No title良い子良い子、安楽死
ある日、兄が2人になったので私は困った。2人の兄は複製したかのようにそっくりなのだ。もう1人増えて2人になったのか、それとも1人が分裂して2人になったかまるで分からない。
それからの毎日はおかしかった。メリーゴーランドの馬が逃げ出し、2日目海で酒が釣れ、3日目で木に大きな牡蠣がなる。
同じ人が2人いるというのは世界秩序的な禁忌らしく、そのことに気付いた私は、2人のうちより兄っぽくない方を力づくで部屋に閉じ込める。片方を殺そうと思ったこともあったけれど、出来なかったのだ。
途端、パタリと世界の癇癪は止んだ。こんなのでいいのか世界。この程度で良かったよ世界。
異変を人知れず収めて見せた私に、兄らしい方の兄は「良い子だ」と褒めた。
私は閉じ込めた方にもせっせとご飯を作り、何かと世話を焼いた。
世界にとっては要らない人かもしれないけど、それでも彼は私の兄なのだ。兄らしい方はそれに酷く怒るけど、私は止めない。私があの人に洗脳されてる? そんなはずない。だって、彼は魔法使いなんだから。
兄らしかった方を包丁で刺すと、それが有り得ないことのように本物の兄は笑った。全部あなたの指示通りなのに。
「初めて勝った」
死にゆく偽物の兄を見下ろして兄が言う。
それから兄は「悪い子だ」と私の頭を撫でた。額にキスし、唇をつけたまま歌うように呪文を唱える。
瞬間、空から飴が降ってきた。牛がぞろぞろと崖へ向かい、集団飛び降り自殺を決行する。海の水が月に吸い込まれ、淀み、揺れ響き、輝いて、そうして、世界が終わる。




