No title直線的すれ違い2022/05/21
手軽な殺し方なんて幾らでもあるのに、兄は私を端から順に食べていくことを選んだ。
非効率なんて次元じゃない。
皮を切り、肉を裂き、骨を断つ。一度で食べてくれたらいいのに、兄の胃の容量がそれを許さない。毎日ちょっとずつ、私は兄に取り込まれる。
それに気が付いたのは翌日だ。兄に食べられ、失った筈の右腕部分に感覚があった。操作することは出来ないが外気の温度や痛覚を感じるのだ。
次の日は食べられた左足もそうなっていた。兄が自らの足にアルバムを落とした時、同様に痛みを感知したことから私は摂理を悟る。
手、足、髪、耳、舌。どんどんどんどん食べられ、私は兄と感覚を1つにしていく。眼球を食べられてから私は兄を通して世界を見ていた。
兄の世界は煌びやかで、肉達磨のような私を愛しそうに見つめていた。
やがて、胴体も脳みそも食べられ、私達は一体となる。兄は血も骨も余すところなく摂取したので、最早私と兄はイコールと言って過言ではなかった。
兄の苦しみも悲しみも、私は全て感じている。兄が私の写真を見て笑うその心の内を、私は知っている。
それだと言うのに、この感知は一方的なようだった。兄は私の意識を知れない。私の想いを知らないから、妹は自分を恨んだと思っているのだ。
私は兄に食べられる側でしかなく、一瞬交わった2つの直線はもう二度と交わらない。馬鹿正直に生きてきた私達は、線を曲げる方法も何も知らない。
私は、貴方に食べられて良かったと思ってるんですよ、本当に。
全身の細胞が生まれ変わるまで、最短で5年。
私が兄の中に在れるのは、あと一体何年だろうか。




