基盤Ⅲ 総合案内所
俺は今、とある建物の前に仁王立ちしている。この建物は俺がずっと探していたものだ。それはつまり俺の新しい生活の基盤となるもの。自然と笑みが溢れる。
プラズマに開放されたのち、俺は道ゆく人に聞きまくった。もう一回道を聞くためにプラズマの元にのこのこと出向いていたら今度こそ本当に逮捕されかねん。だから諦めて道を歩いていた一般人に聞いたってワケさ。
それにしても何でほとんどの人がプラズマの所に誘導するのかな?道を聞いた七割のやつが口を揃えて俺を誘導しやがる。戻ってしまったら本末転倒だろう。チキショウ。
その後、色々あって本来の目的である〝場所〟を聞いた後、ここに参上したというワケさ。
なんでも、目の前の三階建の大きな建物は「総合ギルド」、又の名を「総合案内所」ともいうらしい。
つまりはこの街ですることのほとんどは、この施設を介して色々とやっているのだ。俺みたいなこの街に引っ越すような人もまずはここに行かないといけないんだって。
長々と説明したけどわかってくれたかな?さぁ!行ってみよう!
△▼△▼△▼△
俺は重々しい重厚な扉に手をかけ、ゆっくりと開く。
ぎいっと高いような低いような、そんな中間の音を立てて扉は開かれた。
開けた瞬間、中からのアルコールの匂いと熱気が顔に直接吹きかけられた。
むわっとした熱気に漢の匂いが混ざり合い、何とも形容し難いものだ。
そんな不快な環境下でも、ものとせず俺は中へ歩み寄る。
多くの机や椅子、カウンターなど。酒場が併設された中では昼間なのにも関わらず多くの人で溢れかえっている。特に多くの人でワイワイ騒いでいるのは酒場だ。The 定番といったような酔っ払いがあちこちで倒れている。
怒号や罵声が飛び交う中を俺は目もくれず目的の場所へ。
と、その時甲高い叫び声が俺の鼓膜を刺激した。俺に対してのダル絡みの強制イベントが発生したワケではない。
声は酒場の近く。黒山の人だかりの中で聞こえてきた。
野次馬精神というべきか、俺はついつい覗きに言ってしまう。
一体なんだろう。
「すいませんすいません!来週までには!必ずしも来週までには払いますので!何卒ご勘弁を!」
人がたくさん集まっている中、真ん中は不自然なほどにぽっかりと穴が空いている。その真ん中で泣きながら声を張り上げているのが、先ほどの声の主だ。
なるほど……ね。俺は聡い(自称)。わずかな情報だけで推理してみる。おそらくこれは酒場のツケ……って答えるのは凡人だ。俺くらいになると〝逆〟。つまり〝裏〟をかく。
俺の予想では差し詰めお金の貸し借りだろう。きっと友達に借りた金を返せれずに、ああやって謝ってるんだ。
ああ、懐かしい。俺も昔よくしたなぁ。
「酒代は、当てがありますので!どうか来週まで待ってください!……え?友達に借りれば……ですって?……。そ!それは友達がいない私への当てつけかぁ!?」
……。ま、まぁ?人間誰にだって間違いはあるよねー?こういう失敗で人は成長する。いわば失敗は成長までの近道なのだよ?
……。なんで今日はこう悉く俺の予想は外れるのだ?
よくよく見てみると声の主は女だった。薄い紫色の髪を短く刈りそろえた小柄な少女だ。外見は俺と同じくらいだろうか?……ん?同じ?酒代?……。
まぁ触れないでおこう。
彼女は必死に懇願しているが酒場の店主は取り付く島もないようだ。
数分間の押し問答の末、今日中に酒代を払うと約束され、その場は一旦解散に。
その場でお開きとなり男たちはぞろぞろと離れていく。
「おい。見たかよ、あれ」
「ああ、見たみた。あの女、恐ろしく間抜けらしいな!聞くところによると今日も勧誘やらなんやらに騙されて稼ぎを失ったらしい。これで24回目だぜ!?いやー、あいつ真性のあほだな」
「ちげぇねぇ」
大きな笑い声をあげる隣の男の会話を聞く限り、今喚いていた奴は騙されて借金まみれになったってとこかな。
それにしても24回も騙されるなんて天性の間抜けというべきか……。
おっと寄り道してしまった。確かにあの子には残念だが俺は困っている人、全てを助けるほどの慈愛に満ちてはいない。自分で頑張って欲しい。
……去り際、あの女(騙され間抜け女)と一瞬目があったような気がするが気のせいだろう。
俺は酒場から少し離れたカウンターへ。どうやらそこが、生活に関する手続きをするところらしい。
透明な壁で仕切られた奥、女の人がいた。
俺は話しかける。
「あのーすみません。新しくこの街に住みたいんですけど……」
「あっ!k…お!お客さんですね!登録はされてますか?」
ん?噛んだ?触れない方がいいだろう。俺はスルーして会話を続ける。
「あ、いや……なんの登録ですか?」
「こちらの街で生活していただくにはまず狩人として登録してもらわないといけないんですよ。
狩人ってのは主に、街の外で魔獣狩りをする人のことを指しますね。ですけど最近狩人の数が減少気味で……。
ですから形はどうであれ、狩人の数は増やさないとな〜ってことで狩人となるのが義務と上が決めたのです。
あ!もちろんですけど、カ……ゴホン。お客さんは登録だけで結構。魔獣狩りは強制ではないですよ」
おい。それでいいのか上さんよ。要するにあれか?狩人の人数が少なくなってきたからこの街に引っ越してきた連中を登録だけさせて数を稼ごうってことか?
……根本的な解決になってないような気がするがいいだろう。
登録するだけならお安いご用だ。
「あ!言い忘れてましたけど、カm…お客さん。狩人になってもらうには料金がかかりますよ。
すいませんね。カモ…お客さん」
「もはや隠す気ないな!?」
さっきから連呼しているカモ発言を指摘するも受付嬢は知らん顔だ。こいつ。
「はぁ。分かったよ。払えばいいんだろ払えば。一体いくら……高っ!ほんとカモ扱いしてんだな!?」
受付嬢から示されて金額は、まぁ高い。ぼったくりかと言いたくなるほどだ。
足元を見るとはこういうことを言うんだろう。だが払えないことはない。
財布?ああ、大丈夫だ。ギリギリ致命傷で済んだ。
俺が渡された紙に必要事項を記入していると、受付嬢が又ーー、
「あ!もひとつ忘れてました!」
「忘れとけ」
「あのですね。登録していただくには〝二人以上の人数〟でパーティを作らなきゃ登録できないんです。
まぁこれも規定です」
「……は?」
俺の思考は停止。しばらくの間ローディング状態に入る。
はぁ!?そんな大切なコトはよ言えよ!?
俺の叫びは決して上の連中に届くことはないのだった。
△▼△▼△▼△
ヒランの叫びが建物内に響いた同時刻、壁に寄りかかってヒランを眺めている男が一人。
例えるならよく少年マンガで主人公の成長を高い場所で睥睨しているような奴だ。
そして、誰に聞こえることなく呟く。
「へぇ。〝スキル持ち〟か……久しぶりだね。
……僕もようやく会えるかな?」
ここで男は口角を上げた。その姿はさながら餌を求める猛禽類のようだ。
男が探しているのはたった一つのスキル。
……〝天界炎神〟