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鷹之介という真面目な武士 弐

鷹之介は、下級武士の家の長男として生まれた。

 家は子沢山で、弟妹は合わせて七人。父は役目の薄い小役人、母は倹約を重ねて家を支えたが、家計は常に火の車だった。幼い頃から「お前が家を立て直すのだぞ」と言われ続けた鷹之介は、その期待を重荷とも思わず、ただ愚直に受け止めた。


 夜は蝋燭の灯りの下で巻物を読み、朝は素振りと稽古。勉学も剣術も誰よりも打ち込み、やがて郡奉行の下役に抜擢される。そこからも昇進を重ね、ついには藩の要職に就くまでになった。

 しかし、それでも鷹之介は満たされなかった。弟妹の婚礼、弟の学問、妹の嫁入り先――全てを整えるには、まだ力が足りぬと考えた。


 やがて彼は、中老の座を得るために金で取り入るという禁じ手に出た。だが計画は露見し、藩主の怒りを買って追放される。

 「家のために」と信じて歩んだ道が、一瞬にして途絶えた瞬間だった。


 江戸に流れ着いた鷹之介は、再起を目指したが、そこは己の正直さが通用しない世界だった。悪事に手を染めようにも、人の裏を読む術がなく、詐欺師に騙され、わずかな蓄えも失った。

 弟妹への仕送りも滞り、故郷へ送った手紙も返事は来なくなった。


 半年が過ぎたある日、鷹之介はついに刀を抜いて蕎麦屋へ押し入り、人質を取るという暴挙に出た。

 結果は――鉄斎と新左衛門の連携によって、鷹之介の心の臓に一突き。立てこもりは終わった。


 ***


 その数日後、鉄斎は奉行所の控え室で何気なく鷹之介の素性を耳にした。

 「下級武士の長男でな、弟妹が七人いたらしい」

 「……七人?」

 「しかも追放されてからも、無理して仕送りしてたそうだ。あの立てこもりの直前までな」


 鉄斎は口を閉ざした。

 鷹之介の最後の形相――血走った目も、震える手も、ただの狂気ではなかったのかもしれない。彼は家族のために全てを差し出し、最後に残った誇りまでも削り取られた末に、あの場に立ったのだろう。


 だが、鉄斎は深く吐息をつき、その思考を断ち切った。

 「……それでも、刀を抜いた時点で武士として終わりだ」


 その声には、情けと非情が同居していた。

 人は「足りぬ」を知ってこそ生き延びられる――そう思いながら、鉄斎は煙草に火をつけた。

 煙が静かに昇り、やがて天井に溶けていった。



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