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落ちこぼれの二重人格  作者: 木嶋隆太
第二章 空間停止
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第14話 対話


 選手として出れなくなった俺たちは観客席にいた。

 先週とは違い、人も少ない。


 三年、二年の人々が明らかに少ないのは予定がずれたからだろうな。

 色々忙しいからな、先輩達。


 まだ納得できていない将也は苛立った顔のまま席についている。


 触れないでおこう。触らぬ神に祟りなし。

 俺も、別に見たくはないんだけどな。


 一年生はまだまだ甘えが抜けない八百長のような戦いだ。

 魔法のレベルはSクラスの試合でないと視覚的にも地味なのだ。


 理想はSクラス対Sクラスだがそこまで行くのはまだまだ先だろう。

 となると、それまでどう時間を潰すか。


 俺は左右にいる二人にちょっと出かけてくると言い残そうと口を動かして、


(おい、テメェ、聞こえてるか?)


 心の中に響く声。


 闘技場で襲われたときの、もう一人の俺の物だ。

 なぜ、いきなり、突然に。


(こっちから話しかけても何の返事もなかった癖に、なんのようだ?)


(こっちもな、まだ身体が馴染んでねぇんだよ。無視するつもりはなかったさ)


 彼自身に、何か問題があったようだ。

 このチャンスを捨てるわけには行かないな。


(おい、お前誰だよ?)


 心の中で言葉を放つと、


(まだ、何も分かってねぇのかよ。愛音は無事なのか?)


 イラッときた。


(無事だ、知らないのかよ)


 似たように言い返すと、相手は笑いだす。


(は、まあ根性だけはあるようだな。名前だっけか? オレに名前はねぇよ。適当に呼んでくれ)


(んじゃ、チンピラな)


 さくっと決めると、何でもいいといった癖に苛立っている。


(悪意を感じるぜ。オレはカイとでも呼んでくれ)


 カイ、ねぇ。何で自分で自分の名前を呼ばなきゃならないんだよ。


(俺の名前じゃねぇか……)


(実際テメェとオレは同じ存在だからな、)


 同じ? 


(どういうことだ?)


(そのまんまだ。オレは過去のテメェだ。前世とか言ったほうが分かりやすいか?)


 前世。

 転生を前提にした話ではあるが、俺のもう一つ前の人生の話か。


 そんなもの、言われても納得できないぞ。

 確かめる方法はない。


 嘘を吐く、とは思えないが簡単にはいそうですかと頷くなんて無理だ。


「どうしたの、櫂?」


 俺が頭を抱えだしたからか。

 愛音が心配そうに顔を覗き込んでくる。


 やめろ、近い。ちょっと動けばキスできそうな位置だ。

 

(相変わらず、可愛いぜ)


 寝ぼけているのか、俺の中のカイが何かを言った。

 なんと言うか、心の中で笑っているような気がした。


(お前、ロリコンかよ)


 生憎、愛音のレベルは俺にとっては妹のような存在に近い。

 興奮するなんて有り得ない。


 うん、たぶん。


「櫂? 大丈夫? 体調悪いの?」


 俺が頭を抱えているのを体調が悪いと判断したのか。

 愛音が心配そうに顔を覗き込んでくる。


 悪いな、心配させるのはよくないな。


(テメッ、愛音に心配かけてんじゃねぇよ!)


 うるさい奴だ。


「ああ、大丈夫だよ。ちょっとトイレ行ってくるだけだからさ」


 ここから離れる口実ができたな。

 将也に頼むと任せて闘技場から離れる。


(お前は、俺の魔法なのか?)


(はぁ? しらねぇよ。この時代の魔法の原理なんざ。少なくともオレがいた頃は魔法を使う奴は異端者扱いだぜ?)


 異端者扱い。

 それって、地球に魔法が生まれてすぐの頃だった気がする。


 この世界に魔法を生み出したとされる、神様。

 実際は魔法が誰よりもうまく使えるだけのただの人間。


 魔法を使えることで忌み嫌われた人々に、魔法の使い道を教えて回ってた人だ。

 最終的には魔女扱いされて殺された悲しい人生を歩んだ人。


 幼い頃に絵本として読み聞かされたな。

 差別がどれだけいけないのかを教えるための教育になるとかなんとか。


 ま、実際は全然効果はないが。


(お前は、俺の力として認めていいのか?)


 今後。

 敵が襲ってきたとして、カイが味方してくれるのか。

 

 助けてくれるかどうか、心配だった。


(ああ、テメェがオレに体を貸してくれればな)


 答えは簡単だった。

 俺は一人でにやけて、図書館に足を伸ばす。


(どうした。戻らねぇのか? 愛音の顔を早くみてぇ)


 こいつは、本当に愛音が好きみたいだな。

 ……ちょっと待てよ。


(お前は、愛音を知っているのか?)


(当たり前だ。銀髪と子供のような体躯。昔っから同じだぜ?)


 カイの言葉は、何を意味するんだ?

 愛音がかなりの長寿で、カイが存在していた頃から今までをずっと生きてきた。

 

 又は、愛音は転生をしたが今と同じ容姿をしている。


(お前の知る愛音と、今の愛音。何か違いはあるか?)


 一番の疑問は愛音の存在でもあった。

 あれほどの実力を持った少女が、なぜ今まで話題にならなかったのか。


 愛音の両親は、たぶん死んでいる。

 とはいえ、愛音の両親もかなりの力があるはずだ。


 魔法の力は例外はあれど、遺伝の影響が多いからな。


(まあ、雰囲気は違うな。昔はもっと固い口調で、あんなに笑顔は振りまいてなかったぜ)


 つまり、愛音とカイの知る愛音が他人の空似みたいなものなんだろうな。

 

(つーか、どこ向かってんだよ)


 早く戻れと急かしてくるが、俺は耳を閉じて――も聞こえるので心を閉ざそうとする。

 カイは何度かうるさく喚くが、俺が完全無視を貫いていると静かになった。


 人が通らない廊下と一人で歩き、学校の本校舎一階にある図書室へと向う。

 二階立ての大きな図書室だ。

 

 ほんの貯蔵量はそこらの図書館を遙かに凌駕している。

 俺と同じように、試合を見ずに図書室で暇を潰している生徒はちらほらと見えた。


 一応は静かに喋っているが、小さなグループが独立して喋ってるので結構うるさい。

 迷惑を考えろよな、日本語も読めないのかあいつらは。


 注意すると面倒なので、見なかったことにし検索機に向かう。


 魔法の資料集を探すのだ。

 目的の本のありかを突き止めたところで、図書室を歩く。


 俺の背を優に超える本棚の隙間を縫って番号を頼りに探す。


 あった。


 目的の本棚は魔法に関する様々な資料が置かれている。

 

 ――過去に俺と同じ魔法の持ち主がいたのか。

 知りたかった。


 学校の授業や、友達との会話では一度も聞くことがなかった魔法だからな。

 分厚い、武器として使っても申し分ない本を取り、ぺらぺらとめくる。


 筋肉が悲鳴をあげるほどに重いぞ。は、早く机にいかねば。


 俺が掴んだ本は過去の特殊魔法を纏めたものだ。

 これをすべてみて似たような魔法があるのなら、それで終わりでいいんだけどな。

 

 誰も席にいない机を探す。

 俺は、逆の意味で一年の間じゃ有名だからな。


 目立たずに日陰を徘徊させてもらう。

 

 なるべく、周囲から見えない席についていざ読み始めた。

 読む、というよりは目を通すだけなのだが。






 手がかり欠片もねぇよ。

 分厚いが、俺にとってはどうでもいい内容だった。


 重たい本を元の場所に戻して、ふう。

 他の本はどれでも先程俺が見ていた本よりも情報が少ない。

 

 ここで打ち止めだな。

 さっきからマナーモードにしてる携帯もうるさいしな。


 図書室をでて、携帯を取り出す。


(何か分かったのか?)

 

 にやにやと、してるな。

 性格の悪い奴だなとだけ思って無視させてもらった。


 これ以上無視すると携帯の許容量を超えそうなほどの着信履歴から将也の物を選択する。


『おい、櫂。いつまでふんばってんだよ。出たのか?』

 

 大便じゃないんだが。

 他の言い訳を考えるのも面倒なやる気のない俺の頭脳は受けいれた。


「ああ、もう大丈夫だ。愛音は?」


『こっちで食い入るように見てるぜ。子供みたいにな』


「そうか。何もないのならよかった。俺もそっちに戻る」


 電話を切って歩き出す。



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