派手者の末路
正司は昔から町でも有名な派手者だった。絹の羽織に金糸の帯、長脇差を腰に差して歩けば、周囲の目を引かぬわけがない。だが、その裏では見栄を張るために嘘を重ね、少しでも注目を集めようとあらゆる無茶をやった。
その極めつけが、町中での馬乗りだ。
細い路地を馬で駆け抜け、物売りを脅かし、子供たちを泣かせる。奉行所も何度か注意をしたが、正司は笑って受け流した。
――だが、その日は違った。
小雨の降る昼下がり、正司の馬が角を曲がった瞬間、道端にしゃがんでいた子供を跳ね飛ばした。子供はそのまま動かず、数刻後に息を引き取った。
正司は青ざめた顔のまま、馬を放り捨てて姿を消した。
それ以来、町から正司の姿は消えた。噂では、博打で日銭を稼いでいるらしい。
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ある夜、鉄斎は博打場の一つに足を踏み入れた。
長火鉢の上には酒の匂いが立ち込め、賽の音が絶え間なく響く。目を皿にして正司を探すが、それらしい姿はない。
「見ねえ顔だな、兄さん」
胴元が声を掛けてきたが、鉄斎は軽くあしらい、場を後にした。
帰り道、裏通りにひっそりと建つ廃寺の前を通る。かつては立派な山門も、今は傾き、蔦が絡んでいる。
その堂内から、かすかな灯が漏れていた。
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「……誰だ」
格子戸の隙間から声を掛けると、奥から一人の男が現れた。痩せてはいるが、目つきだけは昔のまま鋭い。
「正司か」
「……そうだ」
鉄斎は一歩踏み込み、低く言った。
「縄に付け」
「俺は喧嘩じゃ誰にも負けたことがねぇ」正司は口の端を歪めた。「奉行所の犬風情に縛られるかよ」
次の瞬間、鉄斎の拳が正司の鳩尾にめり込んだ。
乾いた音とともに正司の身体が折れ、呼吸が止まる。
「……っぐ、ぅぅ……」
その場に膝をつき、涙を滲ませながらうめく正司。
鉄斎は呆れたように鼻で笑った。
「泣くほどなら、最初から大人しくしろ」
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夜明け前、鉄斎は縄を掛けられた正司を引き立て、奉行所へ向かった。
役人たちがその姿を見て囁き合う。
「これが正司か……あんなに威勢が良かったってのに」
「人殺しと逃亡じゃ、もう先はないな」
鉄斎は振り返らず、淡々と引き渡しの手続きを済ませた。
派手者の末路は、あまりにもあっけなかった。




