣国の殿様の下へ嫁ぐときの記憶・・・
先の戦に負けて、その時歳は十六で、すでに将の一人として国のために戦った兄様は、傷を負って帰ってきてまだ目を覚まさない。
そんな中、その隣国から出された和平の条件は・・・桜海の姫を誰かを・・・差し出すこと。
「また、舞を教えてくださると・・・約束したじゃありませんか。」
「ごめんなさい・・・許してね。」
「夕香姉様・・・行っちゃやだ・・・!」
この時〈私〉はまだ十一歳。でも、姉様さえ十四歳。
好きで見ず知らずの人の・・・しかも自分たちの国を窮地に陥れた本人のもとへ嫁ぐわけが無い。
でも、彼女は・・・
そんな彼女に、〈私〉は随分と酷な事を言ってたのかもしれない。
「大丈夫。あなたは、独りじゃないわ。」
「姉様・・・」
「場所は離れてしまうけど・・・心はいつも一緒よ。ね?」
〈私〉の手をぎゅっと握り、夕香姉様はそう言った。
「夕・・・香・・・姉様・・・?」
まさか、そんなわけない。
私は何を考えてるんだろう。
「・・・あたしは優花だけど・・・なんで名前知ってるの?」
「え?!」
私は、思わず優花ちゃんの肩をつかんだ。
「おねえちゃん!!」
声がして、公園の中から幼稚園児かな?くらいの男の子二人が駆けてきた。
「おねえちゃん、そのひと、だれ?」
「まってよ、しゅう。」
言葉からして、しゅうと呼ばれた子は、優花ちゃんの弟なんだろう。
そんなことを思いつつ、小さなしゅうくんの目ににらまれて?はっとした。
私のこの態勢・・・一歩間違えれば危ない人?
誘拐犯とか・・・
こんな小さい子がそこまで考えてるかはわからないけど、怪しまれてはいるみたいだ。
私は、急いで手を離した。
「ごめんね。その・・・知ってる子に、そっくりだったから・・・つい。」
知ってる子というか・・・前世で知ってた人に重なった・・・ていうのが本当だけど。
・・・優花ちゃんか・・・同じ音・・・なんだ。
「・・・しゅう、大丈夫だよ。この人、ボールとってくれたの。」
「・・・そっか。ありがとう。」
・・・かわいい・・・この子。
お礼ちゃんと言える子って、いいよねぇ・・・。
優花ちゃんも夕香姉様みたいに優しいし。
うちの琉輝も、こんなふうに育ってくれたら・・・
あれ?
・・・・・・琉輝?
「りゅうちゃん?!」
うそ!!さっきまで手をつないでたのに・・・
「おばちゃん、どうしたの?」
「りゅうちゃんが・・・」
「りゅうちゃん?」
「あのこのこと?」
しゅうくん?が、指差した先には・・・
しゃがんで何かを見ている琉輝がいた。
よかった・・・。
私の目線からだと植え込みに隠れてしまっていたから見えなかったみたい。
「そう。あの子。・・・ありがとう。」
「うん。」
「それじゃあ、おばさん、もう行くね。バイバイ。」
私が立ち上がって手を振ると、優花ちゃんとしゅうくんが手を振り返してくれた。
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