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所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜  作者: しがわか
第3章

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黒縁

「やはり、圧倒的に足りませんな……」


 大食堂で食事をしていると、シュバルトさんが入ってくるなりそう呟く。

 キール様は、ラタを撫でていた手を止めて真剣な顔になった。


「そうか。やはりシェリングフォードが流通を制限しているとみるべきか」

「おそらくは。いかがいたしますか?」

「とりあえず今ある分をかき集めておけ。それから東のホウノキにも協力を呼びかけ——」


 二人は、なんだか深刻そうに話を続けている。

 それもそのはず、辺境伯領に隣接するメルクリア聖教国から開戦日の指定があったからだ。

 迫る開戦に向けての準備が進められる中で、どうしても足りないものがあった。

 それが——鉄製の武器や鎧だ。

 

 ミザリィの実家であるシェリングフォードが、鉱山事故にかこつけて鉄の供給を絞っているらしい。

 おかげで国内の鉄相場は高騰して、既製品の品薄も続いているんだとか。


「まあ事故というのも十中八九は嘘だろう」

「そうでしょうね。そもそもシェリングフォードは傀儡(かいらい)なのでしょう?」

「ああ、本命はメルクリアの方だ。教皇サマがあれじゃあな」


 なんだか不穏な会話が聞こえてくる。

 シェリングフォード伯爵家をメルクリア聖教国が操っているのかな。

 聞き耳を立て、半端に理解しながらパンをかじる。

 

「あとは乱戦時の魔法対策もしておきたいところだな」

「ま、魔法ですか?」

「おっと、リアの前で物騒な話をしてしまったか」

 

 興味のある単語が出てきたので、つい口を挟んでしまった。

 それなのに、キール様はむしろ申し訳ないといった顔をする。

 ここのところはいつもこんな感じで、常に私のことを気にかけてくれる。

 いや、かけすぎているといってもいい。リア、リアと後をついてくる子供のようにべったりだもの。

 

「いえ、魔法にはちょっと興味があります」

「そうか、リアも魔力操作が得意なようだから学べば使えるようになるかもな」

「誰でも使えるものなのですか?」

「いいや。誰しもが魔力を持っているはいるが、全員が魔法の発動に足る量を備えているかといえばそうでもない」


 そういってキール様は魔法について解説をしてくれる。

 どうやら、ある程度以上の魔力量があって、魔力を操作できれば魔法を使うことはできるようだ。

 ただ現在の魔法というものは、大概が争いごとにしか使えない物騒なものらしい。

 

「空とかは飛べないんですか? あとは無限に収納できるかばんとか」

「天啓ならまだしも、魔法はそんなに万能ではないからな。そんなものを誰もが使えたら世界の在り方が変わってしまうだろう」

「うーん、確かに」

「乱暴にいえば、魔法というのは魔力を体外に放出してぶつけるだけのようなものだからな」


 ああ、それは確かに争いごとにしか使い途がなさそうだ。


「ただ、だからこそ戦争では厄介なのだ。ああそうだ。空を飛んでみたいのなら、今度一緒に飛んでみるか?」

「もしかして……キール様は飛べたりするのですか?」

「ああ。そのおかげで一部からは神出鬼没、なんて呼ばれていたりものするのさ」


 キール様はそういって両目を閉じた。

 ああ、これはウインクか。相変わらず下手なのが可愛らしい。

 そういえば、ウインクができていないことを教えてあげようと思っていたのを忘れてた。

 まあ可愛いし、このままでいっか。

 


 カラカラ、と木のこすれる音が部屋に響く。

 食事を終えた私は、もくもくと作業を続けていた。

 ベンジローさんが作ってくれたこの紡績(ぼうせき)機の扱いにも大分慣れてきたな。

 ただ長いこと集中していて、肩がこってきてしまった。

 手を止めて、うーんと伸びをしているとドアがノックされる。


「お嬢様、そろそろ一息つきませんかー?」


 メリンダが紅茶を淹れてきてくれたらしい。

 その後ろからは、ちょこちょことチェリエが着いてきている。


「わぁ、この刺繍すっごく進んだんだねっ!」

「ここのところ寝る間も惜しんで刺したからね」

「さすがせんせーだっ!」

「なあに、そのせんせーっていうのは」

「色々教えてくれる人をせんせーっていうんだって。だからリアはチェリエのせんせーでしょっ?」


 チェリエは弾ける笑顔でそういうと、さっさと茶菓子に手を伸ばしている。

 あのことがあってから、キール様は塔の上にチェリエを戻そうとした。

 けれどチェリエの一番近くにいた侍女が間者だったという事実は重い。

 あの侍女が10年もじっと潜伏していたことで、誰も彼もが疑わしく思えてしまったようだ。

 結局はメリンダにもう少し面倒を見てほしい、と頭を下げていた。

 つまり、もうしばらくはチェリエがお隣さんだ。


「ねぇリアせんせー、この刺繍の花についてる金色のは何?」

「これは棘よ。ここには魔力で紡いだ糸を使っているの」

「へー、あの大きいくるくるって魔力の糸を作るものだったのかぁ」

「うん。あのくるくる……紡績機なしでも作れなくはないけれど、糸くらい細いものだとあれを使ったほうが効率良くてね」


 自重をやめた私はある程度なんでも自由に象れるようにはなった。

 けれど、一定の太さで長い刺繍糸を作るのは難しくて……ちょっと集中を乱すと切れたり、太くなっちゃったりね。

 だから元々糸を紡ごうと思ってベンジローさんに作ってもらっていた紡績機を使ってみた。

 そうしたらこれが上手くはまった、というわけ。


「あっそうだ、リアせんせー見て。チェリエのも完成したんだよっ!」

「わあ、上手にできてるね。どうしてこれを作ったの?」

「うーんと……なんでだろぉ? 頭に浮かんだから作ったの!」


 チェリエが完成させた刺繍は……眼鏡だった。

 黒い縁で縁取られたそれは、あの侍女がかけていたものにそっくりで。

 あの侍女は3年くらいチェリエのお世話をしていたと聞いている。

 でもその間の記憶は失われているはず。なんだか不思議なものだ。


 

「じゃあ私もこれを飲んだら刺繍のラストスパートをするね」

「わかったぁ。じゃあチェリエたちは邪魔しないようにお隣に戻ろっ!」

「チェリエお嬢様もこれから刺繍をなさいますかー?」


 メリンダが期待を込めた瞳でそう聞くと、チェリエは首を横に振る。


「んーん。メリンダに本のつづきを読んでもらうのっ!」

「はぁ……またですかー」


 ウキウキした足音と、とぼとぼした足音が部屋を出て行って、私は袖をまくった。

 もうあんまり時間がないから、今夜中には終わらせなくっちゃ。

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