十二、対面
翌朝、私が目を覚ます頃、また母さん以外の三人が来てくれた。
母さんは、仕事らしい。
「ねぇねぇ、赤ちゃんとはもう会ったの?」
「いえ・・・でも、もうすぐ、授乳時間なんです。」
「そっか。・・・私と辰郎は、見てきたよー。可愛かったなぁ・・・」
「お二人で?」
「うん。・・・幸隆さんは、仕事があって、さっき来たとこだから。」
そっか。
いつも、二人は一緒にいるイメージだけど・・・そんなわけないもんね。
「辰郎さん・・・私たちの子は、どうでしたか?」
「・・・かわいらしい、男の子でしたよ。・・・目は・・・あなた似でしたね。」
「口元は、うちの家系ね。」
早く、私も会いたい。
生んだ後、すぐに抱かせてはもらったけど・・・あの時は疲れ切ってたし。
「松岡さん。授乳の時間ですよ。」
待ちに待った、赤ちゃんとの対面。
看護婦さんが抱いて入ってきて、私に抱かせてくれる。
「・・・かわいい」
他に、何と表現すればいいのか、わからなかった。
ただ、かわいい、愛しい・・・
「ねぇねぇ!私にも抱かせて~!」
「はい。」
お義姉さんに、そっと我が子を託す。
・・・本当は、もっと抱いていたかったけど・・・お義姉さんも、ずっと子どもを欲しがっていることは、知っているから。
「かーわいー。・・・うんうん。裕美ちゃん。この子、将来かっこよくなるわよー。」
「何を根拠に・・・」
笑顔で宣言するお義姉さんに、お義兄さんが少し呆れて・・・でも楽しそうに声をかける。
「あなたも抱いてみれば分かるわ。ほら・・・いいわよね?裕美ちゃん。」
「えぇ、もちろん。」
お義姉さんに赤ちゃんを渡されて、お義兄さんは不安げな顔をしながらも、危なげなく受け取った。
「あら、あなた慣れてる?」
「・・・いや。小さくて、幼稚舎の児童くらいだよ。赤ん坊は・・・〈僕〉は初めてだ。」
「そう・・・。」
学校の経営をしているお義兄さんは、普段から子どもと接することは多いみたいだ。
とはいっても、今言ってたように、赤ん坊は通ってないから、初めてみたいだけど。
お義兄さんの言葉に、少し違和感を覚えた。けど、それが何なのか・・・私にはわからなかった。
お義兄さんは、お義姉さんとの話をやめて赤ちゃんを見た。
「・・・りゅう・・・?」
「どうかした?」
「あ・・・いや、なんでもない。」
お義兄さんの表情は明らかに変わったような気がしたけど、その時なんて言ったがまではわからなかった。
「・・・あの、そろそろ・・・」
赤ちゃんも、お腹を空かせているはず。
そう思って、お二人に声をかける。
「そうね。ほら、あなた。私たちは出ましょ。」
「あぁ・・・。」
お二人が部屋を出ていって、部屋には私と辰郎さんて・・・赤ちゃんの三人だけになる。
「・・・本当に、お義姉さんが言った通り。口元がそっくり。」
「・・・・・・。」
「辰郎さん?どうかしましたか?」
「本当に、小さくて・・・。生まれたあとに、一度抱かせてもらったんだけど。何もかもが、小さくて・・・」
辰郎さんの手は、かすかに震えていた。
「でも、確かに生きてる。・・・ありがとう、裕美。こんなに感動したのは・・・君にあったとき以来だ。」
「辰郎さん・・・」
私は、なんと答えるのが正解なのかわからなくて・・・辰郎さんに、笑いかけることしか、できなかった。
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