No title2022/04/23錠と鍵と怪盗の季節
執事を使い、かければ何でも隠してくれる錠を、極秘ルート手に入れた。
ビー玉のような、パンの匂いがするそれをかけると兄はたちまち消えてしまう。透明になったわけでも存在が消えたわけでもない。兄は完璧に隠されたのだ。
これで兄を盗まれることないだろう。
兄なる者を狙う怪盗から、私の元に予告状が届いたのは3日前だ。貴女の兄を頂きます? そんなことはさせるものか。
難なく朝を迎えて見ると、錠は私の手の中にあり、屋敷に侵入者の痕跡はなかった。
ざまぁみろ怪盗め! 兄はここにいる、と高笑いしたのも束の間。
「セバスチャンが攫われました!」
出生を調べ直せば、執事こそが私の実の兄だったと言う。何でだよ。
私はまんまと実兄を盗まれ、私が錠をかけた兄は共に育っただけの他人だった、そういうこと?
私は錠を開けようとしたが、開ける鍵がないことに思い至った。鍵がなくては錠は開かないのだ。
何でも開ける鍵を入手する極秘ルートは既に凍結しており、記憶喪失になったセバスチャンが山中で見つかり、セバスチャンは錠に関する情報を全てうしなっていた。
そして怪盗は、また何処かの家の何処ぞの兄を盗んでいる。
熱い決意を胸に私は警察になり、怪盗を追った。
どんな金庫からも兄を盗みだす怪盗が、一体どんな見た目の、どんな匂いの鍵を持っているのか。私はそれだけが気になっている。その鍵で錠は開くのか。錠の中に、私の元兄はまだ居るのか。
それと、かの怪盗に、共に育った元兄の面影を感じる理由だとか。
「おのれ、セバスチャンの仇!」
「セバスチャンは死んでないだろが」
というのは全部建前で、ただ貴方が、実兄を盗んだ訳を知りたいだけだったりして。




