1
勢いだけで始めてしまったので試行錯誤錯誤錯誤中。
需要がありそうなら続けてみたいと思います。
4月16日、本文追記。
ハトがカラスに喰われていた。
平和に鳴いていただけのハトへ、カラスが真っ黒な羽を広げたかと思えば、その姿を覆い隠すようにして身体ごと圧し掛かっていく。
哀れハトは悲鳴をあげる事も出来ず、執拗に顔を啄まれて血肉を引き千切られていきました。
なんと汚らわしい光景でしょうか。
すぐにでも目を離し、意識から追い出してしまいたかったのに、どうしてもそれが出来ず凝視してしまいました。
やがて近くを通り掛かった人の気配に、カラスは物言わぬハトをその禍々しいかぎ爪で掴み取り、物陰へ連れ去ってしまったのです。
妙に陽射しが強いことを感じながら、乱れた動悸を整えようとお腹に手を当てて意識的な呼吸を繰り返す。
頭が強い熱を持っているのに、胸の奥は凍えるように寒い。
寒い。
寒い、わね。
何かが奮えて乾いた吐息が漏れる。
「あの………………シェーラ様?」
すぐ近くから声がして、慌てて意識を戻しました。
学友の一人が固い笑みを浮かべてこちらを見ており、私は努めて冷静に微笑みを返しました。
「……あら、どうか致しましたか?」
「どう……、いえ」
彼女は笑みを貼り付けたままこちらの足元を示して、私もやや遅れて事態に気付きました。
あまりの光景に知らず前のめりとなり、花壇へ踏み入っていた私の足が、スミレの花を潰してしまっていたのです。
慌てて身を引き、しゃがみ込んで花へ手を伸ばす。
「ごめんなさい……」
呟きにもう一人が同じく身を屈め、慰めの言葉をくれた。
「大丈夫ですよ、シェーラ様。庭師に頼んで、新しいものを植えて貰いましょう」
「でも……、この子はもう死んでしまったわ」
「そう、ですわね」
「可哀想なことをしたわ」
けれど落ち込んでいたら周囲に心配を掛けてしまう。
立ち上がって気を取り直し、また少し視線を向けようとして、やはり止めて目を伏せた。
「夢中になって、何をご覧になっていたのかしら?」
「なんでもないのよ」
「そう仰らず。明かして下さいまし」
左右から朗らかに促され、場にそぐわぬ事と思いながらも、仕方なくハトを襲うカラスが居たと打ち明けました。
「まあ……!」
一人は絶句し、一人は憤慨し、共に口元へ手をやって眉を下げる。
「そのような光景を見たのであれば、足元がふら付いてしまうのは仕方の無い事ですわ」
「本当に。警備の者は何をしているのかしら」
「どこにでも入り込むのですから、責めても仕方の無いことよ」
ただ。
「以前から時折学園の周辺で見掛けることがありましたから、お父様に頼んで駆除の許可を得たの。もうじき居なくなるわ」
それは良かったと一人は素直に納得してくれたけれど、もう一人は不思議そうに首を傾げました。
「駆除されるのは喜ばしいと思いますが、許可なのですか? それに、学園ではなく、シェーラ様のお父様……アーベンドルテ辺境伯の許可というのは」
当たり前の疑問に、少しだけ苦味を噛み締めながら付け加えます。
「かなり大掛かりなものになりますから、お家の方にも伝えて備えておいた方が良いですわ」
「そうなのですね。承知致しました」
「? お二人とも、何の話を為さっているの?」
質問には答えず、私は理解した者を連れてその場を離れました。
汚らわしい場所から少しでも距離を取りたかったのもありますね。
そうして戻って行った学園校舎の前で、先ほどのハトが仲間に囲まれているのを発見しました。
「まあ。ご覧になって、王子とご友人の方々よ」
嬉しそうに言う彼女を隣の者が注意する。
「貴女、はしたないわ、静かに為さい」
「どうしてですか? シェーラ様は王子の婚約者なのですから、声を掛けて行かれないのですか?」
「殿方に女の方から声を掛けるものではありません。無作法ですわ」
でもぉ、と納得出来ないと漏らす彼女に、もう一人が窘める言葉を重ねていく。
私は二人の会話を聞きながら、決して視線を向けないよう気を付けつつ、談笑する彼らの横を通り過ぎて行った。
騒がしさから静けさへ。
外と比べてひんやりとした校舎の中を歩き、声が反響しない吹き抜けの場所まで行ってようやく声が掛かりました。
「それで、シェーラ様」
「えぇ」
「駆除の日程はいつになるのでしょう。当家の者もご協力致しますわ」
「おそらくは次の満月の日。衆目の集まる舞踏会の場で言い出すつもりの様ね」
私の言葉に彼女は憤慨した。
「それはっ、っ!! よりにもよってシェーラ様が準備を担当なさる日ではありませんか…。あんまりです」
彼はどうしても私をやり込めたいのよ、とまでは言いませんが。
そして、私達に置き去りにされた子が、不満そうに頬を膨らませて間へ入ってきました。
「もうっ。何を仰っているのかまるで分かりませんわっ。私も混ぜて下さいまし!!」
「こら、はしたないですよ」
「ぶーっ」
あらあら、子豚さんになってしまったわね。
仕方ないので少しだけ話して差し上げましょう。彼女の家は、小さいけれど風変わりな縁をお持ちですし。
「次の舞踏会で、王子が何かしようとお考えなのよ」
何もかもが変わってしまう、当人は余興程度にしか考えていない、お話を。
きっと始まりは、あの言葉から。