Notitle2021/12/11死神は同じ顔をしている
私はよく迷子になった。私の歩いている道は道じゃなく、自分の手を引いていたのが人じゃなかったりした。
あまりに危険を感じたので引きこもるも、私は家の中でさえ人知れず迷う。扉だと思い身を乗り出した先が2階の窓だったりしたのだ。
半狂乱の私を抑え、兄は手早く窓を閉めた。
私は必死に兄に縋りつく。怖かった。死ぬかと思った。
兄の手を掴んだ途端、幻覚が消え元通りの景色が現れた。
迷子の私を見つけ出すのはいつも兄だった。いつどこに居ても兄は私を見つける。いつも、私の見る世界ではそうだった。
しかし私は気付いている。先生やご近所さんの目が不気味な優しさで濡れているのは私が狂っているからなのだ。
本当のところ私は自身が病気だと知っている。悲しいけど、兄なんていない。兄は幻覚だ。兄を探しに彷徨っているようで、兄に見つけて欲しくて迷子になっていることも知っている。
私は正気だ。
だから、私を2階から突き落とそうとしたり、私の手を引く男は決して兄じゃないし、和室にある遺影も幻覚だ。
後追い自殺なんてしてやるもんか。
迷い出た工事現場近くで、気付けば青空を背景に鉄骨が降ってきていた。私と兄は手を繋いでそれを待っている。このままじゃぶつかる。潰れて死んでしまう。そんな簡単なことも分からず、私はただ兄に掴まれている。
その時、視界の外からやってきた誰かが私を強く突き飛ばした。
兄だった。
混乱する間もなく事態は最悪の一途をたどる。兄に触れた途端、隣の兄の幻覚が消える。コンクリートがぶつかる音に紛れて、目の前で肉が潰れる音がする。
私は正気だ。
兄は幻覚だ。
······あれ?どっちが?
けたたましい悲鳴が自分のものだと、一拍置いて気が付いた。




