2021/12/16手作りじゃ出せない味を
事故で頭部に損傷を負った彼は、一見何ともないがやはり壊れて帰ってきた。
猫のことをコアラと呼び、自分の名前がまるで書けない。それだけでなく私のことを全く知らない名前で呼び始めた。誰だその女。
私は憤慨した。彼は何処の誰とも知らない奴に勝手に壊され、挙句私の名前を忘れのうのうと帰ってきたのだ。何て憎い。私は散々喚いて抗議するが、彼も困り顔だ。
その日から私はジョセフィンヌになり、ハンナになり、ソフィアになる。1時間前にハナコと呼ばれたと思えば次はラユラユと呼ばれる始末。マジで誰だ。
耐え兼ねた私は彼を捨てることにした。幸い、まだ部品はある。
「私はまたまだ諦めませんよ」
安心させるように微笑んだつもりだったが、培養槽に反射した私の顔は引き攣っていた。中のオリジナルの彼はピクリともしない。
記憶を植え付け感情をプログラミングし、私は新しい彼を作っていた。慣れた手順だ。
その作られた彼が段々私の理想に侵食され、改悪されているような気もするが、私はやめられない。時々分からなくなる。元々の彼は、本当に私のことを名前で呼んでいたのだっけ?
やめないつもりだった。第二十三号だって明日には完成して、二十二号と入れ替えるつもりだった。でも駄目だ。もう無理だ。笑っちゃうくらいに悲しい。
取り替える寸前、壊れて帰ってきたあのクローンが私を恋人と呼び始めた時、私はどうも、挫けてしまった。
二十二号はこっちの名前も覚えてない癖にね。
偶然だからこそ縋りたくなる。手を加えたわけじゃないのに、勝手に自然にそうなってくれたことが悲しいね。




