表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/68

大津屋監視

隼雄が処刑された翌週、鉄斎は再び大津屋の門前に立っていた。

 あの日見た帳簿の記憶が、脳裏にこびりついて離れない。南蛮薬粉、漆黒丸――毒にも薬にもなる代物を、正規の商いとして扱える筋など限られている。


 奉行所に報告すれば、妨害派が証拠潰しに動くのは目に見えていた。ならば自分で動くしかない。


 鉄斎は七日間、大津屋の周囲に張り付いた。

 昼は往来の人混みに紛れ、夜は路地の陰から灯りの消える時刻を見届ける。

 だが、一見した限りでは何も起こらない。

 荷の出入りも帳簿通り、番頭も女中もいつも通りだ。


(……尻尾を出す気配がねぇ。だが、気配が無いのは逆に臭ぇ)


 八日目、鉄斎はあえて行動を変えた。

 毎日、堂々と大津屋の暖簾をくぐり、茶を飲み、世間話をし、店先の客や奉公人の顔をじっくり眺める。

 商家にとって、これは立派な“圧”だ。


「いやぁ、またお越しでございますか」

 番頭の笑顔は変わらぬが、その声には僅かな張り詰めが混じっていた。

「最近は暇でな……こうして町を見回るしかすることがねぇ」

 鉄斎は笑いながらも、目は笑っていなかった。


 日を追うごとに、奉公人の動きがぎこちなくなる。

 帳場に積まれていた藩札は、いつの間にか奥へ下げられ、奥座敷の襖は固く閉ざされたままだ。


 そして十日目の晩。

 鉄斎がわざと帰る素振りを見せ、路地の影から様子を窺うと、裏口から数人の男が現れた。

 風呂敷包みを抱え、周囲を気にしながら小走りで夜の町へ消えていく。


(……動いたな)


 鉄斎は静かに彼らの後を追った。

 包みの中身が毒か、武器か、それとも文か――まだ分からない。

 だが、この瞬間、七日の沈黙が破れたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ