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お人好しの啓二

林下啓二――人の良さでは評判だったが、世間ではそれを「お人好し」と呼び、損な性格と笑った。

友の頼みを断れず、保証人になっては詐欺に遭い、あっという間に借金まみれ。

それを返すため、賭場に出入りし、法の隙間を縫うような胡散臭い商いにも手を染めた。

だが、金は砂のように指の間から零れ落ち、最後には禁断の商い――アヘンの密売に足を踏み入れる。


馬鹿が悪事に手を出せば、その痕跡は雑だ。

包み紙の端に記された印から、奉行所は啓二の関与を嗅ぎつけた。


ある朝、鉄斎が踏み込み、長屋の戸口を蹴破った。

啓二はしらばっくれたが、鋭い眼光に射すくめられ、やがて肩を落とし縄目を受けた。


奉行所での裁きは早かった。島流し――それが啓二に下った判決だった。

こうして彼は、流刑地へ向かう船に揺られることとなった。



黒潮の荒れ狂う海を越えた先に、その島はあった。

空は常に鉛色で、潮風は鉄の匂いを含んで肌を刺す。

波打ち際は岩が牙のように突き出し、船での接近すら命がけだ。

上陸すれば、眼前にそびえる断崖と、そこに穿たれた監視塔が目を光らせている。


島の内部は湿地と森が入り混じり、まともな道など存在しない。

ぬかるみに足を取られた囚人は、そのまま血を吸うヒルと毒虫に群がられ、悲鳴をあげる。

昼でも薄暗い森の奥では、縄張りを荒らされた野犬や巨大な猪が牙を剥く。


唯一の人の営みは、海辺に建てられた粗末な集落。

粗末な木の小屋が並び、壁には潮と血の跡がこびりついている。

ここは流刑者の労働場であり、採れるのは鉄鉱石と塩だけだ。

囚人たちは足枷をつけられ、鎖でつながれたまま採掘場や塩田へ向かう。

監視役の兵は、無言で竹の鞭を握り、遅れる者やサボる者には容赦なく振るう。


夜になると、海から湿った冷気が押し寄せ、焚き火の煙すら真っ直ぐ立たない。

眠りは常に浅く、耳を澄ませば外で囁く声や、誰かが縄を擦る音が聞こえる。

翌朝には姿を消す者もいるが、島のどこにも逃げ場はない。

見つかるのは、大抵は半分白骨化した死体だけだ。


牢は集落の外れにある。

石造りの低い建物で、内部は塩気と湿気で壁が腐り、藁も敷かれていない。


「おう、また新入りか。

 ここじゃ、強ぇか頭が回る奴しか、冬越せねぇぞ。」

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