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ロボット製作者の誤算  作者: 日向夏


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1 最終面接

最終面接官、これが今日、桜井さくらいに与えられた任務である。

自分の作品に乗るパイロットを決めるそれは、技術者たる桜井にとっても重要なことであった。


徹夜明け、カフェイン漬けの頭を揺り起こし、並べられた椅子に座る。

端末の画面には面接者のプロフィールが入っている。どれも、いかつい称号のついた猛者もさたちばかりだ。


人型軍事兵器のパイロットなるものの応募であれば、そんなものだろう。


西暦が二十二世紀になったころ、困ったことに侵略者というものがあらわれた。

よくある話で、宇宙からやってきた未知の生命体というやつである。


侵略というのは、正確にはどうであろうか。

少なくとも、桜井が思う人類とは思えないものが襲い掛かってきたわけで、まるで二十世紀末に流行したロボットアニメの敵キャラのような生き物だった。


世界中で十八体、それぞれ人口密度の極端に高い地域を狙い、降りてきた。

その中に、日本も含まれる。


富士の樹海に降り立ち、一発の砲撃を首都に向かって放った。

その日から、数百年ぶりに首都は京都に戻ることとなった。


残念なことに、人類の危機に救世主といわれるものは現れなかった。

謎の正義の味方も、宇宙警察も、政府が隠匿してきた秘密機関もなかった。


唯一にして最大の救いとしては、敵が斥候部隊であり、最初の襲撃をのぞき、人類に戦闘をけしかけることはなかったということだ。

なにをするわけでもなく、ただ、そこにいる。

人類をひたすら監視しているようだ。


それから二十数年、世界中の紛争が終わりをつげ、かわりに地球軍なるとてもわかりやすい名称の軍事組織ができあがった。


しかしながら、元々、仲良しというわけでない国々も交えた軍勢である。一枚岩というわけではない。


最初の数年であらゆる攻撃をしかけたが、侵略者どもにはほとんどダメージを与えられず、むしろ返り討ちにあった。

核を使った国もでたが、無駄に地球を汚染しただけでなく、侵略者が妙な形に進化していったのを見て、周りは後に続くことはなかった。


なので、地球軍は少なくとも二つの派閥に分かれている。

手出しをしなければ、とりあえず問題はないだろうというハト派。

いや、いつ攻撃してくるかわかならない、さっさと倒してしまえというタカ派。


桜井の所属するのは、どちらかといえばタカ派に属する。

人型軍事兵器、すなわちロボットを開発するチームなのだから。


タカ派の国々は、それぞれ新しい兵器を作ることに余念がない。そのなかで、平和ボケした国が、ロボットを作って侵略者を倒すぞ、というのだから、笑いものになったことはいうまでもない。


まあ、そういうお国柄なので仕方ない。


しかし、周りの反応に対し、桜井の与する開発チームは至極真面目に取り組んでいた。桜井もまたそのひとりである。


彼らは皆、ひとつの情念に突き動かされていた。

明確な目的を持つ人間ほど、強い生き物はいない。


彼らが望むのは、人類の平和ではなかった。

彼らが望むのは、死んだ人間の復讐ではなかった。


あるのは、税金で巨大ロボットが作れるという、ただそれだけだった。


天才科学者の集まり、聞こえはいいようだが、つまりは趣味を極めたロボオタ集団である。


ほぼ完成したロボット、それに乗るパイロット、それもまた、桜井にとって重要な要素である。

自分の作品に乗るのだから、やはりそれにふさわしい役者が必要だ。


研究室にこもりきりの男が、こうして面接官となっているのもその理由だ。


ロボットにふさわしいパイロットを、ただそれだけだ。

難しいといわれる桜井の思考だが、根幹は実に単純だったりする。


面接者が二十人をこえたところで、桜井は明らかに落胆の色をみせていた。椅子の上に体操座りになり、くるくると回る。

周りの人間は何も言わない、そういう人間だと理解している。

ただ、助手の里中さとなか女史だけは、あわあわとこちらを見てはやめてくださいと口をぱくぱくさせている。


わかっていると、姿勢を戻すと次の面接者が現れた。


桜井の顔がみるみると変わる。

今までの面接者とは違う、なんというかオーラ、纏う空気が違うのだ。


入ってきたのは、赤い髪をつんつんに立てた十代の若者だった。

髪の毛のはねとセットに、力強い眉が意思の強さを示している。元気と勇気を無駄に秘めた力強い目に、屈託のない笑みを浮かべる口、やんちゃをそのまま表したかのように、頬には絆創膏を貼っていた。


まだ高等教育の過程だろう、他の面接者がスーツであるのに対し、学生服を着ている。


対象年齢を十八歳からにしているので、学生が来ても問題はないはずだ。しかし、来るのは大体二十代後半から。せっかく、制限年齢を三十歳までにしているのに、どれもこれも無駄に堅くて老けた野郎ばかりだった。


まあ、若いものも受けていたのかもしれないが、最終面接までに落とされたのだろう。


しかし、若者は他の面接者の格式ばった堅い口調でなく、どこか間違った敬語を使う。その中に、夢や希望といった現代の若者にかけた熱い情念がうかがえる。


制服の裾から出た手足には、無数の傷が見えていた。修行の結果です、と至極真面目に言ってくれる愛すべき馬鹿だ。馬鹿なのに、ここまで残ってこれたということは、身体能力、筆記ともに悪くないはずだ。素敵な馬鹿だ。


桜井は端末のプロフィールにチェックを入れる。


あまりに理想、絵に描いたようなロボット操縦者だ。


桜井の眼鏡の奥の熱い思いは、レンズをこえて他のものにも見えたらしい。

面接を終えた後で、同じ技術者の澤田さわだがにやりと笑う。カレーが似合いそうなふくよかな中年は、こう見えて人工筋肉の権威である。


「やったな。ようやく、気に入りそうなのが来て」

「ああ。ただ、気になることがひとつある」


なにが気に食わないんだ、と澤田が首を傾げる。


素養としては問題ないのだが、たった一つだけどうしようもないことが気になるわけで。


「……てくれないかな」


聞き取りづらい言葉を澤田は耳を近づけて、聞き取ろうとする。

反すうするように桜井がもう一度つぶやいた言葉に、澤田は身を引いた。


「性転換してくれないかな」


パイロットとして素晴らしい素養を持つ若者、その胸部は平均のそれより肥大し、制服の裾からのぞく大腿は、見るものによっては垂涎すいぜんの代物である。


飯田睦実いいだむつみ』、十八歳。

染色体はホモ型。つまり、女性である。



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