基盤Ⅰ 潜入!未来の永住地
ここは城郭都市アルカトラズ。
街全体を大きな塀に囲まれ魔物の侵入を防ぐことに特化した街だ。防御に特化したその街はまるで刑務所みたいだ。その外見は重々しい重厚感を放っている。
特産品も観光スポットも何もない、挙げ句の果てには大陸の一番端に位置する利便性の悪さ。
〝魅力〟と言う文字とはかけ離れた都市なのだ。
そのせいか毎年発行されているとある雑誌の人気コーナー「住みたい街ランキング!」下位の常連街だ。
いや考えたらわかるだろ。こんな閉塞的な街。誰が好き好んで住むねん。
そんな超絶不人気な街に住もうとする馬鹿が一匹。ーーそう俺だ。
今の俺の格好は旅する男……纏った漆黒のマントをたなびかせる最高にクールな男に見えるはずだ……。ククク。
(不気味に笑ってかっこよさアップ!)
そう言って街の入り口で一人不気味に笑う俺を、通りかかる人々がヒソヒソと何か言っている。おそらく『かっこいい!』とか『渋い…ッ!』や『こいつ……ッ!できるッ!』などの俺を称賛するものだろうな。(違います)
まぁいい。俺の目的は街の女の視線を一身に浴びることではない。
俺の目的はここーー城郭都市アルカトラズを永住の地にすることなのだ。
俺はスキル習得者だ。
スキル習得が難しいこの世界において俺は物凄く珍しい存在。
これまでスキル習得者というだけに人々から神のように拝み奉られてきた。スキルを持っている癖に何も行使できない俺からしたら肩身が狭いことこの上ない。
だから俺は逃げてきたのだ。かつて住んでた街では俺を神様かなんかと勘違いしてファンクラブまで出来ていたのだぞ!?確かに周りからチヤホヤされるのは嫌いではない。……だが、あれは度が過ぎている!
だから俺は決心したのだ。
この不人気な街、アルカトラズで俺は一から始める!
誰も彼もが、俺を知らない状態から真っ当な生活を始めるのだ!
り:イチから始める都市生活! 近日公開!(大嘘)
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決心して数分……
俺は今、城郭都市アルカトラズの入国審査みたいなモノの列並んでいる。
その顔は、これからの生活を期待しての希望に満ち溢れた顔……ではなく、ひどく切迫した顔だった。
これほどにでかい壁が囲っている街……おそらく防犯意識も高いだろうな。
つまり入国するためには厳しい審査を必要とするはずだ……!
俺は内心焦りながら解決策を見出そうとする。……だが、良い案は浮かばない。こうしている間に時間は無常に過ぎてゆく。
まずいな!かつての身分を捨て去るために、自分の証明書を捨ててしまったのだ。今の俺は怪しさが半端じゃない!
背中に冷や汗が垂れているのを感じる。しかし考えても仕方がない。浮かばないものは浮かばないのだ。
俺は覚悟を決め、特攻する。仕方がない!一か八かだ。
俺はゆっくりと大地を踏み、城郭都市アルカトラズの入り口の検問所に臨んだ。
……。
…。
「あのー。すいません……。この都市に入りたいのですけど……」
「……んぁ?」
意を決して窓口的な何かを覗き込む。そこにいたのは、よぼよぼの年寄りだ。
会話とかでなんとか誤魔化せたらいいな、という案直な考えだが果たしてそれが吉と出るか凶と出るか……。
ごくりと唾を飲み込んで審査官である目の前の老人を見据える。
果たしてこの老人を騙して街に入ることができるだろうか?身元を証明できるものがない今の俺は警備隊でも呼ばれたら一発K,Oだ。
怪しまれないように慎重に,慎重に……。
最初に声をかけたのはいいものの、次の言葉に詰まってしまった。
お互いに無言の気まずい時間が流れる。だがそんな静粛をいち早く破ったのは目の前の老人だった。
「……ああ。こんなかに入りたいんだね。リョーカイリョーカイ」
「…え、ああ。そうなんです。ですが証明書を失くして……」
俺は直前で思いついた「失くした」という嘘を言ってみた。
これでなんとか入れないものだろうか…?
俺はドキドキしながら老人の次の言葉を待つ。
「ああ,んなもんいらんいらん。勝手に入りな」
「……は?」
は?今この人なんていった?いらない?はぁーー!?
心配して損したわ!この街見かけによらずセキュリティ面ではガバガバなんかい!
……まぁおかげで入れたけどさ……。
俺はなんか物申したい気分になったが,助けられたという事実もあるため複雑な気分を抱えながら街へと入る。
色々あったが!ここから俺の新しい物語は紡がれる!