6 ダンジョンマスター
「其方が我ら懺刃組の同士を全て打ち破った輩か」
「いや……よくわからないですけど、勝手に攻めてきたんで相手しただけです」
「小僧が……ふざけた事を抜かすな!」
「全然ふざけてなんて……」
「懺刃組が組長、刺殺呉、参る!」
やけに渋めの刺殺呉と名乗るモンスターが魔法陣を多数浮かび上がらせた。
「『アクア!』『ソニック!』『タイタン!』」
すごい……このモンスター、立て続けに上級魔法を出せるんだ。
「とどめだ! 『フレア!』」
ズゴォォォォォォォォォ!!!
水や風、岩、炎の応酬で全く前が見えない……
「どうだ! 同志達の無念ここに晴らしたぞ!」
なんでこのダンジョンにいるモンスター達ってみんな過剰なほど自信満々なんだろう?
あっ、前が見えて来た。
僕の姿を見て刺殺呉はあんぐりと口をあけている。
「無傷!? 我の魔法が全く効いてないだとぉ!?」
「強そうなんで守っただけです、上級魔法ってうらやましい」
水属性の『オーロラ』は魔法から身を守る膜をはる。
それを無限発動させて、分厚い魔法の幕を作れば上級魔法からだって身を守ることができる。
「おのれぇぇぇ! これならどうだ!」
新たな魔法陣を僕に向けて浮かび上がらせた。
赤色の術式、火属性の魔法陣だけど見たことない形をしてる。
きっと強い魔法だ……
「うおおおおおおおおぉ!」
さらに魔法陣に力を込めてる、どれだけすごい魔法なんだ?
でも……
ズバァッ!
「グハァァァァァァッ!! なんだ? どこから斬撃が!?」
「すみません、あまりに隙だらけなんで……」
出したのはただのウィンドだけど、ちゃんと当たればそれなりにダメージを与えられる。
「魔法陣が見えなんだ……貴様、そんな技術まで……」
「苦労しましたけど、このダンジョンでたくさん襲われたんで……」
「ぐっ…………トキマルめ……話が、違う…………」
消滅していく刺殺呉からボトリと料理がドロップされる。
「うわっ、凄いなこれ……」
王宮仕立ての豪華なテーブルにとても一人じゃ食べきれないようなフルコース料理が飾られている。
早速頂いちゃおうかな。
ズズズ……
黄金色に輝くコンソメスープ。
口にした瞬間、洞窟の中にいることを忘れるほど爽やかな味わいが広がった。
すっきりとしてるのに舌に絡みつく牛の全てを出し尽くしたスープ。とんでもない旨さだ……
トキマルさんにこのダンジョンに連れてこられてから、もうずいぶん経つなぁ。
モンスターは寝てる時すら関係なく引っ切りなしに襲ってきた。
モンスターを倒して行くたびにドロップされる食事が豪華になっていって今じゃ一回じゃ食べきれないほどの量の食事になった。
思えば最初はただ僕を見て突っ込んでくるだけだったモンスターばかりだったのに、徐々に魔法を使ってきたり会話ができるモンスターまで出てくるようになってた。
なんとなく放り込まれたように感じたこの場所だったけど、結構考えられたのかな。
お陰で今はちょっと襲われたって平気で寝れるようになるくらいに慣れた!
ふわぁぁぁぁ……
食事中だってのに眠くなってきた……
やっぱり僕は何よりも寝ることが大好きだ。
「おーい……」
ん? 夢かな?
もしかしてさっきモンスターを倒したばかりなのにまたモンスターが襲ってきたのかな?
まぁいいや……ウォールとオーロラを重ねがけしてるから多少やられても大丈夫。
本当にやばそうな相手だったらきっと目も覚めるだろう……
「…………えに来たよ〜」
「もしも〜〜〜〜〜〜し……」
「起きろ〜〜〜〜!」
しつこいなぁ……
これじゃゆっくり寝られないじゃないか……
もう、めんどくさいけど、さっと倒してゆっくり寝るか……
「あっ、やっと目を開けた」
「あれ……トキマルさん」
この人がいるってことはもう約束の時が来たってことか、確か一年だったかな。
「見た目はあまり変わってなさそうだね……元気そうで何よりだ」
「トキマルさん……ですよね?」
さっきの刺殺呉ってモンスターはトキマルさんの名前を知っていた。
姿を見たことあるモンスターが擬態してるかもしれない……
「おお〜〜成長してるねぇ……疑うだけじゃなく魔法陣を隠す術まで自力で学んだんだね、そりゃここのモンスターを片っ端から倒してしまうわけだ」
「えっ、僕の魔法陣がわかったんですか?」
このダンジョンに入ってから魔法を放つ時に浮かび上がらせる魔法陣を隠す方法を覚えた。
魔法陣は情報のかたまりだから、それが見えてしまうとどんな魔法をこれから放つのかが相手にバレてしまう。
何をしてくるかわかってしまえば対策なんて簡単に取られてしまうからこの技術だけは僕なりに必死に覚えたんだ。
このトキマルさんが本物かどうかわからないけど、見えないように向けていた魔法陣がこの人に初めて見破られた……
「超高等技術だよそれ。『魔法陣の透過』って言うんだ……って、うわっ!!」
この人が本物かどうかはわからないけど、本物ならこの|ウインド(風属性低級魔法)くらい避けれはず。
パシィィ……
ウインドを使って作った風の刃をトキマルさんは二本指で真剣白刃取りした。
「おお……魔法の威力もずいぶん上がってる……このダンジョンでのんびり寝てられるのは実力が着いたからってことか」
「そういうのやめてください……」
とった行動を一つずつ分析されていくのは気持ち悪い……
「俺のこと思い出してもらえたかな?」
この試すような話ぶり……ちょっと意地悪な性格、一年前にちょっと会って会話しただけだったけど、忘れるはずもない……
「はい……きっと本物のトキマルさんだと思います……」
「ふふふ……よかったよ認めてもらえて、じゃあ改めて。お疲れ様、このダンジョンはたった今を持って終了だよ」
「え……そっか、そうですよね……」
「あれ? もしかして嫌なの? そんな人初めてなんだけど……」
正直ここでの生活も悪くないって思ってしまっていた。
「まぁここならゆっくり寝れるし、食事も美味しいんで……」
「そんなこと言う人リミト君しかいないよ……」
「なら僕はこのままでも構いませんけど……」
「いやいやそうはいかない」
グイッ……
一年前と同じくトキマルさんに襟元を掴まれた。
「このダンジョンを作った俺が言うのもなんだけど、これ以上高級な食材を転送するのは正直厳しいからこれで打ち止めだ。モンスターももう倒し尽くされちゃったしね」
「食材ってドロップしてたんじゃなくて毎回作ったのを転送してくれてたんですね」
「そりゃそうさ、普通モンスターを倒したって食べ物が出てくるはずがないだろ。強さに応じていい料理を出すようにしてたんだけど、君のおかげで大赤字だよ」
「すみません……」
「まあそんなことどうでもいいんだ、じゃあ出発するよ」
「出発? どこへいくんですか?」
「世界樹。俺の拠点だ」
そう言うとトキマルさんは一年前と同じくとんでもない速さで走り出した。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
少しでも興味を持っていただけたようなら、ブックマークや下の☆にチェックしていただけると励みになりますのでよろしくお願いします。