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幼馴染との再会

翌朝、鉄斎は藩主からの呼び出しに応じ、正装で城へ向かった。

 羽織の紋を整え、腰の刀をしっかりと差し直す。何を聞かれようと答えは決まっていた――父の役職は継がない。そして妹の婿にその座を譲る。それだけだ。


 城門をくぐり、石畳を進む足取りは迷いがなかった。

 だが、広間の襖が開き、そこに立つ人物を見た瞬間、鉄斎の眉がわずかに動く。


 ――宏典。


 藩主の長男、そして鉄斎の幼馴染。

 少年の日、武芸も学問も共に励み、剣を打ち合い、書を競い、時には泥まみれになって川原を駆け回った仲だ。


 「何だ、お前だったか」

 思わず鉄斎は口元に笑みを浮かべた。


 宏典も微笑し、席を勧めた。

 「久しいな、鉄斎」


 畳に座るや否や、鉄斎は問いかける。

 「何故、このような真似を? わざわざ呼び出すなど」


 宏典は静かに茶を注ぎ、その香りを楽しむように一息置いてから答えた。

 「鉄斎――お前の名があるからこそ、俺は動く」


 その言葉に鉄斎は小さく笑い、頷いた。

 「なるほど、そういう事か」


 宏典の瞳には冗談の色はなかった。

 「お互いの父上も……そう長くはあるまい。十年もすれば、嫌でも代替わりが来る。その時、お前には藩の中枢にいてほしい。藩の未来を支える人間が必要だ。俺一人では足りぬ」


 「……」


 「今は構わん。江戸で好きにやれ。ただ――死ぬなよ」

 最後の一言は、かつて河原で互いの傷を洗い合った日の声と同じ響きを持っていた。


 鉄斎はしばし沈黙し、その言葉を噛みしめた。

 やがて口角を上げ、茶を一口すする。

 「承知した」


 その後、二人は昔に戻ったかのように語り合った。

 武芸の稽古で誰が一番手強かったか、城下の菓子屋でつまみ食いをして叱られた話、初めての試合で互いの腕を折りかけた話――笑い声が広間に響いた。


 やがて宏典が立ち上がり、木刀を持ってきた。

 「久々に手合わせといこう」


 庭へ出る。風が松を揺らし、砂利の上に影を落とす。

 構えた瞬間、鉄斎の全身に戦いの勘が蘇る。

 一合、二合――宏典は確かに腕を上げていた。だが鉄斎の剣は鋭く、重く、揺るぎなかった。


 続けて相撲、柔術へと移る。

 相撲では宏典を土俵際まで押し込み、柔術では鮮やかに投げ飛ばす。

 「相変わらずだな……」と宏典は息を切らし、地面に座り込んだ。


 鉄斎は木刀を置き、空を仰いだ。

 雲の隙間から差す陽光が、二人の顔を照らしていた。




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