十一、もうすぐあえる
予定日になる前に、陣痛がきた。
まだ、間隔は短くないから、大丈夫だと思うけど・・・
出張中で、予定日の三日前に帰ってくる予定だった辰郎さんは、まだここにいない。
代わりに、お母さんとお義姉さんとお義兄さんが付いてくれている。
「裕美、頑張るのよ。」
「うん・・・お母さん・・・ありがとう。」
「まったく、身重の妻を置いて・・・。安心してね、裕美さん。辰郎は、私から叱っておきますから。」
「まぁまぁ。・・・辰郎は、今はもう新幹線に乗ったはずだから。許してやってね、裕美さん。」
「そんな・・・」
許すだなんて・・・そんな・・・
今回の出張は、社長である辰郎さんが直接行かなければいけないものだったし、私もそれを理解して、送り出したんだから。
そりゃあ、不安はないと言えば嘘になるけど・・・
「大丈夫です・・・。お義兄さんたちが、いてくれますから。」
「そうか。・・・駅に着いたらポケベルを鳴らすように言ってあるから、来たら教えるからね。」
「ポケベルを?電話は?辰郎、携帯電話持ってるでしょう?」
「辰郎は持ってるけどね。僕は持っていないし、ここは病院だろ?」
「あ・・・そうね・・・。」
「あ、あの・・・ありがとうございます・・・。」
う・・・また、陣痛がきた・・・
「ちょっと!もう十分周期じゃない!どうしてもっと早く言わなかったのよ。先生呼んでくる!」
お義姉さんが待機室を出ていった。
「辰郎さんは、まだ来ないのですか?」
お母さんが、不安そうにお義兄さんに尋ねる。
「まだ、連絡は来ません。多分、もう少しでこっちには着くと思うのですが・・・。」
「裕美、頑張るのよ。赤ちゃんも、頑張ってるんだからね。」
私は、返事をする余裕もなくて、ただ必死で頷いた。
辰郎さんが到着したのは、私が分娩室に入って二時間くらいしてかららしかった。
けど、その時の私は、そんなことを考えてる余裕もないくらい一生懸命だった。
新しい、命を・・・私たちの子どもを、生み落とすために・・・
分娩所要時間は約十時間。すごく長く感じたけど、初産だからこんなものだろうって、先生は言っていた。
生まれた子は男の子。
まだ生まれたばかりでベトベトだったけど、それでも・・・本当に・・・かわいかった。
自分の子どもって・・・ただそれだけで、愛しい。
「お疲れさま。頑張ったね、裕美ちゃん。」
「お義姉さん・・・ありがとうございます。」
出産直後、疲れでろくにしゃべれなかった私を、お母さんやお義兄さんたち、そして・・・辰郎さんが、出迎えてくれた。
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※出産の描写がありますが、作者が人に聞いた話やTVや紙面の物語を参考に想像したものです。あり得ない!ということがありましたら、こっそり教えて下されば幸いです。
しかし、ポケベルなつかしい・・・
このくらいの時期だと、携帯電話は、仕事とかで持つ大人が出てきたかな・・・といった感じ。
ポケベルの人と、携帯電話を買った人と、両方いる感じだったかと思います。




