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世界は俺にやさしくあれ  作者: Azum@θ
第一章 基盤編 〜安定まで〜
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基盤Ⅶ ニートとフリーター2


謎の道化師との件から数分後、俺は総合ギルドに帰ってきた。

なんかもう街を観光する気がなくなってしまったからだ。


室内を充満するアルコールの匂いは最早気にならない。

今の俺の頭の中で悶々と渦巻いているのは〝なぜ俺がスキル持ちであることがばれた〟……ということだ。


もちろん誰にも言ってないし、これからも言うつもりはない…。

それにあの道化師は去り際に変なことを言っていた。



ーー〝天界炎神(プロメテウス)〟……。確かにあいつはそう言った。

天界炎神とは何なのか。俺のスキル天界空神(ゼウス)とどう関わりがあるのか。



考えても分からない。ヒントが少なすぎる。

考えろ……考えろ…考えろ考えろ考えろ……!


「……ん!ヒランさん!」


「…ッ!は!はい!」


いきなり耳元で大声を出せれ俺は飛び跳ねる。

見るとそこには数枚の書類を持った受付嬢がいた。どうやらめぼしい仕事が見つかったらしい。


「大丈夫ですか?何度も呼んだんですけど返事がなくて……。何か考え事でもしてたんですか?」


「……ああ。すまない。気にしないでくれ。……で、いい仕事の方はどうだった?」


「ええ。いくつかにめぼしい日雇い仕事をピックアップしました。

どれも時給はそれなりに高いやつですよ」


「助かる。ありがとう」


俺は受付嬢に礼を言って数枚の書類を受け取る。

そこには主に肉体労働がメインの仕事ばかりだ。


「なるほど……な」


俺は書類を黙読しながら思考に耽る。そして一つの仕事を選んだ。


「うし!これにすっか!」




    △▼△▼△▼△



俺は一旦住居に帰ってきた。

先ほど書類を提出し仕事は決まったがすぐにあるわけではない。仕事は明日からだ。

とりあえず今日はもう出歩かず、明日に向けて体を休ませるコトにした。


「ただいまー」


「いらっしゃ…!ああ!お帰りなさい!ヒランさん!どうでした?」


「ああ、仕事決まったよ」


俺が食事処;食中毒の扉を開けると朗らかな声が返ってくる。

声の主はリステリア。ここの飯屋の主だ。



店内は朝方だからか客はまだおらず、いるのは俺とリステリアだけだった。


「それはおめでとうございます!ところで朝ごはんは食べますか?」


俺が就職(と言っても非正規だけど)したことを祝った後、俺に朝飯を勧めてきた。忘れていたがここの飯屋の2階に住むと特典として、朝昼夜の飯を振舞ってくれるらしい。


「じゃあお願いしようかな」


そんなことをすっかり忘れていた俺はリステリアに頼む。明日から給料が出るまで飯無しで生活しようと思っていただけに思わぬ誤算だ。


「わかりました。少々待っててくださいね」


そういってリステリアは天使の微笑みを浮かべながら奥の厨房へと戻っていった。

一体彼女が作る朝飯ってどんな料理なのかと期待に胸を膨らます。



近くの椅子に座り何気なく辺りを見回すと、どこもかしこも綺麗に掃除が行き届いた。

……ふむ。やはりいい飯屋ってのは掃除が行き届いているかで判断できるな!このくらい綺麗に保たれているのなら、さぞ美味しい料理が出てくるんだろうな!(フラグ)


そんなことを考えていると、


「できましたよー冷めないうちにどうぞ」


「はやっ!」


まさかのタイム。俺が席に着いてまだ一分も経ってないぞ!?

なるほど!この店の魅力はこの〝早さ〟でもあるのだろう。


仕事でクタクタになった時、こういう店だと瞬足で提供される料理というのはとても良いモノだろう。


さてさて……どんな料理かな…?


……。


ホォー。まぁ見た目は良くもなく悪くもなく……。なんか見たことのない色が混ざっていることさえ除けばごくごく普通のスープ料理だろう。

だが料理というのは見た目が全てではない。

多少見た目が悪かろうが味で挽回できればいいのだ。


俺はスプーンでそのスープをひとくち掬い口に運ぶ。




ーーこの瞬間



《何か俺の勘が言っている。この店の料理を食べるなと!》



忘れていた昨日の記憶が走馬灯のように蘇った。


「はっ!?」


俺はその記憶が蘇った瞬間に手を止め、食べることをギリギリ回避した。

背中に止めどなく汗が滝のように流れている。



食べる直前で、急に止まった俺をリステリアが心配そうに聞いてくる。


「どうしたのですか?……ま、まさか!虫とか髪の毛が…!」


「え?ああ!そういうのじゃないから!」


参ったな。今の一瞬で起きた出来事を口で説明するのも難しい。……もう食べるしか道はないか?


すまない。昨日の俺。

昨日の俺は食うなと言ってが今は腹が減っているのだ!致し方なし!


俺!いっきまーす!




!?!?!?!


予想通りの展開だ!がこれは想像の数倍をゆく!

非常にまずい!


舌先に乗っけた瞬間、舌が痺れ始めた。本能が吐き出せ!と言うが本人がいる手前、そんなことができない、というか体が痺れて吐き出せない。

だがなぜか〝飲み込む〟という動作だけができる。なぜ!?



ぐ…!ぐぉ…っ!隣でどんな感想をしてくれるか、目をキラキラさせてるリステリアを見ると、この率直な反応は見せられない。俺は必死に押し殺す。


そんな思考は時間にしてわずかコンマ数秒。そんな短い時間だが変わらず地獄の苦しみは続く。



今!今やっと分かった。

ここに初めてきて部屋を借りる時、部屋が全て空室だった理由を!

そう。ここの料理は超がつくほどまずいのだ。よくこんな腕で料理人やってんなぁ!って数時間説教したくなるような激味だ。



覚悟だ!覚悟!俺はこの強敵と戦わなければならない!

目を落とすと、スープが入った容器が三つに見える。


なんだ!?幻覚作用でもあるのか!?


ええい!ままよ!

俺は口に入った少量のスープ(毒物)をごくりと飲み込む。





そこから意識は途絶えた。








    △▼△▼△▼△



「ああっ!?」


気がつくと俺は自室で横たわっていた。

家具も何もない殺風景な部屋。備え付けの台所だけが違和感を感じさせるほどの部屋で俺は眠っていたらしい。


ふと横に目をやるとそこには寝転んで漫画本を読むエルナの姿があった。

俺は話しかける。


「なぁ」


「何ですー?」


「俺……何が起きたんだ?」


俺がそう聞くと、エルナは漫画本を閉じ胡座の体勢で座り込んだ。

そして、


「貴方が一階で飯食って突然倒れたって聞きまして、とりあえず2階に運んだんですよ。……てか何があったんですか?」


どうやら飲み込んだ後は気絶したらしい。

エルナには言っておこうか……?リステリアの作る飯がエグい事を……

俺は何が起きたかかいつまんで説明した。そして説明が終わると……


「そんな気絶するほどの料理なんてあるわけないじゃないですか〜。そんなのは漫画の中の世界だけですよ」


何も知らないエルナは呑気にそんなことを言う。

俺もそれ以上は説明しなかった。せいぜいその身をもって知るといいさ……。ふふふ。


それはそうと……


「おいお前。その漫画本を買うお金はどこにあった……?」


俺はできるだけ冷静にそう問う。

答えはもう、頭では分かっているのだが認めたくないと身体が言っているのだ。


「え!?こ、これですか!?わわわたしのお金ですよ!」


「ほーう。確かお前は別の借金で差し押さえられて持ち金はゼロのはずだがな……?」


「え!?あ!?お?あはは…」


分かりやすく挙動不審になるエルナ。持ってた漫画本を背中に隠しているがもう遅いだろう。

俺はとどめ(フィニッシュ•ブロー)を放つ。


「お前……俺の()()()()()を使ったな……?」


「あわわわわっ」


俺は常に幾つかの非常用の金を袋に分けて持ち歩いている。

今回みたいに意図せず金を使い切ってしまった時に使う用なのだが……。


部屋の隅に置いてある、俺の小さな鞄。

中をあけ袋を確認する。


……。


し っ て た。


「お前……」


「あ、あのですね!?貴方が私の借金を払ってくれるまで暇なのです!?だ、だからこれくらいの娯楽は……」


「うるさーい!!!今日晩飯抜きじゃ!」


「ごめんなさーい!!!」


エルナの悲しみの悲鳴が上がるが俺は無視だ。

懇願?んなもん知らん。せっかくその非常用の金で飯を作ろうと思ったのに……。



全くあいつは!ぷんぷん。







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