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平民の私が戦闘狂な皇帝陛下を助けたら戦いよりも求められて溺愛される存在になりました  作者: 城壁ミラノ


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第一話 皇帝陛下

 ミネルヴァは皇帝陛下が馬に跨り町を視察するのを見かけたことがあった。


 その時の、皇帝陛下の凛々しい顔は忘れることができなかった。


 その顔が、石像に……!


 バスケットを落として青ざめるミネルヴァに。

 サリアはニヤリとした。


「フフ、そう。これは正真正銘皇帝陛下、ダンディアス陛下よ!」

「そんな! どうして……」

「フフ、私は美しい人を石像にして眺めるのが好きなの」

「……っ!」


 そんな理由で人を石像に。

 いい魔女だと思っていたのに。

 サリアが悪い魔女に見えてきて、ミネルヴァはひどく困惑した。


「そんな顔しないで」


 サリアは困ったような笑顔で小首をかしげた。


「いつもは少しの間眺めたら、元に戻して家に返してあげているのよ」

「いつもは?」


 皇帝陛下は? 

 不安に眉を寄せるミネルヴァに、サリアはまたニヤリとした。


「皇帝陛下には、ずっと石像でいてもらうわ」

「そんな! どうして?」

「どうしてって、気に入っているからよ」


 サリアはこともなげに言ってから石像の頬を撫でた。


「皇帝陛下よ? 凄いでしょ? あーあ、見せちゃった。隠しておくつもりだったのに」


 直立した皇帝の石像に両腕を絡ませ、得意げに笑いかけてくる妖艶なサリア。


 ミネルヴァはたじろいだ。


 そういえば今までも石像を嬉しそうに見せてきていた。

 皇帝陛下を石像にできて、見せるのを我慢などできるわけがなかったのね――

 このチャンスを逃すわけにはいかない!


 ミネルヴァは果敢に足を踏み出した。


「戻してあげてください! 皇帝陛下がいなくなって、国中が心配しています!」

「誰も心配なんかしていないわ」

「え?」


 サリアは笑いを消して冷たい視線を石像に向けた。


「そりゃあ、皇帝がいなくなったら必死に探さないわけにはいかないけどね? みんな心の中では、冷酷な皇帝がいなくなってよかったと思っているのよ」

「そんな……」


 冷酷な皇帝。


 確かに、ダンディアス陛下はそう呼ばれていた。


 少年の頃から好戦的で自分との戦いに負けた相手は容赦なく従わせる。

 ミネルヴァも皇帝陛下は戦い好きという噂ばかり聞いてきた。


 皇帝陛下ダンディアスは誰もから


 冷酷無慈悲なところがあると恐れられていた。


「このまま行方不明でいれば、皇帝は弟のレブナンがなるわ。優しい(ゆえ)に兄ダンディアスに冷遇されてきたレブナン様。彼が皇帝になることを、みんな望んでいるのよ」

「そんな、そのために? そのために皇帝陛下を誘拐したんですか?」

「フフ、私はただ石像が欲しかっただけよ。皇帝のように戦いは嫌いじゃないし、内政なんて興味ないしね」


 サリアはまた石像に腕を絡ませた。


 嬉しそうにしているサリアをミネルヴァはしばし見守った。

 けれど、やっぱりこのままではいけないとキッとして言った。


「戻してあげてください」

「だめよ」


 ミネルヴァはバスケットを拾って胸に抱いた。


「ならもう、ジャムもケーキも売りません」

「うっく……!!」


 サリアは歯ぎしりするような顔で焦りはじめた。


「い、石にするわよ?」

「石にされたら、ジャムもケーキも作れませんね?」

「くっ! あなたのママを石にするわよ!? 作りなさい!」

「ジャムもケーキもママと一緒に作っています。ひとりでは上手くできません」

「うっ!」


 悲しげな顔になったミネルヴァを見て。

 しばしサリアはうろたえて体を揺らしていたが、ついにがっくりと肩を落とした。


「わかったわよ。じゃあ、ジャムとケーキと交換よ。それと、これからも作ること。いいわね?」

「はい!」


 ミネルヴァは喜んでバスケットを渡した。


「ふう、負けちゃった。私って、良い魔女といわれるくらいだから脅しとか上手くできないのよね」

「そんなことないですよ……最初に脅してきた時の顔、凄く恐かったです」

「そう? ちょっと嬉しいわね」

「喜ばないでください」


 凄く嬉しそうにニコニコするサリアにミネルヴァはあきれ気味に言った。


「大丈夫よ、心配しないで! これからも仲良くしましょ?」

「はい。よろしくお願いします」


 ミネルヴァは警戒しつつもどうにか小さく笑った。

 サリアが話せる魔女に戻ってくれて安心もしたし。

 このまま無事に陛下を助けるためにも。

 今まで通りの態度で接することにした。


「さて、それじゃあ」


 サリアは皇帝の石像を振り返った。


「元に戻しましょ。いえ、待って。ここで戻すのはまずいわね」

「お城に」

「あなたの家に持って行きましょ」

「え!?」


 サリアはバスケットを置くと。

 両手を伸ばし石像とミネルヴァに手のひらを向けた。


 一瞬で、サリアとミネルヴァと石像はミネルヴァの家の前に移動した。


「わ、私の家にどうして?」


 ミネルヴァは辺りを確認してからサリアを見上げた。


「さあて、戻すわよ」

「待ってくださいっ」


 石像とサリアの間に、ミネルヴァは割って入った。


「お城で戻してあげてください」

「嫌よ、無理よ。お城に入るのって凄く大変なのよ。石像を持っていくなんて……今度は見つかるかもしれないわ」


 サリアは難しい顔をして言って。

 困惑顔のミネルヴァに顔を向けた。


「皇帝はあなたのものになったんだから、後はあなたがなんとかして?」


 言葉をなくすミネルヴァにニッコリ微笑んで、サリアは指先を石像に向けると魔法を当てた。


 石像はキラキラした光に包まれた。


「じゃあね! またねー!」


 手を振りながらサリアは消えてしまった。


「あっ………」


 追いかけることも叶わず。


 ミネルヴァは石像を振り返ってみた。


 人間に戻った皇帝陛下が膝をつき、驚きに目を見開いて辺りを見回していた。

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