辻の掃除
秋も深まり、風が乾いてきた頃だった。奉行所の詰め所に、新たな手配書が貼り出された。墨痕も新しく、顔の描き込みは粗いが、その目つきと髪型だけで町人にはすぐわかる。――町を荒らす四人組の不良。名も素性も薄く、ただ弱い者から金を巻き上げることだけを生業にしてきた連中だ。
篤彦の取り調べでその存在が明るみに出てから、町方は地道に調べを進め、ついに捕縛許可が下った。鉄斎はこの手配書を一瞥し、袖に手を入れたまま外へ出た。
――あの辻に行けば、必ずいる。篤彦が何度も奪われた、あの人通りの少ない辻だ。
昼下がり、辻の角には確かにいた。色褪せた羽織、片耳に飾りをぶら下げた男を筆頭に、三人の子分が地べたに腰を下ろして煙管をふかしている。陽だまりに緩んだ顔で、通り過ぎる町人を品定めしている様子だ。
鉄斎が歩み寄っても、誰一人として目を向けない。無視ではない。――恐らく「こいつは狙えぬ」と最初から判断しているのだろう。
鉄斎は立ち止まり、低い声で呼びかけた。
「おい。お前ら……篤彦から金を奪ったそうだな」
四人の動きが止まる。目を合わせたのは一人だけで、他は視線を逸らした。筆頭らしき男が、乾いた笑いを漏らした。
「……ああ、あの出っ歯の小僧か。悪かったよ。もうしねぇから勘弁してくれや」
あまりにもあっさりと白状する。悪びれた様子はないが、目には怯えが滲んでいた。鉄斎は眉をひそめた。
「勘弁? ……ふざけるな。縄につけ」
「いやいや、もう悪さはしねぇって言ってんだ。奉行所まで大人しく――」
「うるさい」
次の瞬間、鉄斎の拳が一人目の頬を撃ち抜いた。骨が軋む音とともに、男は地面に倒れ込む。残る三人が腰を浮かすが、鉄斎は間髪入れず二人目の鳩尾へ膝を叩き込み、三人目の足を払って路面へ叩きつけた。
悲鳴は上がらない。ただ呻きと、浅い息だけが漏れる。最後の一人も背を向けようとしたが、鉄斎の手が後ろ髪をつかみ、顔面を壁に叩きつけた。血が石畳に散る。
抵抗は……ない。誰一人として、反撃の構えすら見せなかった。ただ腕を抱えて転がり、逃げようともがく。
鉄斎は一人ずつ襟首を掴み、縄をかけながら吐き捨てた。
「……これで町を荒らすとは、笑わせる」
縄付きの四人を奉行所へ引き立てると、町人たちは道端からそっと覗き見するだけだった。声援も嘲りもなく、ただ沈黙がついて回る。
奉行所の庭に四人を転がすと、奉行が眉をひそめた。
「……鉄斎。お前、こんなにボコボコにするほど抵抗されたのか?」
鉄斎は平然と答えた。
「ああ。抵抗された」
奉行はしばし沈黙し、そのまま記録を取らせた。四人組は即日牢に放り込まれ、町はひとまず静けさを取り戻した。
夕暮れ、辻に残った血の跡は、翌朝の雨で流れ去った。だが、鉄斎の胸に残ったのは別の感触だった。――弱さゆえの悪と、それを許す空気。その両方が腐っているとしか思えなかった。




