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落ちこぼれの二重人格  作者: 木嶋隆太
第二章 空間停止
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第19話 結末


「私はね、隠してた力があるんだよ」


 そういって、手をかざしてくる。

 カイは瞬時に察知して、横に跳ぶ。


 俺がさっきカイがいた場所を見ると、


(止まってんのか?)


 蹴り上げた、足場の土が宙に舞ったままで固まっている。

 砂の破片が空中で固まってる姿は常識ハズレで。


 あれがあいつの魔法なのか?


 どう考えても特殊魔法。

 さしずめ、一定の空間の時間を止めるといったところだ。


 どのくらいの範囲なのかは分からないが、それほど大きくはない。

 カイが、やられっぱなしのままでいるわけがない。


 右手で剣を構えながら、走り出す。

 左手には地面で掴み取ったグラウンドの砂を持って。


 ぐっと歯を噛み締め、蓮は剣を振るう。

 カンッ! と鉄に当たるような音をあげて、刃は理沙に届く事はない。


(殺す気満々じゃねぇか!)


 ためらいもなく首を狙った一撃に思わず声を荒げる。

 とはいえ、心の中にぐわんぐわん響くだけで周りに迷惑はかからない。


(うっせぇっ! ガードすんのは分かってんだよっ)


 カイは、理沙の両目を睨みつけると、にこっ。

 理沙が笑う。


 まあ、可愛らしい笑顔。


(戦闘の邪魔だ、テメェの考えてることは!!)


 カイが俺に剣でも刺さんばかりに理沙から離して、左手を振りながら開く。

 中に収まっていた砂の破片たちが、空中に飛び理沙へと襲い掛かる。


「はい、終了」


 理沙がいつものお気楽雰囲気で言うと、


「なっ!?」


 周囲が固まる。


 理沙は、何のアクションも起こさないで魔法を発動させやがった。

 俺の体は一瞬のうちに動かなくなる。


 いや、元々俺は動かせていないんだが。


「いやぁ、もう少しで殺されると思ったよ。さっすがだね櫂くん。いや、今はちょっと違うかな」


 理沙は、ぱちぱちと拍手をして拳銃を取り出す。


「殺しはしないよ。ただちょっと眠っててもらうね」


 あれに麻酔弾が入っているとは思えない。

 物理的に気絶させるのだ。いたそう。


(おい、聞こえてるか!)


 がんっと脳を殴られるような轟音が響き渡る。


(なんだよ)


(この魔法を上回るには大きな魔力が必要だ。または魔力の波を乱すものがな)


 ここで負けるわけにはいかない。

 理沙には聞きたいことは山ほどあるし、愛音も守れなくなる。


(どっちも無理だな。何か作戦はあるのか?)


(オレとお前が入れ替わる瞬間だ。周りの魔力を乱す力がある)


(つまり、俺に主導権が戻るのか?)


(ああ。だが、一回じゃ無理だ。二回だ。オレからお前。そしてオレに戻す)


 俺たちの入れ替わる力に魔力を乱すような力があるなんて知らなかった。

 だが、可能性があるのならやるしかない。


(それで破れるのか?)


(ああ、お前は変わった瞬間にすぐにオレに渡せ。いいな?)


(分かった)


「それじゃ、これで終わりだよ」


 理沙は、悲しげを唇を噛み締める。

 なんで、そんな表情をするんだ。お前は目的を果せるはずなのに。


(行くぞっ!)


 カイが叫ぶと俺に主導権が戻る。

 身体全身を圧迫するような感覚。これが時間を止めた空間なのか。


 魔力が乱れたのか、指先くらいなら動く。

 そして、すぐに戻す。


「えっ!?」


 すると、ばんと音をあげて空間が壊れる。

 カイは瞬時に剣で前方をなぎ払う。


 理沙は拳銃でガードするが、威力に負けて弾かれる。

 追撃とばかりにカイは大地を蹴る。


「くっ!」


 理沙は、態勢を直して拳銃を構えるが。

 カイの跳びは速かった。


 理沙の眼前に現れて、もう一度剣を峰の側で振る。

 頭を狙った一撃を理沙は拳銃でガードする。


「この距離じゃ、魔法はつかえねぇようだな」


 カイがひっと悪い笑みを浮かばせる。

 やめてくれ。俺の印象が悪くなるだろ。


 理沙は、数秒目を閉じて。


「やーめた」


 拳銃から力を抜く。

 カイも対応するように剣を放して、


(あとはテメェに任せる)


 主導権も返してくれた。


(あっさりと返すんだな)


(さっきのバトルで力を使いすぎた。休ませてくれよ)


 そのまま、心の中から消えたように身体から何かが抜ける。


「理沙。なんで、こんなこと……」


 俺は剣を構えながら、理沙に事情を追及しようとした。


「……櫂くんには、悪いことしちゃったな。ごめんね、私が弱いから」


「弱い?」


 十分強いだろ。

 俺じゃ勝ち目はないぞ。カイだったからどうにかなったものの。


 理沙は体育座りに近い姿勢をとり、膝の上に手を置き顎を乗せる。


「あーあ、私はやっぱり籠の中がお似合いなんかなぁ」


 籠の中? 

 意味の分からないフレーズに俺が疑問を感じていると。


 ぽろぽろと涙をこぼし始めた。

 理沙自身も驚いているのか、慌てて両手で拭い始める。


「私、駄目だなぁ。ごめんね、変な心配させちゃって」


「別に。友達なんだからそのぐらい……」


 理沙は、涙を拭き終えてから立ち上がり服をぱんぱんと叩いて砂を落とす。

 俺もつられるように立ち上がり、理由を聞こうと口を開こうとすると。


「理由、聞きたかったんだよね?」


「あ。ああ」


 機先を制されてしまい、微妙な返事をしてしまう。


「私はね、ちょっと複雑な事情があってね……」


 そこまでいい、まさにこれから打ち明けようとしたとき。


 びゅうううと大きな風がグラウンドの砂を巻き上げて、煙幕のようにほどに濃くなる。

 前が砂のせいで見えない。


 おまけに目を開けていれば、目に砂が入ってしまう。

 俺は剣をしまいながら、両目の部分に腕を当てて守る。


 耳に届く風の音が収まってから俺は顔をあげると。

 一人の男が立っていた。


 黒い服で、理沙に似ている。仲間か?


「時間だね」


「期待はしていなかったが、やはり失敗か」


 男は理沙に向けていっているようだ。浮き沈みのない声はどこか体を強張らせる力を持っている。


「誰だ?」


 やっとの思いで搾り出した俺に、理沙が目を動かして反応する。


「私の……同業者ってところかな?」


 ちょうどいい言葉が見つからなかったのか顎に手を当てて悩む仕草をしていた。

 理沙はゆっくりと俺から離れ、男の方へと歩いていく。


「どこに行くつもりだ?」


 行かせない。きっとついて行っても彼女の幸せには絶対にならない。

 確信に近い思いを胸に抱きながら、俺は理沙の手首を掴む。


「どこって、アジト?」


 理沙は、笑っていた。

 なぜか満足そうな顔つきで。まるで、失敗を喜ぶように。

 

 失敗を、喜ぶ?

 そうだ。理沙は初めから本気じゃなかった。


 戦闘中もそうだし。昨日、俺の前にわざわざ姿を見せて魔法を使って見せた。

 理沙は逃げるために使っただけなのかもしれない。だけど、俺にはわざと使ったように今は感じる。


 すべて、失敗するために。愛音を守るために。


「お前……もしかして」


 やめろ、理沙。

 駄目だ、行くなっ。


 俺の腕を払おうとした理沙をさらに強く掴んで引き寄せる。


「守ろうとしてくれたんだろ。おまえは。だったらここからは俺に任せろ」


 保障なんてない。根拠もない。

 一番大事な力もない。

 

 俺は両手で剣を持ち直して、ゆっくりと構える。

 敵は、かなり強い。この前戦った狂った男の数倍、数十倍。


 それに、今はカイも戦える状況じゃない。

 無謀だ、やめろ。弱気な俺が囁いてくるが、俺は振り払うように突撃する。


 剣を構えただけの突進。技も、力もない攻撃は、風に阻まれ偽者の刺さった感覚だけが手に伝わる。


「弱い奴が、でしゃばるなっ!」


 男が怒鳴ると同時に爆風が起こる。

 風は、力となって俺の剣を吹き飛ばし、俺もグラウンドを雑巾がけするように転がりまわる。


「やめて! 私はついていくんだ! 櫂くんに手を出すな!」


 理沙。俺の事は気にするな。

 両手で膝をおさえながら立ち上がり、相手を強く睨む。


 ふんばれ、ここであきらめれば本当にすべて失ってしまう。


「ふん、そいつが勝手にやってきたのが悪いんだ」


 男はそういって、理沙を掴み。


「待て!」


 逃げるまえに俺は前さえも良く見えない疲労状態で男の背を掴むように手を伸ばす。

 だけど、間に合わなかった。


 届いた、と思った時には何もなく俺は空気を一生懸命掴もうとしていただけだった。

 男は、テレポートの力を持っているのか? またはこの前の男が遠くでサポートしているのか。

 

 相手の能力なんざどうでもよかった。

 俺は自分の不甲斐なさと疲労から立っていられなくなり、その場に膝をついた。


 無力で。弱くて。カイがいなくちゃ何も出来ない。

 弱い奴。男の言葉が焦げのようにこびりつき、耳に残る。


「くそっ!」


 両手で力一杯にグラウンドを殴るが、痛いだけで。

 ――何も変わらない。


 俺はもっと強くならなくちゃいけないんだ。誰かに頼らないで。

 俺が強くならなくちゃ、駄目なんだ。







 あの後は良く覚えていない。

 引きずるように会場に戻って、愛音や若葉に文句言われて。


 気づいたら自分の部屋に戻って寝ていた。

 朝起きて、考えるのは昨日のこと。


 理沙……。悩みはあるが、いつまでもうじうじはしていられない。


 相手が愛音を狙うのだったら、いつか会えるはずだ。

 そのときまでにあいつよりも強くなって、理沙を取り返せばいい。


 起き上がり気合を入れるために、頬を叩く。

 残るのは痛みだけだったが、少しは強くなれるような気がした。


「櫂ー! おはよう! 朝ごはん食べよっ」


 愛音は、今日も元気だな。

 俺は、愛音に手を掴まれながら部屋を出た。


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