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1-2 再会

恒星暦567年10月25日 地方暦56年12月25日

惑星メダリア 自治都市メダリア


 恒星間異動を基本とする軍は、赴任期間は長めに取られている。無論、それを使い切った場合、赴任先でどう思われるかは別である。何をおいてもすぐに着任するのが筋である、と思う上司もいれば、地元や家族がいるなら、赴任期間を1ヶ月程度残しているのなら一週間くらいゆっくりとしてもいい、と思う上司もいる。

 割合はその勤務地によって微妙に変わるが、士官学校に寄港していた巡航艦ジノシマ艦長は前者であり、士官学校所在地から惑星メダリアまでの距離、そして惑星メダリアをしる機動歩兵大隊の士官達は後者だった。

「着任は、正月過ぎまで待ってもらえるんだ。」

 内示をもらったあとの大隊長、中隊長との超光速通信を介したメールのやりとりを要約して、ケンタは叔父のヒロシに伝えた。

「というより…叔母さん、サトコさん、マサヤ君お先にどうぞ」

 宇宙港と地表を結ぶ超光速エレベーターの扉が開き、中から観光客が出たのを確認して、ケンタは話を中断した。連邦軍の軍服を着たケンタを観光客達はギョッとした目で見て、そののち各種感想をその眼光に含ませる。ケンタには、その眼光の意味を理解できるほど、惑星メダリアになれていなかった。士官学校があるアステロイドベルトはそもそも人外魔境だったし、入学まで住んでいた町は、軍港都市であり、艦隊士官や軍港関係者が多数住んでいた。その町では、連邦軍軍人は公園に植えられている樹木程度に当たり前の存在だった。

 そういえば、どうしてあの軍港都市から叔父家族は引越したのだろう。ここに比べれば天国のような住環境だったはずなのに。髪を伸ばし白髪が目立つようになった青い髪の叔父を見ると、叔父は微妙な笑みを浮かべた。

「きどうえれべーたーはすごいんだよ」

 マサヤが目を輝かせ、小さな腕をぶんぶん振りながらケンタの思考を断ち切った。

「お腹がふわってして少し気持ち悪くなるけど、あっという間にうちゅうをいききできるんだ。」

「へー、マサヤ君は物知りだね。」

 閉まる扉の先に鞄を持ち艦長について小走りで走る同期と目が合い、軽く敬礼を送る。きっと彼女はこれから色々経験するのだろう。まあ、50年後に退役するんだったらこの1ヶ月なんてたいしたもんじゃないはずだ。

「将来は学者さんになるのかい?」

「僕はうちゅうせんかんのかんちょうさんになるんだ!」

「すごいね~。」

 宇宙戦艦の艦長か…機動歩兵勤務を最初に選んだ自分にはまず無理だろうな。あれは1級宇宙航行者免状を持っていなければならなかったはずだ。眠気をこらえながら受けた航法術の授業で教官が言っていた言葉を思い出しながらケンタはぼんやりと思った。

「ケンタ君は何を目指しているの?」

 サトコがいきなり直球努ストレートを固い声で投げてきた。

「なんだろうね。」

 どうでもいい、という口調でケンタは頭一つ小さい従妹の顔を見つめた。将来など今はどうでも良かった。卒業し、階級章をもらうまで重くのしかかっていた放校の恐怖から解放されたばかり。将来の軍歴を考えるより今を楽しみたかった。

「まずは、旦那さんかな。まあ、まずは結婚相手を探すことだろうね。」

 父親が当然と感じ、母親の悲願であった士官学校に合格するため、苦手な学業に励み、いい子を演じた。一日でも早く父から離れるため飛び級で士官学校に入学したあとも大変だった。周りは3歳から4歳年上の同期ばかり。そんな大人な同期であったも士官学校の生活は厳しいものだったようだ。校風になじめず早々に退校して連邦市民権を得ることを諦めた同期は1年目で1割を数えた。成績不良で無念にも退学させられ一兵卒として校門を出て行く友人も十人や二十人ではきかなかった。素行不良で憲兵隊に連行され軍刑務所にはいった親友を見送ったこともあった。

 士官学校の灰色な5年間で達観したことは、20歳の若者にしては異常な考え方かもしれない。さっさと結婚して子供を何人か産んでもらい、さっさと子育てを終えて一日でも早く義務に追われる人生から解放されること。

「結婚?」

 従妹も20歳のケンタが突拍子もないことを口にしたことに驚いたようだった。叔父夫婦も言葉を話す犬をみるような顔でケンタを見つめた。

「そ、結婚。さっさと結婚して生物としての義務を果たし、義務年限を終えて士官学校卒業生としての義務を果たし、あとは気楽に生きたいのさ。」

「少尉さんなんだから、任務に邁進するとかそんな言葉しか口にしないと思っていた。」

 軌道エレベーターの全周はモニターとなっており、宇宙空間から地上にどんどん近づいているのがわかる。中等教育機関を過ごした軍港都市に比べたら、軌道エレベーター周辺の景色は、あきらかに空き地が多かった。居住化処理を終えた惑星では居住地域、工場地域を除けば森林地帯を酸素供給の観点から設置するが、この惑星には、赤茶けた大地があまりに多すぎた。

「任務?ほっといても士官学校を卒業したから6年の義務年限があるからね。6年はちゃんと頑張るよ、多分。知らないけど。義務年限期間中に退役したら学費を返還しないといけないからね。義務年限期間中に退職するデメリットは大きいからね。そのデメリットを許容できるほど流石に僕もそこまで金持ちじゃない。でも、それが終わったら自由だ。その頃には大尉になれている頃だ。そしてまだ26歳。ある程度好き勝手出来るくらいは貯まっているだろうし、義務年限が終われば連邦大学への編入権や連邦行政機関へ優先的に採用される権利が出来る。進学や転職のため退役するにしろ、現役を続けるにしろ、さっさとそれまでに気に入った相手を見つけて、結婚して、あとは人生を楽しみたい。」

 品行方正であるはずの士官学校卒業生らしからぬ台詞を聞き、サトコは目を見開き、暫くして、一家とケンタしかいないエレベーターの中で可愛い笑い声を上げた。

「ケンタ君は面白いね。」

「そうかな、そんなもんじゃないの?そのために出会いの多い機動歩兵科を選んだようなものだし。」


 軌道エレベーターは雲のなかに入ったらしく、周りは乳白色の景色に包まれる。でも、一瞬でその景色は通り過ぎ、薄暗い地表が近づいてきた。雨が降っているらしく、雲の下は灰色の景色だった。

「サトコさんはどうなの?中等教育機関を終えたあと、職業訓練学校に行くか、高等教育機関に進学するか、そろそろ進路を選ぶ頃でしょ?」

 その言葉を発し、まわりの雰囲気が変わったことにケンタは気づいた。どうやら、対装甲歩兵地雷を踏み抜いたらしい。それも特大の。父親、母親、サトコ、全てが顔色を変える。マサヤだけは手足を休み無く動かしながら、誰も真面目に聞いていない数百年前の2次元動画のヒーローについて母親にたまに同意を求めながら話し続けていた。

「でね、あかいれっしゃぁとかががったいしてロボットにへんしんしてね…」

「まあ、好きな道を選べばいいんじゃない?僕みたいにさっさと進路を決めるのも人生だけど、なんせ人生100年だから、まあ明日人生を決めなくてもね。」

 とっさに目をそらした先には惑星で一番栄えているはずの軌道エレベーター周辺地域が見えてきた。軍港都市とは大違いだった。住宅地と工場と森林地帯のバランスのとれた景色は眼下の地面には存在しなかった。住宅密集地、というわけでもない。父親に連れられていろいろな基地所在地を巡ってきたが、ここまでの景色ははじめてだった。

「何というか、」

 そのうち住宅地が広がるだろう空き地と、そのうち工場が建設されるだろう空き地。空き地、空き地、空き地。植民されて100年近く過ぎている割には寂れすぎていた。軍の演習場と思われる広大な空き地と森林、そして空き地。惑星メダリアへのケンタの第一印象はそれだった。

「人生色々あることだし。きっとそのうち決まるさ。自分で決めるだけが人生じゃないし、何かが起きてやりたいことが見つかるかもしれないよ。」

 気まずい雰囲気のまま、軌道エレベーターは地上に近づいていき、やがて停止した。

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