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忍者と侍

その夜、鉄斎は標的となる商家の若旦那を護衛していた。

 若旦那は贅沢三昧で評判の悪い男だが、奉行所にとっては生きてこそ価値がある証人だった。

 町の明かりが落ち、人通りの薄い裏通りへ入った瞬間――風が一変する。


 ――来た。


 店の戸口から若旦那が足を踏み出した、その同時に闇が裂けた。

 鎖鎌の鎌が月明かりを掠め、唸りを上げながら標的の首を狙う。

 鉄斎は反射的に刀を抜き、鎖を弾き飛ばすと同時に若旦那を後ろへ突き飛ばした。


 「退けッ!」

 叫びと共に、鉄斎と隼雄の間に火花が散る。


 隼雄は間髪入れず、鎖を巻き上げて再び振り下ろす。

 その動きは鋭く、まるで蛇が獲物に絡みつくようだった。鉄斎が刀で受けた瞬間、鎖の捻りが刃を絡め取る。

 次の瞬間、刀は鉄斎の手から奪われ、石畳を滑って遠くへ飛んだ。


 ――奪われたか。


 鉄斎は腰の短刀を抜き、迷いなく間合いを詰める。

 隼雄は鎖鎌を巧みに操り距離を取るが、鉄斎は踏み込み一閃――鎌の柄を叩き折った。


 ギン、と金属音が高く響き、隼雄の手から鎌の刃が落ちる。残ったのは鎖のみ。

 ここからは短刀と丸腰――そう思った瞬間だった。


 隼雄が腰の袋を弾き、砂を鉄斎の顔面へ。視界が白く霞む。

 続けざまに、棒手裏剣が三本、矢のような速度で飛ぶ。


 鉄斎は腕で弾くが、金属の衝撃が短刀に伝わり、刃先が欠ける嫌な音がした。

 視線を落とすと、刃毀れが酷く、もう斬るには使えない。


 ――素手か。


 二人は距離を詰め、拳と蹴りが交錯する。

 隼雄の体術は、鉄斎が今まで見たこともない動きだった。

 低く潜り込む、逆関節を狙う、足裏で膝を払う――まるで水の中を泳ぐように、流れる動きで攻撃が来る。


 鉄斎は防ぐだけで精一杯になり、額から汗が滴った。

 一撃でもまともにもらえば、骨が砕ける。そう直感する。


 だが、隼雄が体勢を変えた瞬間――鉄斎の目が獣のように光った。

 隼雄が前蹴りを繰り出す。その膝がわずかに伸びきった一瞬、鉄斎は踏み込み、腰を入れて肩口を掴む。


 「――ッ!」


 地面が揺れたような音と共に、隼雄の身体が宙を舞い、石畳に叩きつけられる。

 そのまま腕を極め、容赦なく捻った。乾いた音が夜に響く。


 隼雄の顔が苦痛に歪む。抵抗はもうない。

 鉄斎は荒い息を吐きながら、膝で押さえつけ、縄を掛けた。


 「……終いだ」


 夜風が再び静けさを取り戻す頃、若旦那は青ざめた顔で立ち尽くしていた。

 鉄斎は振り返りもせず、隼雄を引きずって闇の奥へと歩き出した。



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