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第十二話 皇帝と取り巻く者達

 皇帝は城に帰った時のことを思い返した。


 森を抜けて石造りの建物が並ぶ堅牢な帝都に入り、にぎわう通りを歩いていると何人かは顔を見てきた。

 しかし、皇帝と確信したような者はいなかった。

 庶民の町並みを抜け、貴族の家々を横目に見ながら、人のいない大通りを進み城にたどり着く。


 魔石でできた、きらめくような城と城壁。

 閉ざされた門に近づくと、門番がすぐに顔色を変えた。


「な、何者だ?」


 ふたりの門番は寄り固まってにらんできた。


 門番は防御魔法に秀でた者達で戦闘向きではないが、自分の鍛錬には付き合っているはずだ。

 その証拠か、よく確認しようとする目を向けてきた。


「皇帝、ダンディアスだ」


 教えてやると、ふたりとも怯えたような顔に変わった。


「ダンディアス? へ、陛下!?」

「バカな……!」


 ここでも信じようとしない。


「俺が戻ると、まずいことでもあるのか?」


 挑発するように笑ってみせた。


 ふたりともどう答えるべきかと、視線を合わせた。


 その隙に、横をすり抜け門に片手を伸ばした。防御魔法が発動し発光とともに手に鋭い痺れが走る。

 今度は手刀に魔力を纏まとわせ、勢いをつけて門を突いた。耳障りな衝撃音とともに、さっきより激しく発光した。ヒビが入ったかのような発光だったが、防御魔法は消せなかった。


「や、やめろ!」


 門番達が防御魔法を身に纏った体で、門をかばった。


「体を張って城を守るとは、さすが我が兵士だ」


 褒めながら後ずさる。

 門番達は立派だが、話は前に進みそうにない。

 城を見上げると予想通り、攻撃に気づいた家臣達がちらほらと、そびえ建つ塔の窓からこちらを見ていた。


 自分を咎とがめたレブナン寄りの側近と目が合った。

 一瞬目を見開いたが、すぐに顔をそらし姿まで消した。

 自分と認識しておきながら――


 やはり追い出すつもりか


 怒りはそれほど湧かなかった。

 それよりも側近が顔をそらす前に見せた、苦悩するような表情と悲しげにも冷たくも見える瞳が、胸を刺した。


 本当に、レブナンを皇帝にしたいと思っているのか。


 考えて立ちつくしていると、剣を手にした戦闘兵が数人駆けつけてきた。

 動くな覚悟しろと次々に叫び、魔力のこもる剣を振るい衝撃波を浴びせてきた。

 横に身をひるがえしてかわし、距離をつめて腹に魔力を喰らわせていく。

 弾き飛び倒れた兵達と硬直している門番。城から増援が来ることはないようだった。自分と戦わせるのをためらっているのか、やはり優しいレブナン寄りの者ばかりだなと小さく笑った。


 レブナン。が指示しているのだろうか。


 もう一度城を見上げるが、レブナンの姿はなかった。


 自分に姿を見せる勇気がないのか、自分から守ろうとする家臣にとめられているのか。控えめな性格のレブナンの考えや行動を読み取るのは難しい。

 皇帝の座を奪うような、野心がないのだけは確かなはずたが、それも周りに迫られれば流されるかもしれない。


 なんにしろ、これ以上、この場に立ち尽くして考えている気もなくなり、騒がしくなった町を足早に抜け、ここに来たのだった。


 語り終え、皇帝は目を閉じてため息をついた。


「子供の頃からの側近に無視されたのは、さすがに堪こたえたぞ」


 うわ言のような呟き。

 ダグは辛くなり視線をそらした。しかし、すぐに励ますように笑顔を向けた。


「年を取ると、考えが平和的になるものですよ」

「……だとしても、ひとりも味方がいないとはな」

「若い者の中には、私のように陛下に心酔している者もいますよ。しかし、皆実力者ですからね。陛下の捜索と行方不明ということが他国に知られるのを防ぐために、今は国境の砦まで出払っているのです」

「そうだったか……皆に迷惑をかけているな」


 皇帝は兵士たちだけでなく、国中を想った。


「迷惑などと思っていません。心配しているだけです」


 皇帝が珍しく弱気な視線を向けると、ダグは力強く見返した。


「本当か?」

「この耳で聞きました。個人的に交流がありますからね」

「やはり、お前のところに来てよかった」


 ふたりは笑みを交わした。


「これから、どうなさるのです?」

「城に戻っても(らち)があかないからな……」


 ダグが跪いて見上げるなか、皇帝はまた目を閉じて腕と足を組んだ。


 沈黙はそれほど長くなく、皇帝は言った。


「兵士になるとしよう」

「兵士……?」


 頭が追いつかず固まるダグに、皇帝は笑いかけた。


「ずっと……一兵士となって、兵士たちの中に入って戦いたかったのだ」

「………しかし、そうしているうちにも、皇帝不在の問題が」


 皇帝の無邪気な笑顔に戸惑っていたダグは、なんとか問題を口にした。


「レブナンが皇帝になってもよい」

「いっ、いけません!」

「いけないか?」


 首をかしげる皇帝に、ダグは慌てた。


「いえ、レブナン様に問題があるということではありません。ただ、そうではなく、こんな形で皇帝を退くなどいけないと申したかったのです」

「うむ、まぁ、落ち着け……」


 皇帝はダグから目をそらせて考えた。


 こんな形でと言うが、いい機会だと思えた。

 望み通り、皇帝を退いてやろう。

 一度決めたら決意が揺らぐ性格ではなく、ダグにわからせるのは後にして、もう先のことに目を向け始めた。


「ダグよ。皇帝の座をどうするかの前に、こんな形に仕向けた魔女に会いたい」

「この森に心当たりの魔女がいます」

「案内してくれ」


 魔女がレブナンよりの臣下の手先だった場合は、それ相応の対処をしなければならない。

 レブナンにも。そうなれば、皇帝に戻らなければならない。

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