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落ちこぼれの二重人格  作者: 木嶋隆太
第二章 空間停止
17/19

第17話 最悪の休日

次回も更新遅れます。5~7日後に更新します。


 俺は燦々と煌めく太陽を睨むつける。

 ああ、なぜ今日はこんなに暑いんだ。


 朝食をとり、腹を満たした俺たちは街の中心に来ていた。

 大きな店や、ギルドなど街に重要な拠点が多くある。


 後は、魔法学校とか。

 そちらはあまり関わりたくないのでなるべく近寄らない。


 ほどよく離れた俺らがいる場所は、主に生活品が多く売られている店が連なっている。


「どこに行くんですの?」


 俺に並んで歩く、若葉。

 愛音は俺たちの前をスキップしている。


 楽しそうだな。

 特に目的もないのだが、この際だ。


 適当にぶらつかせるのも悪くないだろう。


「特には考えてないな。愛音はこの街をよく知らないからな、適当に歩かせるさ」


「散歩、みたいなものですの?」


「まあな」


 不満そうな顔になる若葉。

 下手につついて蛇が出てもいやなので触れずに歩く。


「愛音。どっか行きたい方角あるか?」


「北の方?」


「よし、行くか」


 中央通りから右に曲がれば、あら不思議。

 北側エリアに突入だ。


 途中に小さな道が点々としているが、基本は大きな道を使えば安全に移動できる。

 バスを使ったほうが明らかに早いが、俺としては移動時間が長いほうが嬉しい。


「北には何があるの?」


 愛音は本当に何も知らない。

 俺が一から説明するのはちと面倒だが仕方ない。


「北側には、結界装置があるな」


「結界?」


「モンスターを退けるためにあるんだよ。見たことないのか?」


 結界はかなり大きな魔石を使って作られている。

 魔石に人間が魔力を与え、機械で増幅させて発動する。


 だから、結界に魔力を供給する仕事もある。結構給料はいい。

 

「街の東にはダンジョンへの入り口もあるな。ま、俺は一度も入ったことはないが」


 力がないんだからどうしようもない。

 最下層のモンスター程度ならどうにかなるかもしれないが、疲れる割に大した金にもならないのだからやる価値は皆無だ。


「私は入ったことありますわよ」


 愛音があからさまな嫌悪をむき出しにする。

 相変わらず二人の中は悪いままだ。


 まあ、この関係を傍から見てる分には悪くはない。


「櫂の横に並ばないで、くださいまし!」


「それはこっちの台詞! あんたなんかどっかにいけ!」


 当事者にならなければ楽しいのかもしれない。

 生憎俺は巻き込まれている。


 楽しくはないが、嫌でもないんだけどな。

 人々が行きかう街中。結界装置に近づくほどに一般人よりも騎士の人たちが増えていく。


 鎧をつけたり、剣や盾を装備して闊歩している人も見受けられる。

 結界装置は街を守るのに不可欠のものだ。


 俺たちがいるここは国の首都でもあるからな。土地も広く、人も多い。

 結界装置に何かあれば多大な人命が危機に曝される。


 結界装置の前にたどり着く。

 大きな青色の丸い魔石がある。台座の部分は黒い機械が備えられていて、二つで結界を生み出すのだ。

 

 どちらかがかけてもこの街は危機に陥る。

 だからこそ、周囲を多くの騎士が囲んでいる。


 観光者だろうか。数名のこの場に合わない私服を着た人物もいる。

 珍しいからな。田舎から来たのか興味ぶかそうに見ている。


 俺たちも人の事は言えないんだよな服に関しては。

 愛音は短いズボンと半袖の男のような恰好に、若葉はワンピース。


 俺も普通の私服だ。


「これが、結界……?」


 見ただけで理解はできないだろうな。

 戸惑い顔の愛音に頷く。


「ああ、まあこれほどの規模の魔石はあまりないからな」


 戦闘や生活で使用されるものは掌に収まるサイズだ。

 目の前にある魔石は、愛音が20人くらい手をつないでやっと囲めるくらいの大きさだ。


「それにしても、つまらないですわね……」


「なら、寮に戻ったほうがいいぞ」


 楽しませるために連れてきたわけじゃない。

 俺の目的は愛音へ街の案内。


 もっと早くに案内する予定だったが、ごたついていたから仕方ない。


「他に行きたい場所はあるか?」


 愛音は、結界装置をぐるりと一周。

 戻ってきたので、俺はポケットに手を突っ込みながら訊ねる。


「うーん、楽しい場所」


 楽しくなかったのか。

 ある意味無茶振りでもある内容に、俺は頭をかくしかない。

 

 将也と一緒にゲーセン行ったりはするが、女子には楽しいものなのか?

 理沙はゲームショップが大好きだったが、あいつは一般の女子からかけ離れているからな。


 後は、デパートとかか。

 愛音ならおもちゃ売り場につれていけば喜びそうだ。


 若葉は……パフェとか好きだったはずだ。

 奢ってやれば仏頂面も少しは改善されるだろう。


 つか、なんで俺がこいつのために何かせにゃならんのだ。


「中央に戻るか」


「えぇ……足痛くなるよぉ」


 子供か。

 地面に座りこんで、断固動きませんと睨んでくる。


「あら。でしたらここに残りなさい。櫂、行きましょ」


 俺の腕をとって、無理やり引っ張る。


「お、おい」


 急に腕を持ってかれて態勢が危なかった。

 こっちはポケットに手入れてたんだからな。


 緊急時に両手塞がってたんだぞ。


「ああ、待ってよ!!」


 愛音が、涙を生み出しそうな声をあげて追いかけてくる。

 子供だ、完全に。






 一番大きいとも言われるデパートに俺たちはいた。

 休みだというのに人がうじゃうじゃ。


 休日は寝て過ごすのが常識じゃないのか?

 エスカレーターに子供な愛音はすっかり魅了され、意味もなく上へ上へと登り続ける。


 最上階まで行けば今度は下がる。

 俺は途中からベンチで休んでいようかと思ったが、一応目を離すわけにはいかない。


 カイにもずっといろ。オレの心を癒させろと怒られた。

 お前は、もっと穏やかになれ。


 口調をどうにかしろ。


「うわぁぁぁっ」


 エスカレーターで現在は下降中。

 愛音は下に顔を出して感嘆の声をあげる。

 

 犬なら全力で尻尾を振り回している。


(うわぁぁ、愛音かわぃぃぃぜ)


 カイが気持ち悪い声をあげやがるので、俺の顔面は引きつる。

 こいつは、戦闘中とのギャップが激しく気持ち悪い。


 喉の辺りがすっぱくなるくらいな気持ち悪さだ。


「あんまり乗り出すなよ。ほらもうすぐ終わるぞ」


 俺は肩を叩くと、銀髪の髪が宙を舞って愛音の顔がこちらへ向く。

 相変わらず、整っているな。


 化粧なんて一つもしていない肌は餅のように白く、柔らかそうだ。

 エスカレーター遊びもそろそろ終わりだ。


 いい加減飽きてきたよ、俺も。

 時間を確認するともうすぐお昼。


 デパートで昼食でもとるか。


「そろそろ、飯食い行こうぜ」


「あ、うん」


 俺たちは、途中で服を見ていた若葉を拾って飯を食べにいった。






 午後。

 昼食後。解散を唱えていた俺だが、二人の猛烈な力技による反対に押し切られぶらつくことになった。


 とはいえ、時刻ももうすぐ六時を回るような時間だ。

 俺としてもそろそろ帰りたい。


 だが、両腕を蝕む愛音、若葉がなおも連れまわしやがる。


「次はここに行きますわよ!」


 若葉が言えば、


「こっちだよ、櫂!」


 愛音が対抗して違う場所を示す。

 埒が明かない。


 にらみ合いの間に挟まれた俺がため息をつくと。


(……つけられてっぞ)


 内部からも攻撃される。

 ひとまずはやんわりと受けいれる。


(つけられてる? 俺たちが、か?)


(ああ、後ろに黒いローブを着た奴が一体いるな)


 カイはどうやって見つけたのか気になったが俺は何も聞かずに顔をしかめる。

 腰に手をあて、武器を確認――大丈夫だ。


(本当に俺たちを狙ってるのか?)


(正確には愛音、だろうがな)


 俺は今も腕を引きちぎらないばかりの愛音を見る。

 俺と目が合い、にこっと微笑む。


 本当にこいつはなんで俺にこんな懐いているんだ。

 とは思ったが、しばらくは構っていられない。


(仕掛けてきそうか?)


(まだ、大丈夫だろうがな。人気のすくねぇ場所は勧められないな)


 もとより行くつもりはない。


「そろそろ帰ろう」


 幸いにも、ここから学校までは五分程度の道のりだ。


(学校まで送ったらそいつを捕まえる。見張っててくれ)


(ちっ、命令しやがって。戦いはオレがやるからな)


 体は疲れるがしょうがない。

 俺は頷いて応じる。


「ええ? まだ、あんまり遊んでないよぉ」


 愛音が寂しそうに目を細める。

 もう十分だろ。


 一日も外に出ているなんて滅多にないからな。


「子供はもう帰る時間なの。若葉も帰るぞ」


「嫌ですわ! 私は、子供じゃありませんものっ」


「理事長に言いつけるぞ」


「帰りますわよ!」


「愛音も、また今度でいいだろ?」


 二度と遊びたくはないが。

 子供の体力にはついていけない。


「う、うん!」


 二人の扱いは簡単だ。

 愛音はまた今度、若葉は理事長をちらつかせればあっさりと通じるのだから。


 俺は二人を前にして、周囲に気を張りながら学園まで送った。




 学園に戻り、若葉とは一回別れる。

 だけどどうせまた食堂で会うんだろうな。

 

「早く夕飯食べにいこっ」


 すっかり楽しんだ愛音はそそくさと食事に行こうとする。

 

「ああ、じゃあ将也と先に行っててくれ」


 今すぐに行けないのだ。

 やるべきことがある。


(まだいるか?)


(ああ、入ってくる気配はねぇがな)


「え? なんで?」


「腹が痛いんだ。トイレに行ってくる」


「え、ええ。うん、分かった」


 顔を赤くした愛音を追い払うことに成功する。

 校門から一番近いトイレに走って行き、途中で引き返す。


 既に愛音の姿はない。

 俺は校門から出て、見つけた。


 あまり上手じゃない隠れ方をしていた犯人を見つけ駆け出した。

 相手も逃げるように道を曲がる。


 追うように曲がると。

 赤い炎弾が俺の顔目掛け襲い掛かる。


「ちっ!」


 瞬間的に入れ替わったカイが、剣を抜き去り魔法を上空へ弾く。

 剣の攻撃範囲に入るためにばねのように曲げて跳ぶ。


 相手は剣を抜き、カイの一撃を逸らして回避する。

 腕が細い。女か?


 カイは、すぐに追撃。

 閃光のような連続斬りをお見舞いして、とうとう当たり素顔が露になる。


 俺は、それに驚き言葉を失った。

 元々、喋る事はできなかったが。


(理沙……っ!)


 内心で叫ぶと、相手も聞こえたように崩れた笑みを浮かべる。


「やっほっ。久しぶり」


 千明理沙が目の前にいた。


「お前は、確か……」


 カイも一度だけ見ているはずだ。

 保健室のときには、こいうは俺の中に生まれているのだから。


(おい、カイ! 代わってくれ!)


(ああん? なんでだよ)


(そいつは俺の友達だ。話すことが色々あるんだよ!)


 最近全然連絡はとれないし、それに、会えたと思ったら俺たちをつけていた?


 意味が分からない。


「久しぶりだね。本当に髪も、目も色が違うんだね」


 カイの姿を俺は知らない。

 だけど、こいつは、赤い髪らしい。若葉だかが言ってたからな。


(戦いになったらすぐに代わるから!)


(ああ、うぜぇ! わーったよ、代わってやる)


 ようやく交代して、俺は理沙と向き合う。


「何してたんだよ……」


「うーん、監視?」


「何のためにだよっ!!」


 理沙が、俺を――愛音を監視するなんて。分かる、分かってるんだ。

 ここまでで彼女が普通の学生じゃないことは分かった。


 だけど認めたくない。


「そんなの、愛音を誘拐するために決まってるよ」


「……本気で、いってんのかよ」


「本気だよ。だから邪魔しないほうがいいよ? 私、かなり強いよ?」


「ふざっけんなっ!」


 俺は、剣を握り締めなおし、カイに代わることもなく飛び掛る。

 斜めから理沙に剣の腹をぶつけるように振り回す。


(おい! 体を貸せ! テメェじゃ無理だっ!)


 カイがごちゃごちゃいうが、うるさい。


「駄目だね~。そんなんで当たるわけないよっ。ほいっ」


 彼女が指を鳴らすと、俺の体が空中で止まる。

 な、なんだ?


「私の特殊魔法かな。空間を指定して時を止める力、だよ。ふっふっふっ、とっておきってやつ? とにかくこれで分かった? 私の実力」


 理沙は、俺のよこに並び、ちゅっと頬をキスする。


「な、なにすんだよっ」


 予想外の行動に焦る。


「あはは、それじゃあね。今回はこれで終わりだけど、次は本気で……殺すからね。邪魔しなければ何もしないよっ」


 ばいばーいと手を振って、理沙は去ろうとする。


(体を貸せっつってんだろっ!)


 怒号に俺はびくつき、そのまま体を渡す。

 すると、チェンジしたおかげなのか魔法が解除される。


「わわっ!」


 理沙は即座に俺から離れて、もう一度ぱちんと鳴らす。


「うっぜーんだよっ!」

 

 カイは……魔力を吐き出して無理やり弾き返しやがった!

 お、おい! 俺の体から魔力でてんじゃねぇーか! どうなってんだよ!


「なっ?」


 だが、カイから俺に強制的にチェンジが起こる。

 戻ってきた俺の身体。どういうことだ?


「今度こそ、じゃねー」


 驚いている暇に理沙は遙か遠くに行ってしまった。

 今から追っても追いつけない。

 

 俺は道路に座り込んでしまう。 


「どうなってんだよ……」


 もう、俺の頭の許容量を超えた。

 何が、なんだか訳が分からない。


(まだテメェの体にオレがなれてねぇんだよ。無理に魔法を使おうとしたから強制的に戻された)


 心の中で話すのも煩わしい。

 俺は、痛い子に見られてもいいやと口に出す。


「なら、もっと長く時間を過ごせばちょっとはましになるのか?」


(まあ、そうなるな。かなり先になると思うが。んで、どうすんだ?)


 どうするもこうするも、帰るしかない。

 俺は、とぼとぼと何もつかめないまま寮に戻って、ベッドに体を投げ出す。


 愛音や若葉との休みは、まあ、悪くはなかったのに。

 最後の最後でどん底に落とされたよ。

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