基盤Ⅵ ニートとフリーター
「う…うーん……」
俺は瞼に日の光を感じ、強制的に起こされる。
窓から聞こえてくる「ギャオッ!ギャオッ!」という謎の鳥の鳴き声。
この街の風物詩らしいが、ホントに何なんだあの鳥。
俺は寝ぼけまなこで家具も何も無い部屋をぐるっと見渡す。
そこにあるのは散乱した大量の食べ跡…と、無防備に寝ている少女一匹。
と、そこで昨日の記憶が立ち所に蘇る。
確か俺は家を借りれた祝いでエルナと飲んでて…(ウーロン茶)
気がついたら朝だったのだ。
……。
とりあえずエルナを起こすか。
「おい、おーい。朝。あーさだぞ。起きろー」
「……ん?んん?」
俺の起こす声ですぐに目が覚めたようだ。
さっきの俺の行動を再放送かと思うくらいの精度で繰り返していた。
そしてきょろきょろとあたりを見渡した後、俺に視線を回帰させた後、一言。
「あれ……私お持ち帰りされたんですか?」
「してねぇよ」
俺は硬派な漢なのだから。(要するにチキン)
おい誰だ今の字幕書いたやつ。はりたおすぞ。
そんなこんなで俺のこの街初めての朝を迎えれた。
いやー。ホームレスにならなくてよかった。
とりあえず一階の食堂へ挨拶を行こうと立ち上がった瞬間、
「あー!」
うるさ!誰や。
……一人しかいないからすぐに特定できたわ。
俺を振り返り突然叫んだエルナにどうしたのかと尋ねた。すると、
「わ…忘れてました!無理言ってツケを1日分だけ延ばしてもらったのに!払うの忘れてました!」
そうだった。たしかあの時の公開謝罪の時そんなこと言ってた希ガス。
しかし俺もすっかり忘れてたなぁ。
いやー参った参った。
「なに他人事なんですか!?貴方が早く報酬を払ってくれないから!とととととりあえず今すぐにでも払ってください!」
あ。
「あ。ごめん。昨日の飲み食いで全部消えたわ」
「Hooooooooowaaaaa!」
エルナが言葉に出来ないほどの奇声を発する。
ちょっと面白い。
でも俺にも反省すべきとこはあるかな。家を借りれた嬉しさで調子に乗ってしまった。
明日のことを考えずに金を使ってしまったから、明日からどうしよう。
幸いにもこの住居ーー安アパートの家賃や敷金などは既に払ってある。
手に入れた途端、家を失うなんてことがなくてよかった。
「あ……ああ。そういえば言ってました…ッあの店主……〝次遅れたらどうなるかわかってんだろうな…!〟
って!」
エルナが震える声でそう絞り出す。
そこで俺はいくつか疑問が残った。
「一体どのくらいの間ツケを溜め込んでんだ?」
「…大体一年くらいですかね……ッそんなことより!」
結構な期間溜め込んでんじゃねぇか。
俺は内心でそう突っ込む。
それにエルナが言葉を続けた。
「貴方が!払ってくれないからこんなことになってしまったんです!どう責任とってくれるんです?」
なんかえっちな響きだと内心で思うが、これは言ってしまったらますます火に油を注ぐことになるだろう。
それにしても責任ね……。
どうしよう、これ。
△▼△▼△▼△
今俺はとある場所に一人で向かっている。
その〝とある場所〟とは総合ギルドだ。今の俺は兎にも角にも金が必要。日雇いでも何でもを仕事を貰うために向かっているのだ。
数分歩いて大通りに出る。するとそこには総合ギルドだ。
利便性がいい物件を手に入れたことを再確認し、ニヤニヤする俺。だがそれと同時にあの食堂の未知なる〝影〟のことを思い出し、気分が下がる。
……とりあえず中に入ろう。
△▼△
室内は相変わらずのアルコール臭。あのおっさんたち……朝から飲んでるのか…。
俺はまっすぐいつもの場所へ。そこには俺を見て露骨に舌打ちをする受付嬢がいた。
俺は軽く手を挙げる。
「おっす」
「……。おはようございます。それで?今日は何のご用ですか?」
「ああ。実は仕事を探してだな…」
俺のその言葉に受付嬢は頬杖をついたままケッと息を吐くと、
「何で私のところにくるんですかねぇ?他にも受付あるじゃないですか」
「俺とあんたの仲だろう?そんなこと言うなよぉ」
「ホント。いやな縁ですよ」
そう悪態をつきながらも書類を探してくれる受付嬢。
そんな彼女に心の中でそっと礼をする。
「しばらく時間がかかりそうなので、外へでも何でも行っててください」
「うぃ〜い」
俺はそう言われ、総合ギルドの外へと出た。
あのアルコール臭が充満する室内にいるとおかしくなりそうだからだ。
△▼△
「ふー……」
俺は外で、まだ涼しい明け方も空気を体全体で感じ一息をつく。
俺の新しい仕事を探すのにもう少し時間がかかりそうだから街を探索するために外に出た。
よくよく考えれば俺はあの受付嬢に結構お世話になっている。
態度こそ酷いがそれを抜きにしても活躍度は凄まじい。
今度お礼でもしようかな、ぼんやり考えながら歩き出した。
その時ーー、
「ヤァヤァ、そこのお兄さん。ちょっと時間いいですか?」
上部だけを〝陽気〟で取り繕ったような声の持ち主が話しかけてきた。
俺は何事かと振り返るとそこには、道化の格好をしたふざけた男がいた。
「何だ?俺のことか?」
「ソウソウ。お兄さんだよ」
と、俺の言葉を肯定。
正直俺はこの後街の探索に出たいからこんなところで時間を潰している場合ではない。
時間の無駄だと感じつつ、話を聞く。
「ジ•ツ•ハ!お兄さんにちょーっとだけいい話があって……」
「何だ?楽に儲ける仕事かなんかか?それとも壺か?」
「ーーー!!お兄さん!もしかして私たちのコトに興味が…!?」
「ちげぇよ。逆だ、逆。……すまんな俺急いでるんだ。じゃ」
どうやら怪しいのは格好だけでなく、内容も怪しいモノだったらしい。
俺は片手を挙げそそくさとその場を立ち去る。やはり時間の無駄だったようだ。
歩き出したそんな俺に道化の男は追いかけ、俺の正面へ。
そして、
「おやぁ?いいんですかぁ?じゃあこれならどうでしょう。
私はちゃーんと知ってますよ。あなたがスキル持ちだと」
「……!!」
その瞬間、俺の身体中の総毛立つのが感じられた。
何だ…?俺の聞き間違いか?俺の聞き間違いじゃなければ今、この男が言ったのは……!
「オヤァー?どうやら私の話を聞く気になったようですね?」
劇的な変化が起きた俺に、道化の男がニヤニヤとニタニタと気味が悪い笑みを浮かべながらそう言い放つ。
今の俺はその言葉が聞くどころではなかった。
いつだ!?一体いつそのことが漏れた!?
俺はそのことをこの街に来てからは他言していない。というかするつもりはない。
俺はそのことから逃げるために、わざわざこんな辺鄙なところまでやってきたのだ。
その疑問だけがずっと俺の頭を駆け巡る。
そして気づいた、その理由を知る方法に。
「ああ。そうだな、是非聞かせてもらおうか。お前について……な」
俺の鋭い目を見据え、道化をますます笑みを大きくする。
△▼△
「……ここならいいだろう」
俺と道化師はそのまま近くの路地裏にやってきた。どうせなら小洒落たカフェにでも行きたかったが生憎金が無いのでな。
そんなことより、目の前の男についてだ。
俺は油断なく、道化師に問う。
「……おまぇ…。さっきの話!どこで聞いた…?」
「オーオー。怖い顔だぁ。いやー良かった良かった。確証はなかったんだけど君が答え合わせしてくれて助かったよ。」
「……っ」
……。相手のペースに乗せられるな。俺。それでは相手の思う壺だ。
一つ確信めいたものがある。それは目の前の男が只者ではないということだ。
佇まいからは想像できないが一般の人ではないだろう。それに覇気だ。何とも形容し難いこの覇気はできることなら長居はしたくはないと感じさせる。
「それで……?あんたはそのことを知って何がしたい?」
「ソレダケ…だよ。確認できたからもういい私は満足だよ」
道化師は飄々とそう言い切る。
確認…?俺のスキルの有無についての確認…。
碌でもないコトに繋がることだけは分かる。
それじゃ、と片手を挙げその場を立ち去る道化師。こちらに背を向けてはいるが油断ならない。
俺は精一杯ドスをこめた声で呼び止める。
「……待て」
「…?」
とぼけた顔でこちらを振り返る道化師。わかっているだろうに。
「一体どういう意味だ?答えろ。さもなくば……燃やすぞ」
と、俺は手をかざし、そう脅す。
俺が使えるのは炎術の初究までだ。
こんなモノ、陽動くらいにしかならないが、脅すだけだ。
すると、ここまで笑顔だった顔が初めて驚愕に染まった。
「も、燃やす……だと!?……うふふふふふ。あっはははは!!そうか!君がか!天界炎神の持ち主か!あははは!」
「……?」
俺の言葉に突然歓喜する道化師。だが一体何が彼をそこまで喜ばせるのかは皆目見当もつかない。ますます不気味さが増す。
次の言葉を発しようとした瞬間にはもう消えていた。ーーいた、飛んでいた。
「!?」
見ると、遠くの家の屋根にいた。いつの間に…というのが率直の感想だった。
おどろく俺に道化師は軽く手を挙げて、
「アリガトウね!…えっと…。そうそう!ヒラン君!今日のイベントはここまでだ!
また縁があったら会おう。……じゃ」
そう言うと、道化師はその場に溶け込まれるように消えた。
……まるで背景に同化したような、綺麗な消滅だった。
「……」
後に残された俺は何も言葉を発することはできなかった。
一つ気になったのは、道化師が言ったいた言葉…天界炎神。
響きからして、俺の天界空神と似た何かがあると思うのだが、真相はまだわからない。
そう……、まだ…ね。