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黒衣の角刈り男  作者: XX
9/13

第9話:アカシア人名録

普通の人がしたことをしなかった男の話

 世界終焉の1週間後。


 いや、そのはずだった1週間後。



 俺のガキの時分、こんなことが言われていた。


 2024年3月、世界は核の炎に包まれて終焉する。

 こういう予言。


 キバヤシダマスとかいう、1世紀ころの予言者の言葉。


 原文は「2024年3の月、大いなる雷が世界に降り注ぎ、この世は煉獄と化すだろう」

 こんな感じだ。


 俺はこの予言を聞いたとき、当時は小学生。

 とても怖かったが、同時にこう思った。


 2024年3月になったら、俺は30才。

 俺の享年は30才……。


 だったらもう、努力する意味無くない?


 そう思った。

 なのでその日から俺は、そのときやりたいことを精一杯やることにしたんだ。


 まず、お年玉と中古ゲーム転がしを駆使して、手持ちの資金で一杯ゲームをクリアした。

 勉強は捨てた。


 成績はぐんぐん落ちたけど、気にしなかった。


 中学になってもそれは変わらず。

 どのままド底辺の高校に進学し、遊び倒した。


 そんなことをしていたら、俺の陰で言われている三人称が「アレ」になってるのに気づいたが、気にしなかった。

 全く気にせず、遊び続けた。


 そして大学進学の話になったとき


「俺は大学には行かないからその資金を俺にくれ」


 俺はそう親に言い放った。

 親は驚き、拒否したけど、俺がギャンギャン要求すると、最後は折れてくれたよ。


「……元々お前のために貯めていた金だしな」


 親はなんかしんどそうな顔をしていた。

 ……うっとおしいなぁ。



 で、25才くらいになったとき。

 その貯金が尽きたので、仕方がないので俺はバイトをはじめた。


 コンビニのバイトだ。

 働く暇があったら遊びたかったけど、金が無いと遊べないしな。


 でも1カ月で辞めた。


 高卒を何度か馬鹿にされたのがうっとおしくて


「俺は大予言に合わせて人生設計してるんだよ!」


 と言い返したら、爆笑されたんだ。

 それが耐えられなかったから。


 ……正しい生き方をしているのは俺なのに、なんでこんな馬鹿な蟻どもに笑われないといけないんだ。


 ムッカツク。

 仕事を辞めた俺は、その後はもう絶対に働くものかと心に決めた。


 まあ、金が欲しいときは親の財布からくすねればいいや。


 そう思ってその通りにしたら、2カ月後くらいに


久津夫くずお、お前母さんの財布からお金を抜いているだろう」


 親父がそうウザイことを言って来たので


「やかましい! 文句があるならブチのめすぞ!」


 一喝してやると、黙った。

 まったく。


 そして、その日はそのまま終わったんだ。


 ……だけど。


 次の日、家に警察が来た。

 どうも親が警察に通報したらしい。


「私たちの子育ては間違えていた」


 親父はそう言っていた。

 そんな!


 血も涙も無いのか!


 でも。

 警察に連れて行かれて、色々取り調べを受けたけど。


「親族間では窃盗は刑が免除されるんだ」


 なんか、警察のオッサンがしかめっ面でそんなことを言って来て。

 どうも、俺は刑務所に行かなくて済むらしい。


 ホッとして。

 同時に


 クソ親父、ざまあああああ!


 そう思ったよ。


 みてろ、家に帰ったら思い切り文句を言ってやる!


 そう思い、自宅の一戸建てに帰ったら。


 ……誰も居なかった。


 家財道具も無くなっていた。


 代わりに、空っぽの部屋に書置きがあった。

 それにはこう書かれていた。


『父さんたちはこの家を捨てる。お前はもう1人で生きて行きなさい。このままではお前はただのならず者になるしかない。今放り出せば、多少はマシになるかもしれない』


 一緒に、銀行通帳が置かれていて、中には50万円入っていた。

 そして手紙には


『餞別で50万やる。なけなしの50万だ。これを元手に自活するんだ、この家の固定資産税だけは父さんたちが生きている限り払うから、頑張りなさい』


 そう、書かれていた。

 俺はそれを読んで


「くそがあああああああ!!」


 叫んだ。




 そして俺はその日から奴隷のように働きながら生きて来て。

 2024年4月を迎えたんだ。


 世界は滅ばなかった。


 ……他の奴らは、普通に生きてる。


 そんな……


 1週間経っても何も起きないので、俺は発狂しそうになった。

 今年の3月で人生が終わるはずだから、それを見込んで生きて来たのに。


「あああああああああ!! キバヤシダマスのクソ野郎ォォォォォッ!!」


 俺が1人暗い部屋で現実を受け入れられず叫び声をあげていると


「可哀想に」


 ……いつの間にか。

 俺の家に、知らない男が居たんだ。


 それは角刈りで、全身黒タイツ。

 背中に亀の甲羅のようなアーマー。そしてスニーカー。


 そんな変な格好をした若い男。


 そいつが言ったんだ。

 俺を痛ましい目で見つめながら


「これを使うといい」


 そう言いながら、俺にスッと一冊の本を渡してくれた。




 あの角刈り男がくれた本。

 彼は「アカシア人名録」って言っていた。


 なんでもアカシア記憶という、この世の全ての出来事が記録されているという宇宙の記憶があり。

 この本は、その記憶に記録されている人名を記載してるそうだ。


「……これでどうしろと?」


 俺の質問に、彼は言った。


「その人名が記載されているページを破り取ると、アカシア記憶からその人間の存在が削除される。つまり世界の歴史からその人間が消える」


 な、なんだってー!?


 そいつはすげえ!


 ということは……


「キミの人生を豊かにするために使うといい」


 そう言って角刈り男は、この部屋から出て行った……




 俺の人生が狂ったのは、キバヤシダマスとかいうクソ野郎が妙な予言を残したせいだ。

 だからキバヤシダマスさえいなくなれば、俺の人生は好転するはずだ!


 俺は本の頁を捲る。

 キバヤシダマスの頁を探して。


 ……冷静に考えると、この世の全ての人名が記載されているんだから、そうそう簡単に見つかるはずがない。

 だけど……


「見つけたッ!」


 何故かすぐ見つかった。

 それは日本語で書かれていた。


『2024年3の月、大いなる雷が世界に降り注ぎ、この世は煉獄と化すだろう』


 この予言の一文と共に。


 これだ!

 そう判断した俺は、全く迷いなくその頁を破り取った。


 すると、世界が変化した。




 ……家がボロボロになっていた。

 いや、狭くなったかも。


 もともと2階建て6LDKの家だったのに。


 ……どうみてもワンルーム。


 どういうことだ?


 戸惑っていると、後追いで知識が頭に流れ込んで来た。


 ……どうもこの世界では、キバヤシダマスなんてゴミ予言者はいないらしい。

 けれど……


 代わりにこの国が、他の国の属国になってる。


 この国の人間は全て奴隷で。

 一部の優秀な奴隷だけ、名誉人民という、宗主国の人間に準ずる権利を持つ奴隷になれる。

 名誉人民だけ、裁判を受ける権利を持ち、上級学校に通う権利も持つ……。


 そして俺は……ただの奴隷。

 名誉人民じゃない。


 そんな……。


 俺は絶望した。

 なんでこんなことになったんだ!?


 記憶を探ると、思い当たった。


 ……思想家だ。


 ゴミーナとかいう、外国のクソ思想家だ。

 こいつのせいで、この国は


 戦争をするぐらいなら、国を解体しよう。


 こんな意見が主流になり、この国が滅亡の危機に瀕したとき、誰も徹底抗戦の選択肢を取らず、戦わずに諦めた。

 こいつさえいなければ……!!


 俺はアカシア人名録を開いた。

 そしてゴミーナの名前を探した。


 そして……


 見つけたッ!


 ゴミーナ。

 名前の横に「私を殺してみろ」ってこいつの残した言葉が書いてある。


 消えろッ!


 俺はその頁を破った。


 するとまた、世界が変化した。




 次に気が付くと、俺は多くの人間と一緒に狭い部屋に押し込められていた。

 それは全て男性で、皆項垂れていた。

 もしくは泣いていた。


 ……これは何だ?


 そして俺の頭がこの現実に追いついてくる。


 この世界にはゴミーナなんていうクズは存在しない。

 だけども……


 この国は、一度訪れた国の危機を反省し、生きていても役に立たない人間は全て殺処分しよう。

 国が危なくなると、こういう奴は容易に敵国に寝返る。

 百害あって一利なし。殺処分。


 ……そういう国家方針になったらしい。


 そんなッ!


 何故こんなことになったんだッ!?


 俺は必死で記憶を探る。

 アカシア人名録を握り締めながら。


 だけど……


 その人名が浮かぶ前に。

 この部屋に勢いよく、人命を奪うためのガスが流れ込み始めた。


 ――何で俺がこんな目にぃぃぃ!?

お前の人生がクズなのは、過去の人間のせいでは無い

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