No title2022/01/29
常々「悪魔に代償を捧げるなら片脚だな」と、思い生きてきたので、実際に代償を支払う段階になっても焦ることはなかった。何の代償かというと、勿論『兄の』に決まっている。
私は後悔なんてしていなかった。
たかが片脚だ。二度と愛を囁けなくなるわけでも、結婚指輪が嵌めれないわけでも、顔を見て、声を聞けないわけでもない。
むしろもう1本持って行っても良かったのに、と思いながら、以降私は片脚がないまま、そんな私を痛ましげに扱う兄と暮らしていた。
兄は何年経っても、私が靴下を買おうとするだけで顰め面をするのだった。
「大丈夫ですよ。もう片方は、サンタさん用のプレゼント受け取り窓口にしますから」
「今は8月だろ······」
なんて言いながら、その晩、靴下の片方にプレゼントを仕込まれていたのだから、私は呆れた。枕元で兄があの片脚を靴下に収めていたのだ。ホラーか?
「悪魔はサンタじゃないんですよ」
「多分サンタって名前の悪魔もいるよ······」
「もしかしてサタンのこと言ってる?」
悪魔だった兄を人に堕とす為、私が片脚を捧げたことを兄はまだ納得していないのだ。
あの時はべしゃべしゃに泣きながら私の脚を引きちぎった癖に、悪魔としての営みをなんとか行えていた癖に、この有様。
完全に人へ堕ちた兄を見て、本当、脚なんて安いものだと私は笑った。




