表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/68

牢の底で

四人組が奉行所の牢に入れられたのは、秋の夕暮れだった。湿った石畳の匂いと、鉄錆のような臭気が漂う。牢は板塀で仕切られ、奥は薄暗く、外の光は格子の隙間から僅かに落ちるだけ。


 彼らが放り込まれたのは「大牢」と呼ばれる、軽罪から中罪の者たちが詰め込まれる部屋だった。だが軽罪とは名ばかりで、中には強盗や殺人の下手人も混じっている。牢の中にはすでに十数名が身を寄せ、腐った藁の上に胡座をかいていた。


 その奥、一際広く藁を敷き、囲むように数人を侍らせている男がいた。髪は総髪だが手入れが行き届き、粗末なはずの衣は他よりもまだ色鮮やかだ。――牢名主、宇之吉。


 宇之吉は、四人組を一瞥して唇の端を吊り上げた。

「……おう、新入りだな。入ったらまず挨拶だろ?」


 筆頭格の男は顔をこわばらせながらも膝をついた。

「お、お世話になります」

「世話ぁしてやるさ。だが、その前に“手土産”だ」


 宇之吉の目が、彼らの腰のあたりや荷物を探る。四人組は牢に入る前に役人に帯刀や所持金を没収されていたが、着ている羽織や股引、腰紐にはまだ使える布地が残っている。


「……な、何もねぇんだ」

「何もねぇ? その羽織はまだ使えるじゃねぇか。寒くなる前に貰っといてやるよ」


 拒む間もなく、子分たちが近寄り、羽織や股引を乱暴に剥ぎ取った。抵抗しようとすれば拳が飛び、背中に膝蹴りが入る。衣を失った四人組は、藁の上で膝を抱え、薄い下着一枚で震えた。


 夜が来ると、宇之吉はさらに「入牢の礼」と称して、他の囚人たちにも四人組の持ち物を分け与えた。残ったのは着古した肌着だけだった。


 日が経つごとに、牢の寒さと飢えが彼らを削っていった。牢内の飯は、麦と米を混ぜた粥に味噌汁がわずか。それすら牢名主が分配を握り、気に入らぬ者には半分以下しか回らない。四人組は日ごとに頬がこけ、目だけがぎょろついていった。


 そして冬の入口、ある晩のこと。

 牢の隅で横になっていた一人が、夜明けに息をしていなかった。役人は帳面に「病死」と記し、死体を粗末なむしろに包んで運び出した。


 その後も二人目、三人目と続いた。食事を減らされ、殴られ、冷え込みに耐えられなくなった。役人も看守も見て見ぬふりをした。――牢の口減らしは、こうして行われるのだ。


 最後に残った筆頭格の男は、宇之吉の前で震えていた。

「……た、頼む。せめて生かしてくれ。もう何もねぇ」

「生かすも殺すも、俺の気分次第よ」


 その夜、男は水桶のそばで俯いたまま動かなくなった。朝になっても誰も声をかけない。役人が無言でむしろを広げ、残骸のような体を包み、牢の外へ運び出した。


 辻を荒らした四人組は、裁きを受ける前に、この世から消えた。罪状も名も、奉行所の記録には小さく残るだけだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ