No title妄執な日々よ、愛よ
兄は兄だけど、私とは血が繋がっていない。長命種の私にとって、人間の兄と過ごす時間は東の間の夢のようだった。
そんな兄が、遂に死んだ。兄がいなくなってからの私は2人で過ごした毎日を狂ったようにノートに書き出していた。思い出に縋っていないと死んでしまいそうだったからだ。
ノートは何十冊にも及び、やがて専用の書斎が出来た。思い出を書き出すだけでは飽き足らず、兄の詳細なプロフィールを書き出し、欲しがっていたものを書き出し、次第に一緒に行きたかった場所を書き出す妄想日記と化していった。
兄の顔を思い出せなくなる前に似顔絵を書き、部屋の柱に大凡の身長を刻み、声を忘れないよう兄の為の歌を作った。食事は2人分用意し、兄の部屋を掃除し、兄の服を洗う。
今や、日記の何処から何処までが真実なのかも分からない。私が兄の遺骨を食べたというのは、果たして本当なのだろうか?
もう××××年も経った頃だ。
ある日ノックの音がした。開けてみれば、買い物袋を提げた兄がいた。
「生まれ変わった程度で忘れてないよな」
なんて言いながら、勝手知ったる様子で家に入り込むその姿は正しく兄だった。兄そのものだった。ノートそのままの話し方だ。嬉しくて嬉しくて、叫び出しそうなほどに耐えられなくて、私は泣いてしまう。
私の理想がここにいる。これが、私の兄なのか?
つい先日、私の書斎から数冊のノートが盗まれたばかりなのだ。




