7 世界樹
一年前と同じように襟を掴まれ親犬が子を連れ回す時のように運ばれている。
トキマルさん『世界樹』って言ってたけど……
「気になるかい?」
心を見透かすように問いかけられた。
「いいです。どうせ聞いても答えてくれないだろうし……」
「おいおい、随分とイメージが悪いな……世界樹では俺は英雄なんだけどな、ほら奥の方に大きな気が見えるだろ?」
トキマルさんが指さす方向には山よりも高く聳え立つ一本の大木が見える。
僕の家からだって見える有名な神木だ、確か父様が神様が地上に降りてくる際に使う場所だって言ってたような。
「あの木のことは知ってますけど……それが何か?」
「そこが俺の拠点だ、そこへ向かってるんだよ」
「じゃああの大木が『世界樹』……」
「さて、ちょっと衝撃があるよ……」
衝撃?
ドンッ!!!!!
トキマルさんがそう言った直後、強い突風で煽られたような衝撃……いや、風なんてもんじゃない、全身に分厚い鉄板を押し当てられたみたいな重たい圧がかかってきた。
「くぅ……すごい……」
咄嗟に言われたせいで無防備だった……思わず身をのけぞらせた。
「ふふふふ……やっと人間らしい反応が見れたよ」
「えっ、この衝撃まさか、わざとですか?」
「いやいや、今のはね、世界樹に悪いモンスターが近寄らないようにするための結界だよ、人間には無害だからスピードさえ緩めれば普通に通過できるんだけどね」
「じゃあやっぱりわざとじゃないですか……」
「あっはっはっは! 君ならこれくらい全然耐えれると思ってたからさぁ、時間短縮だよ」
嘘だ……すごく嬉しそうな顔してるし、僕が怯むのを見て絶対に喜んでる……
「さあもうすぐ着くよ」
あっ、そんなやりとりをしているうちに大木の近くまで進んできてる。
っていうか……
「でかい……」
遠くから見てても山よりの高さのある木なんだから相当の高さだってことはわかってたけど、近づくとその壮大さは言葉に表せないほどの迫力だった。
どれだけ見上げてもてっぺんが見えない……そして太さもすごい……
間近で見たら巨大な木の壁に塞がれているようだ……
「トキマル様、ご苦労様でした!」
木をくり抜いて作られた扉の前で待機していたトキマルさんと同じくらいの歳の男の人がトキマルさんに挨拶をした。
「ただいま〜、例の少年、連れてきたよ〜」
そう言うと待機してる男が、僕のことをじーっと見回してきた。
「う……」
ちょっと嫌だな……こんな風に観察されるの。
「お〜なんだかよくわからないけど、すごく強そうには見えない子ですねぇ。懺刃組を全滅させてしまったなんて思えないですけど……」
「でしょ? でも本当なんだよ、めんどくさがらないでちゃんと素質を見てやってよゴル、すごいんだよ」
「トキマル様の言っていたことだけで十分わかったんで俺はいいです、面倒なんで……」
「あっそう……」
このゴルって人、変わった人っぽいな……
トキマルさんの方が上の立場みたいだけど全然そう感じない……威厳がないのかな。
「じゃああとはトキマル様に変わって俺がこの子の案内をするんで……」
「えっ!? トキマルさんは?」
ゴルさんと二人で行動になるの嫌だなぁ。
「悪いね、俺は多忙なんだ。じゃあ後は頼むよゴル、面倒だろうけどよろしく〜」
「はい、面倒なんでさっと終わらせます」
そういうとトキマルさんは風のようにどこかへいなくなってしまった。
「あっ、行っちゃった……」
「さ、行こうか」
ゴルさんが僕を大木の中へ連れて行こうとする。
「えっと……僕はどこへいくんですか?」
「施設を案内するよ、面倒だけど……」
「それより僕はこれからどうなるんですか?」
「そっか、トキマル様。せっかちだからいつも何も説明せずに俺に押し付けてくるんだよなぁ。リミト君はこの『世界樹』の一員になるための試験を受けてもらうんだ」
「『世界樹』ってこの木の名前じゃなくて団体名だったんですか?」
「両方だよ……さ、面倒だから説明しながら歩いてくよ」
ゴルさんの案内で世界樹の中を進み出した。
「すごい、木の中とは思えないような立派な建物だ……」
僕のうちの屋敷よりもずっと古い建物だろうに、しっかりと手入れされていて悪い意味での古さを感じない。
「各施設は面倒だから説明しないよ、住めるようになったら勝手に覚えていくだろうから」
「住めるようになったら? さっき言っていた試験に合格しないとここにはいられないってことですね」
「正解。世界樹の人員はトキマル様が150名って決めてるから、一員になるためには入れ替え試験を行ってもらう、簡単に言ったら一対一の決闘だね」
「そんなことしなきゃいけないんですね……」
なんだか大変そうなんだな……別に僕が希望してるわけでもないのに……
「クフフフ……いいねぇ、リミト君も俺に劣らずのめんどくさがり屋みたいだ」
「そんなことは……ただ、戦うことに意味があるのかなと思って……」
「この人数がトキマル様が管理できる限界の人数らしいよ、それ以上は俺も知らない」
「ここにいる全員をトキマルさんが管理してるんですか? そんなにすごい人だったんだ」
「すごいよ……あの人だけは心根が読めない……」
そうなんだ……
トキマルさんがこの世界樹のリーダーだったのかな、そのことも知らなかった。
「そんな人だったんて知らなかったんで、色々失礼なこと言ってしまったかもしれないです……」
「気にしてないと思うよ、堅苦しいの嫌いな人だから大丈夫。試験受けるならこのまま申し込み行くよ、面倒だから早く行こう」
「それなんですけど……僕は世界樹に入らないといけないんですか?」
「えっ? そのつもりでここに来たんじゃないの?」
「いや……トキマルさんにここまで連れてこられただけで、一年前にダンジョンへ連れられたのもそうだったんですけど……」
「そんな感じであのダンジョンを攻略しちゃったってこと? 嘘だろ……」
「よくわからないですけど、そんなすごいことだったんですか?」
「まあそんなことはいいけど……じゃあ君はここまできたけど試験は受けないってこと? それでいいの?」
「はい……無理に争いに参加するのって好きじゃないです、僕はのんびりと寝ていられれば十分なんで」
「あっそう、まあそれならそれでいいか、その方が楽だし……いや、待てよ……こんなこと初めてだしなぁトキマル様に怒られたりするのか??」
ゴルさんが困ってる……僕が試験を受けないことってそんなまずいことだったのかな……
「あ……ああああ……」
背後から声が聞こえた……なんだろ、どこか聞き覚えのある声のような……
「やっぱり! リミト様ぁぁぁぁぁ!!!」
「へっ? あっルッカ??」
僕の使用人だったルッカが僕をみるや近づき、抱きついてきた。
「ちょっと! どうしたの? なんでここにルッカが?」
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