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所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜  作者: しがわか
第2章

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走り書き

 城に入ると、一目で高価であろうと分かるふわふわの赤い絨毯が敷かれている。

 その絨毯に沿うように、使用人たちであろう大勢の人たちが整列していた。


「長旅お疲れ様でございます」


 家令の方だろうか、どことなくシュバルトさんと似た雰囲気の男性が進み出てきてそういった。


「ありがとうございます。私はローゼリア=エヴァンスと申します」

「はい、旦那様の婚約者であると伺っております。私は使用人をまとめておりますバルティ=エルネスです」


 使用人を代表して挨拶してくれたロマンスグレーの男性は、あの執事さんと同じくらいの年齢だろうか。

 そういえばエルネスという家名には聞き覚えがある。


「エルネスというと、もしかしてシュバルトさんの?」


 私がそう聞くと、なぜか少し悲しそうな顔をしてから首肯をする。

 

「ええ。シュバルトは、そうですね……私の()()になります」

「そうなのですね、シュバルトさんには王都(あちら)で大変お世話になりました」

「それはそれは」

 

 バルティさんは満足そうな顔で微笑む。

 その笑顔を見ていると、やはりシュバルトさんと重なるものを感じた。

 

「ところでキール様はいらっしゃらないのですか?」

「旦那様は外せない用事で出ておられます」

「そう……ですか」


 分かってる、キール様は今お忙しいのだって。

 急に押しかけたのは自分なのだから仕方ない、そう自分に言い聞かせる。

 

「しかし本日の夜には戻られる予定ですのでご安心ください。旦那様からはぜひ夕食は一緒に、と言付かっております」

 

 良かった、夜になればキール様に会えるのだ。

 もう半年も会っていないような気分なのに、実際は出会ってからまだ二週間足らずなのが不思議で。

 まだお昼すぎなのに、早くも夕食の時間が楽しみになってきた。 

 私のこと、忘れていなければいいな。

 

「それでは、お部屋にご案内します。こちらへどうぞ」


 バルティさんの先導に従って、城の階段を登ろうと足を掛けたときだった。

 私の後ろに控えていたメリンダの手首が、横合いから伸びてきた腕に掴まれる。

 

「待ちなさい、メイドの貴女はこっち」

「おまっ……」


 お待ちください、そう口にしかけたところでメリンダが首を横に振った。

 今は口を出さないでくださいねー、そういっているかのような顔をしている。


「私はメイド長のペチュニアと申します」


 メリンダの手を掴んだ女性がずい、と前に進み出て名乗った。

 どうやら貫禄のある彼女はメイド長だったらしい。


「ローゼリア様のお気持ちも分かります。ですがメイドとして召し抱えられたのであれば、まずはこちらでの仕事を教えて差し上げなければなりません」

 

 確かにそれはその通りだった。

 男爵家(うち)ではいつも私にべったりくっついていた。

 けれど新参者として入ったこの場所で同じことをしたら、無用なやっかみもあるかもしれない。

 そのことに思い至った私は、メイド長のペチュニアさんに頭を下げる。


「失礼しました。ではメリンダをよろしくお願いします」


 そしてメリンダにはまた後でね、というように軽く手を上げる。

 それを見たメイドは、口角を緩ませてからメイド長に連れられていった。


 

「こちらが、ローゼリア様にしばらく過ごして頂くお部屋になります」


 案内されたのは城の三階にある部屋だった。

 室内は賓客をもてなすよう、綺麗に飾り付けられている。

 センスのよい家具や落ち着いた調度品は、成金のような華美た豪奢さとは違った優雅さ感じさせる。

 微かに感じる香りは窓際に飾られたフラッディマリーからだろう。


「それではなにか御用があれば、そちらの呼び鈴を鳴らして下さい。すぐに侍女が参ります」


 バルティさんは机に置かれた見事な意匠の入ったベルを指先で示した。

 

「侍女、ですか……」


 そうか、ベルを鳴らしてもメリンダがくるわけではないんだな。

 私はそんな当たり前のことを思って、ため息をついた。

 バルティさんはそんな私を(おもんぱか)るかのように口を開く。


「メリンダ、でしたか。彼女にはあとで顔を見せるように伝えておきましょう」

「はいっ! ありがとうございます」

「聞くところによると、彼女は幼いころから貴女の専属のメイドだったとか」


 誰から聞いたのだろうか。

 一瞬そう考えて、キール様にメリンダのことを話していたことを思い出した。

 

「はい、そうなんです。彼女に全部お願いしていたので側にいないと寂しくて」


 私は偽りならざる本心を打ち明けた。

 するとバルティさんは一瞬考えるような顔をした。

 けれどすぐに柔和(にゅうわ)な顔になって。


「そうですか。ではこちらでもあなたの専属とできるよう、メイド長へ伝えておきます」

「いいんですか?」

「もちろんですとも。ただ備品の場所や城内の決まりなどを教えてからにはなりますが」


 良かった、こっちでもまたメリンダといられるんだ。

 そう思ったら不思議とそれだけで安心できた。


 

「それでは食事の時間になったらお呼びします」


 そういってバルティさんは部屋を出ていった。

 誰も居なくなった部屋で思わずベッドへ倒れ込みそうになる。

 天蓋付きのベッドは、旅に疲れた私を優しく包んでくれるだろう。

 けど、うっかり眠ってしまいそうだからやめておく。

 あとでメリンダに顔を出させるといっていたし、待っていないとね。


 柔らかいベッドの誘惑をなんとか振り払うと、ドアがノックされた。

 メリンダかも、と慌てて返事をする。


「どうです? コルヴィン城は」

「ピーター!」


 はじめての場所で緊張していたからか、メリンダではなかったけれど、見知った顔がそこにあったことに安堵した。


「荷物を持ってまいりました」

 

 そういって馬車に積んであった私の荷物を部屋に運びいれてくれる。


「ピーターはこれから王都に帰るの?」

「いえいえ。もともとこちらに住居があるもので」


 だからまた見掛けたら声でも掛けてくださいね、そういって荷物を運び終えたピーターは忙しそうに去っていく。

 一人になった部屋は静かで、物悲しい。

 そうだ、ピーターが持ってきてくれたかばんには刺繍道具が入っている。

 メリンダがくるまで刺繍をしていよう、そうしよう。


 それからどれくらい経っただろう。

 そろそろ食事の時間になるのでは?と思うほどには時間が経ったはず。

 ゼロからはじめた刺繍も、今では半分ほど出来上がっているほどで。


「メリンダ遅いなぁ……」


 そう思ってふと扉へ目をやった。


「あれ、なんだろう?」


 扉のそばに小さな紙が落ちていた。

 どうも扉の下にある隙間から差し込んだように見える。

 さっきまではなかったはずだけれど。

 近づいて拾いあげてみると、どうやら何かが書いてあるようだった。


「え、誰がこんなものを……?」


 私は思わず声を上げてしまった。

 だってその紙には走り書きのような字でこうあったから。

 

 ――ヘンキョウハク ニハ オオキナヒミツガアル


 辺境伯には……大きな秘密がある?

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