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黒衣の角刈り男  作者: XX
13/13

第13話 レトロ品なんて馬鹿みたい

「どうして離婚なのよ!? あなたが悪いんでしょう!?」


 旦那がいきなりブチ切れて、私に離婚を突きつけて来た。

 旦那とは一昨年、結婚相談所で出会って結婚したんだけど。

 たった2年でも、夫婦だったのだ。


 それを躊躇いなくぶち壊して来るなんて。

 なんて自分勝手で幼稚なの!?


 すると旦那は


「……お前がそのくだらないブランド物のバックを買うために売り飛ばした俺のコレクションはな……俺が就職してからずっと集めて来たものなんだよ」


 40才の旦那は、22才で就職してから18年間。

 ヒーローのビニール人形を集めることを趣味にしていた。


 私はそれがたまらなく嫌だった。


 何度もやめてと言ったのに、旦那は訊いてくれなくて。

 それで一昨日、最終手段で全部売ってやったんだ。


 これで旦那は幼稚な趣味を卒業し、真っ当な大人になれる。

 そんなのだから、40才まで結婚できなかったことに気づかないの?


 私の善意だったのに。

 旦那は逆恨みして離婚を切り出して来た。


 ……こんなの許せない。


 なので内心「慰謝料をふんだくってやる!」と思いつつ離婚届に判を押した。




 ……世の中は狂っている。

 後日、旦那は弁護士を連れて来て。

 

 慰謝料を求めて来たんだ。

 合計1800万円。


 そんな馬鹿な。

 私は女なのに。


「何で私が慰謝料を要求されるんですか!?」


 そう言うと、弁護士は落ち着き払った顔で


「あなたが売り払った依頼人のコレクションは、レトロ品が多数含まれており、現在はプレミアがついていて恐ろしく高額で取引されております。その損害賠償が含まれているのですね」


 レトロ……?

 古いってこと?


 そういえば、買い取り業者に渡したら、100万円の札束になったのでびっくりしたけど。

 まさかそれほど高額で取引されるものだったなんて……


 あんなの、元々数百円の玩具でしょ!?

 ……狂ってる!


「あと、勘違いされているかもしれませんので言っておきますと、慰謝料は有責者が払うもので、それはあなたです。性別は関係無いですよ?」


 そして弁護士が、私の先回りをするみたいにそう言って来た。




 こうして。

 私は財産分与を差っ引いても1000万円を超える高額の慰謝料を請求されてしまった。


 私は頭を抱えた。

 私は結婚と同時に退職して、専業主婦になったから、離婚したら無職だ。

 これからどうすれば良いんだろう……?


 追い詰められた私は、インターネットの掲示板に


 旦那に理不尽な額の慰謝料を請求されて離婚されてしまった。どうすればいいでしょうか?


 そういう質問を書き込んだ。

 こういう時は他人の意見を聞いてみるべきだ。


 ひょっとしたら、弁護士は私の無知を逆手に取って、メチャクチャな要求を通そうとしているのかもしれないし。


 だけど


『男のコレクションを売る女は死ぬべき』


『ざまぁ』


『自業自得』


 ……誰も擁護してくれない。

 私は腹が立って


 よくそんな酷いことが書けるな!?

 私がこんなに苦しんでいるのに!

 大体、古いからなんだ!? ただでさえくだらないものなのに、古くなったら確実にゴミだろ!

 意味不明の馬鹿男ども!


 そう言い返したら


『歴史に価値を感じられないのは野蛮人の証』


『馬鹿はお前。お猿さんには結婚は早かったね』


『お前のような奴が居るから女が低くみられるんだろうね』


 ……袋叩き。

 私は泣いてしまった。


 だけど……


『可哀想に……時間の経過で価値が上がるなんてことは、ただの思い込みなのに。そのせいで酷い目に遭うなんて。同情します』


 いっこだけ、私に同情してくれるコメントがあったんだ。

 私は嬉しくて。


 あなたのような真っ当な人が居ることが、私の救いです!

 勇気が湧きました! なんとか慰謝料の減額ができないか頑張ってみます!


 そう、返信したんだ。


 そのときに気づいたんだけど……

 相手のコメント欄に表示されているアイコンは、角刈りの男の顔だった。


  


 そしてその日はそのまま就寝し、次の日。


 何気なく、テーブルの上に放置していた慰謝料の督促状を見たんだ。


 すると……


「大幅に減ってる……?」


 何故か。

 1000万越えの高額慰謝料請求が、大幅に減っていた。

 私でもなんとか払えるレベルに。


 嬉しかったけど、困惑したので。

 この件の担当弁護士に連絡を入れたんだ。

 何で慰謝料がここまで減っているのかと。


 すると


「二束三文のコレクションを勝手に処分したという理由で、離婚するに至ったわけですし。それが相場なんですよ」


 結婚年数も2年と少ないですしね。

 それが弁護士のコメントだった。


 ……そんなことって……


 私は笑み零れるのが押さえられなかった。

 どういうわけか知らないけど、あのゴミの価値が暴落している。

 古いものに誰も価値を感じなくなっている!


 私は嬉しくて


 元旦那に電話を掛けた。

 数コールで旦那が出る。


 私は


「そろそろ頭も冷えた? 私も勝手に捨てたのは悪かったかもしれないから、今なら復縁してあげても良いけど?」


 そう、再婚の意志を伝えたんだ。

 あのゴミの価値が暴落したんだ。旦那も反省してくれるだろう……


 そう思っていたのに。


 元旦那は


「……黙れ。値段は関係ない。俺は俺の歴史を切り刻んで捨てたお前を許さない。お前の人生が俺の呪いに満ちた、地獄でありますように」


 そう言い捨てて電話を切って来たんだ。


 ……はぁ?


『お生憎様。あんなゴミに価値を感じていたのはアナタだけだから! 馬鹿なんじゃないの!?』


 そうメールを打ち込んでやった。

 電話は多分、即着拒してくることが予想できたので。


 私はそのメールを送った後、即座に元旦那をブロックした。

 さようなら。幼稚なおこちゃま。




 元旦那は高額所得者だった。

 だから私は、同じくらい稼ぐ男と再婚したい。


 そうすれば、元旦那に背負わされた借金も楽々返せるし。


 なので私は借金をして、最高レベルの結婚相談所に入会したんだ。

 安いところには安い男しか来ないしね。


 だけど……


 入会後、半年たってもろくに男性を紹介して貰えず。

 お見合いが成立しても、即お断りされる。


 全く理解が出来なかった。

 なので


「どうしてお見合いが成立しないんですか!?」


 自慢じゃ無いが、私は若い頃はモテていた。

 見た目は並以上のはずなのに。


 だけど、カウンセラーは


「当たり前だと思いますよ? あなたは35才以上ですよね?」


 35才以上の女性は、需要が無いんです。

 常識でしょう?


 真顔で返して来た。


 私は腹が立ってしまって


「女性を年齢で差別するのは人権侵害だ! 年を重ねた女の魅力を無視するなんて!」


 怒鳴りつけてやったんだ。

 私は間違ったことを言ったとは思ってない。


 だけどさ……


「え……? 何を言ってるんですか?」


 カウンセラーは私を馬鹿にはしなかった。

 困惑していたんだ。


 そしてこう言ってきた。


「古いものは古いというだけで、新しいものより価値が低いのは当たり前では? そこには一切例外は無いでしょう?」


 本当に、何を言ってるんだこの人?

 心配する目で。


 ……私は背筋が寒くなった。

 怒りは湧かなかった。


 そこに、本気を感じたからだ。

 それこそ、太陽が東から昇る、人はいつか死ぬ。

 そのレベルの常識を言っているのに、みたいな。




 ……この世界はおかしいのかもしれない。

 今まで自分に都合が良かったからまったく気にしていなかったけど。


 私はパソコンをつけて、ネットで調べてみた。

 古いものに価値が無い。

 その前提で社会が作られていた場合に、何が想定されるのか。


 ……すると


 まず、年金制度というものが、この社会に無かった。

 あと、老人ホームというものも無いようだ。


 検索を掛けても一切引っ掛からないから。


 そこから考えるに、この世界では若いときに蓄えを作っておかないと、老人になったときに野垂れ死ぬ。

 そういう社会システムみたい。


 ……なんてことなの……!


 私は戦慄し、さらに調べた。


 そして見つけてしまう。

 極めつけ。


 女性は35才以上、男性は40才以上で、税金を納められなくなったら強制安楽死。


 えっ、と思った。

 その後ろに、理由があった。


 生物的に繁殖能力が衰えた人間を、納税しないのであれば生かしておく価値が無い。

 むしろ生かしておくと、自暴自棄になって犯罪者に変貌するリスクがあるため。




 なんて……なんてことなの……?


 私は現在36才。

 現在無職……借金あり。


 どうしよう……?

主人公、世界の異常さに気づくのが遅すぎ問題。


読んでいただき感謝です。

ここまでの物語が面白いと思って下さった方、是非評価、ブクマ、感想等をお願い致します。

(反響を実感できるのは書き手の喜びです)

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