No title信任に基づく君人称
常々、自分があと15人いれば世界は上手く回るのに、と思っていると私は本当に分裂し16人になった。
それからの人生はイージーだった。
私は曜日ごとに担当を決め、7人を日常生活に、残り8人を非日常に放り込んだ。一日交代で日常を生き抜く7人とは別に、世界各地で8人が様々な人生経験を積んでいる。
私は監督だ。毎日25時の夢の中で私たち16人の記憶が統合されるので、私は適当に街をブラつき、その日ぐっすり眠るだけで、大学の授業もブラジルのコーヒーの味も味わえる。役得だった。
しかし、そんな日々も長くは続かない。何の因果か、滅びゆく世界で私達16人だけが生き残ってしまったのだ。兄だって死んでしまった。
私は割と地球が好きだし、このまま滅亡するのは悔しいので、縄文時代から文明をやり直すことを決意する。
やがて私暦3年程で私のコピーでしかなかった15人に個性が出てきた。生物が生き残るコツは多様性だったのだ。
子孫のなかから私より私らしい個体も誕生し、私は『私』の座を降りる。ここ数百年で随分擦れたし、色んなものを諦め過ぎて、私はかつての『私』では最早在れなくなっていた。
『私』の席を追いやられた私は、いつの間にか『兄』になっていた。『私』らしい妹を見つめながら、ああ、兄はいつもこんな気持ちで私を見ていたのかと、寂しいながらも、やはりそこはかとなく役得な気持ちで、生きて、死んで、生きて、死に死に、生きて。
「縄文時代なら俺はモテてた」
「あはは! まさか!」




