三話
丹沢山塊と箱根や伊豆半島の山々に囲まれた風景の中に富士山が望め、江ノ島の太平洋側からは初島を望むことが出来る。本土と島を結ぶ弁天橋からの眺めは絶景と言える。
片瀬江ノ島は神奈川県藤沢市に位置して湘南海岸の名で世間に知られる場所だが江ノ島ではない。緑色の屋根と紅色の外壁に覆われた片瀬江ノ島の駅舎は浦島太郎の龍宮所を思わせるような変わった外観をしている。
駅を背に右側に並ぶコンビニエンスストアーやファーストフードの前を真っ直ぐ進むと最初の小さな石橋が川の上に架かっている。その橋を渡って直ぐ右側に綺麗な地下道へ通じる道があり、そこを通り抜けると鉄製の弁天橋の袂へ通じる歩道に出る。
舗装された歩道は右側の川と平行に河口付近まで続き、川べりにある小さな船の乗り場の看板が視界に入る。看板には「江ノ島乗合船のりば、岩屋洞窟行き」と書かれている。そこを過ぎると、弁天橋の入り口の右側に建つ大きな黒っぽい石碑が迎えてくれる。大きな墓石を彷彿させるような形をした石碑の表面には「名勝史蹟江ノ島」の文字が大きな字で彫られ白く塗られている。
大橋で出来た弁天橋の上はレンガ敷きの遊歩道と左側の自動車専用道路に分かれている。橋の左右には太平洋が広がり、潮の香りが鼻をつき心地よい。快適な散歩が約束されている遊歩道だが冬の風の強い時期には大自然の厳しさを体感する事になる。
日によっては烏が低い橋の欄干に止まり、鳶が空中で旋回し人間の食い残しの食べ物を狙っている。何もしなければ危害はないが、注意は必要かもしれない。
長い弁天橋の歩道を渡り切ると島の参道の入り口にある大鳥居の前に出る。江ノ島神社に通じる参道には数件のお土産屋と飲食店や旅館が軒を並べる。参道の中間には小さな郵便局があるが銀行は見当たらない。
参道から奥にある龍宮所の様な形をした白い神社の門を確認する事が出来る。その光景に片瀬江ノ島の駅舎の記憶が蘇える。