基盤Ⅱ 記念すべき1回目の職質
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結構人がいなくてガラガラな街のイメージがあったけど全然そんな事なかった。そこらの街と変わりないくらいの人が歩いている。でもなんとなくだけど,若干人が少ないような気もする。僅差だけど。
俺は入ったはいいけど何をしたら良いか分からず暫く呆然と立ち尽くす。知り合いが誰もいない状況というのは心細いものだ。だがこれは,俺が選んだ道。いないならゼロから作ればいいのさ。
とりあえず、まずは情報収集だ。この街に住むためにはどうしたらいいか知る必要がある。そのためには道ゆく人に聞いてみよう!すみませーん!
俺が話しかけた人は小さな幼女だった。いや,たまたま近くを通りかかった子であって決して選んだわけではないからね!?(何も言ってない)
とりあえず尋ねてみる。
「ねぇ君。ここら住むためにはどうしたらいいか知ってる?」
「ヒッ……!」
ん?なぜか怖がらせたみたいだな……。なんでだろう…?今の俺は全身を黒で統一し,顔も隠したイカしたファッションなのにどこに怖がる要素があると言うのだろう。(←原因)
その女の子は震える声で辿々しいながらも道を教えてくれた。いやー助かる!きっと不動産的な何かがあるんだろうな!あの子には感謝しなきゃな!
幸先がいい俺は上機嫌だ。ふん〜ふふ〜ん。
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チキショウめ。あの子,騙しやがったな。
「えーと,名前は〝ヒラン〟さんでいいのかな?」
「ア,ハイ」
今俺は街の警備隊にしょっぴかれ,職務質問の真っ最中だ。
くっ。あの子年齢の割に聡い子だ……。身分証がない怪しい俺を警備隊が常駐する所へ誘導するとは……。
にしても、何で俺が身分証が無いことに気づいたんだ?今の俺の格好は誰が見てもクールなナイスガイにしか見えないかっこいいハズなのにな。
しかし逆に考えてみれば俺はここで家を借りる方法を知れるーー疑問を解消できるのでは無いだろうか?
……警備員の不信感を拭えたらな。
「えーと……、君はこの街出身……ってワケじゃなさそうだね」
「エ?ア、ソウデスネ。実ハ、コノ街ニ住ミタイト思ッテマシテ…」
やはり緊張のためか言葉が不自然な言い方になってしまう。ここでしくじったら豚箱行きかもしれない。だから余計緊張する。
そんな俺の様子を見て警備隊の人はますます訝しげな表情で俺をみる。
「あー,なるほどね。うんうん。こんな辺鄙な街に住もうとするなんて珍しいね。じゃあ身分証見せて」
「……はい?」
ついに来た。俺がかつて住んでいた街で作った身分証。この世界において身分証は絶対。今俺がしようとしているような物件を借りるときなどには必須なのだ。
ああああ。なんで捨ててしまったのだ。後悔の念が俺に押し寄せる。だが今更遅いのだ。
俺は苦し紛れの会話でなんとかなかったことにできないか画策する。
「あー。ところで警備員さん。今日はいい天気だな」
「……今にも雨が降りそうな曇天だぞ。お?降ってきたな雨」
……完全な裏目に出てしまった。今の俺の言動で俺の怪しさはパロメーターを振り切っただろう。
目の前に仁王立ちする男の警備員の視線が怖い。
まるで俺を品定めするような視線だ。朝イチのせりに出ている魚の気分がよく分かる。
数秒の後,警備員は決心がついたようだ。俺を連行するらしい。
「おい。ちょっとこっちにきてもらおうか」
「……ちょっとまてい!」
俺を連れて行くために手を取った,警備員を俺は止める。いきなり叫んだ俺に何事かと目を見開く警備員。だが律儀にて俺の言葉通り止まってくれた。これなら話しやすい。
一拍ののち,俺は本題へと切り出す。
「警備員さん……っ!あんたァ好きなモンとかないか…?」
「ほう……?」
俺はここでも一か八かの賭けに出る。警備員に賄賂を渡して見逃してもらうなど決してあってはならないことだ。
だが俺は!自らその〝禁忌〟を犯したのだ。
危険は承知の上だ。このまま豚箱にぶち込まれるくらいなら,最後の最後まで抗ってみるさ。
「私を買収しようとは……飛んだ愚か者がいたものだな。だがこれだけは言っておくぞ。堅物で有名な私はどんなモノにも屈しない!」
「くっ……!な、ならば!この一万ゴールドでどうだ!?」
俺がその場の勢いで言った〝一万ゴールド〟にビクッと反応した。……お?
俺はすかさず懐から一万ゴールドが入った袋を取り出す。こういう時は何事も早く、だ。
俺がその袋を取り出した瞬間、消えた。ーーいや正確には目の前の警備員にひったくられたというべきか。
「あー!うん!今日はいい天気だ!よし!パトロールへ行くぞ!」
……どうやら一難を逃れたらしい。
だが俺にとって一万ゴールドの出費は痛い。懐に心筋梗塞並みの大打撃だ。ここに来るまでに貯めた貯金の大半を使ってしまったのだ。仕方がないといえば仕方がないのだが、なんかこう……無念だなぁ。
俺は急いでその場から駆け出す。警備員の気が変わらないうちに。
「ありがとうな!警備員さん!」
「……だ」
「え?」
去り際、俺がかけた感謝の言葉に警備員は何か反応した。だが声が小さくて聞こえない。俺は聞き返す。
「私の名前はプラズマだ。覚えておけ」
「……何で?」
俺は率直な疑問が湧いた。唐突に名を名乗ることに何の意味があるのだろう?……あ!まさか名乗ってから逮捕するみたいな!?それだったらなんかいやだな。
俺の心配をよそに警備員、いや、プラズマは語る。
「なんかお前とはこれからも縁がありそうだから……かな」
「そりゃごめんだな。俺としてはもうあんたとは関わりたくないってのは本音だ」
俺の悪口とも受け取れるような言葉にプラズマは軽く笑うと、片手を挙げ、去っていった。もう俺を完全に見逃してくれるという意味だろう。
何はともあれ俺はまた難を逃れたのだった。