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社会で泳ぐ

作者: 高内優都

「本日は鮎川の代理で参りました。私、梅鮫と申します」

 種族サメ、と書かれた名刺をヒレで相手に押し出す。私の顔をまじまじと見ていた目の前の魚人は慌てたように私の名刺を受け取った。このような反応はもう慣れっこで、私は素知らぬ顔でその視線に気付かないフリをする。

 動物も働くことが当たり前になったこの世界では、日々動物や魚たちが社会の歯車となって働いている。一昔前は人間のみでこの社会を回していたというが、今や人間のみの力では労働力が足りず、人間という人種は少数派となった。そんな世界の中、肉食獣や肉食魚の肩身は狭いものだ。サメが怖い気持ちはわからなくもない。しかし、私たちとて今や理性も教養も持ち合わせている存在。いきなり襲ったりなんてしないのでそう身構えないでいてほしいのだ。

「挨拶が遅れました。私は川田と申します」

 相手が差し出した名刺を見ると、種族にはマドジョウと書かれていた。ここまで細かく種族を記している魚は珍しい。普通はどじょう、とだけ書くのが一般的なのだが。

 まぁどじょうなら確かに、普段サメと接する機会なんてないだろうから少しは怖いのかもしれない。しかしそうまじまじと見られるとこちらも緊張する。……というか少し見過ぎではないか?

「あの、なにか?」

 あまりにも見つめてくるので思わず声をかける。

「あ、失礼しました。サメの方に初めてお会いしたものですからめずらしくて」

「私もどじょうの方とは初めてお会いしました」

「なんと! 私どじょうの中でもマドジョウという日本では一般的などじょうでして、ご覧のように、茶色の肌に白い点々があるのが特徴です。よく見かける種族だとは思うのですが」

「あまり淡水魚や草食魚の方と接する機会がありませんでしたので」

 気を使わせてしまうので、と言う言葉は思っていても飲み込む。

「なるほど。では今回の契約はお互いに新しい刺激になりますね!」

 ……驚いた。そんな反応はされたことが無かった。

「正直、本日は契約の解除をされても致し方ないと思ってお伺いしたのですが」

「なぜですか? あなたは別に何もしていないではありませんか」

 確かにそうなのだが。

 肉食獣や肉食魚が敬遠される社会で生きてきて、そんなことを言われるのは初めてで少し胸が熱くなった。

「それではまず、あなたのサメの種類から教えていただけませんか? その後に御社の製品についてお話ししましょう」

 話の順番が逆ではないかとは思ったものの悪い気がせず、私は自分についてどう説明するか頭を悩ませながら、勧められたコーヒーを一口、口に含むのだった。

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