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灰色の王  作者: ためいき
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序章

 神谷蓮は冷たい朝の空気の中、電車の窓に映る自分の顔を見つめていた。何を考えているのか自分でもよくわからなかった。世界は灰色だった。通勤通学の人波に押し込められた電車の中で、蓮はただ空っぽの心を持て余していた。十七歳、高校二年。だが青春など、彼には無縁だった。父は幼い頃に失踪し、母はアルコールとパチンコに溺れ、家庭という名の檻の中で蓮は静かに孤独を飼い慣らしていた。学校でも同じだ。友達はいない。教室は彼にとってただの待機所だった。誰も自分に話しかけず、誰の話にも耳を傾ける必要がなかった。静寂こそが彼の安寧であり、世界だった。

 


 そんなある日のこと、駅の階段を降りようとしたとき、人混みに押され倒れ込んでしまい意識を失った。目が覚めると、そこはもう東京ではなかった。大地は赤く、空は青く裂け、見たこともない植物が風に揺れていた。彼は砂の上に横たわっていた。近くには倒れた石碑のようなものがあり、古代語のような文字が刻まれていた。何が起こったのか理解できなかった。だが、心のどこかで――ようやく世界が動き出したと感じていた。

 不意に背後から声がした。「貴方……灰の王、なのですか?」振り返ると、そこには銀の髪を持つ少女が立っていた。年齢は蓮と同じくらいだろうか。だが、その瞳には千年を超える時間が宿っていた。「は?」「予言に記されていました。赤の空、眠れる石碑、そして灰の王。全てが一致します」蓮は混乱した。少女は名をリリスと名乗り、自分は「灰の王の目覚めを見届ける者」だという。わけがわからなかったが、彼女の口から語られる伝説には、何故か心の奥底を揺さぶるものがあった。「灰の王は世界を滅ぼした存在。そしてもう一度世界を選び直す存在です」自分が滅ぼした?何を?いつ?どうして?疑問は尽きなかったが、リリスは言った。「貴方は、選ばれてしまったのです」その日から、蓮は“神谷蓮”ではなく、“灰の王”としての新たな人生を歩むことになる。アーシェルというこの世界は、かつて神々と竜が戦った大戦の爪痕をいまだ抱えていた。七つの種族が互いに均衡を保ちながら、崩壊寸前の世界をかろうじて維持していた。リリスは蓮を王の居城へ連れて行った。そこは、かつて栄華を極め、今や朽ち果てた都市“ヴァレトゥス”。城は崩れ、街は無人。人々は伝説の王の帰還に怯え、あるいは期待していた。蓮は、信じられなかった。だが、夢ではなかった。彼は確かに異世界に来ていた。

 彼がこの地に現れた日から、世界はわずかずつ変化を見せ始めた。長らく眠っていた魔物が目覚め、天空の裂け目からは未確認の飛翔体が現れ、各地で封印が解け始めていた。蓮は、自らが呼び水となっていることを悟り始めた。彼は“何か”を思い出そうとしていた。だが記憶が曖昧で、自分の内側に何かが棲んでいるような感覚だけがあった。

 


 そんな中、彼は仲間たちと出会う。最初に現れたのはエルフの弓使い・サリナ。森を司る種族の中でも異端とされる彼女は、かつて灰の王と敵対した部族の末裔だった。だが蓮の目を見て言った。「お前には、あの頃の“彼”の匂いがしない。信じてみる価値はある」次に加わったのはドワーフの鍛冶職人・グラン。無骨で無愛想だが、かつて封じられた“灰の剣”を鍛えた唯一の血族だという。「お前が灰の王なら、この剣は再び命を持つ」そして、若き人間の魔法使い・ミレイユ。まだ十六歳の少女だが、禁術の才を持つ“魔導の申し子”として名を馳せていた。「私は、貴方が世界を救うなら付き従い、滅ぼすなら殺す。中立が私の正義」こうして蓮は異種族の仲間とともに旅を始めることになる。

 


 彼らの最初の目的地は、かつて灰の王が封印された地“クル=エトス”。そこには古代の記憶が眠っているという。道中、魔物の群れに襲われ、蓮は初めて命の危機に晒される。だが、その瞬間、彼の右手に黒き炎が宿る。それは“灰の力”と呼ばれるもので、物質を分解し再構築する力だった。彼はその力で仲間を守り、初めて“誰かのために戦う”という意味を知る。



 その後、彼らは魔導図書館“アルヴェ=ライブラ”に立ち寄る。そこには灰の王に関する文献が収蔵されており、蓮は徐々に自らの過去と向き合う。千年前、この世界を滅ぼしかけた“灰の王”は、ただ破壊を望んでいたわけではなかった。彼は、人と人とが信じ合えないこの世界に絶望し、すべてを“無”に還そうとした。しかし、最期の瞬間、“約束”が交わされた。「もし、もう一度この世界に生まれ変わることがあるなら、今度こそ、誰かを信じたい」その言葉が、“今”へと繋がっている。蓮は理解した。自分は“その時”に交わされた“約束”そのものなのだ。そしてその約束を果たすために、再びこの世界に呼ばれたのだと。



 旅は続く。種族間の争い、王族の陰謀、古代兵器の発掘、そして巨大魔獣の復活――あらゆる問題が蓮の前に立ちはだかる。だが、彼はもう逃げなかった。彼はかつての“灰の王”ではない。神谷蓮という少年であり、約束を果たす者であり、誰かを信じたいと願う“今”の人間だった。リリスはそっと彼に寄り添い、言った。「貴方の選んだ未来が、この世界の未来になるのです」蓮は小さく笑った。ようやく見えた。世界は灰色ではなかった。光も闇も、希望も絶望も――すべてが混ざり合い、ひとつの色になっていた。そして、物語は動き始める。“灰の王”としてではなく、“神谷蓮”としての物語が。

いろんな設定を見直してみます。これからハイスピードで作品を書こうとしているため矛盾が生じていることがあると思います、そういう時はそっと感想で教えていただけると幸いです。

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